第4話パン屋さんをなめてはいけません

「パン屋さんをバカにするんじゃない‼」


 我ながら大人げなく声を出してしまう。


「ヒィィィィ‼」


 目の前の女騎士が、オレの怒気を込めた迫力に思わず後ずさる。


「――いいか!

パン屋はな、体力、根気、デザインセンス、数字を扱う計算力、探求心、あらゆる能力が問われる大変な仕事なんだ!


――未知の味、

――口当たりや噛み応えという食感、

――食材と生地の組み合わせ、

――思わず手に取りたくなる見た目、

――トングで持ったときの重量感、

――いくらで売るかというのに値段、

――どこにどのように置くかというレイアウトなどなど……考えたらキリがない程に、この小さなパンには情熱や想いが詰まっているんだ!


 それを子供でも作れるから、とバカにするのはパン職人として見過ごせん暴言だ‼」


「……はっ‼」


 いかん、言い過ぎたと我に帰る。

ついパンの事になると熱くなってしまうのはオレの悪いクセだ。

……いい加減直さないとな。

と自省していると


「ごめんなさい、ごめんなさい!ごめんなさい‼」

と女騎士が全力で頭が取れてしまうのではないかという程に凄まじい勢いでペコペコと謝っていた。


「い、いや……こちらも言い過ぎたよ、ごめん」


「申し訳ありませんでした。

パンにそれほどの情熱を注ぎ込まれているとは露知らず、知らなかったとは言え、無礼な発言をしてしまい……誠に申し訳ありませんでしたああぁぁ!」


「う、うん……」


 なんか店先に人が集まってきたし、あまり騒がないでほしいな。

しかし、集まってきた人たちを見るとやはり日本じゃないみたいだ、昔外国の資料で見たような服装や道具をもつ人たちだらけだ。

まさか……本当にここは違う世界なのかな?

もしくはタイムスリップしたとか⁉


「え、えーと……。

じゃお詫びにってわけじゃないけど、この国や街について教えてくれないか?

何もわからなくて……」


「……は、はい⁉

わかりました。

えぇと……この国の名はブーランジュ。

この街は首都パリスといいます。

本当にご存知ないのですか⁇」


「知らねぇぇぇぇ‼

やっぱりここ知らないとこだ〜‼‼」


――まマまマ、まじか‼

 本当に知らんとこに来ちまったのか⁉

世界中のパンを学ぶためにあらゆる国や地域の、それにパン屋を取り巻く知識はあるが完全に知らんし、わからん!


――いや、まずは落ち着けオレ!


 わからんならわからんなりに、調べるなり、学ぶしかない‼

とりあえず色々この女騎士さんに聞いてみよう。



「ここらで仕入れとか出来る場所ってどこにあるのかな?」


「市場のことですか?

市場なら街の南にありますが……」


よし!仕入れは期待出来る!


「水はどこにある?」


「この裏手に井戸があります」


よし‼諸問題はあるかもだがとりあえず供給元はある。


「電気は⁉」


「デンキ……⁇

なんですか、それは?」


「………ガスは⁇」


「ガス……なんのことだかさっぱりです」


ああああああ‼‼

やっぱりかああああああ‼⁉


 中世ぽいからそうじゃないかと思ったよ!

電気とガスが無いとパン屋をやろうにもどうしようもないっ‼

 オーブンはガスと電気の併用、生地を捏ねるミキサーも整形補助に使うモルダーも全て電気を使う、ほとんどの機械が使えねぇーっ‼‼


はっ!

やばい!冷蔵庫も冷凍庫もだ……‼

食材の保管ができない‼


「どうしよぉぉぉ‼⁉」


「とっ、取り乱しているとこ悪いんですが、ちょっと……⁉」


「う、うっ……ぐすっ……」


「ええっ⁉

な、泣かないでください……。

なんだか私が悪くないのに罪悪感が出て困ります。周りの方の目もありますし……」


「うぅ……だって、一生懸命育ててきた酵母、生地や珍しい食材達がみんなパアになるんだぞ?

この無念さときたら……絶望だ、この世の終わりだ……」


「食材の保管が心配なんですか?

それなら氷の魔石を使えばいいと思いますよ」


……魔石?なにそれ⁇

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