第3話 クリームパンとオキャクサン?

 目の前に広がる見たことの無い街並み。


 もしかしたら見間違いではないかと期待し何度も確認するが、どうやらやはり見間違いではないようだ。

 そう思うと鼓動がバクバクと速くなっているのがわかる。


どどどうなっているんだ⁉


おおおおちつけ、落ち着けオレ。


これはきっと夢だ。

もしくは……いや、やはり夢なはずだ。

ひとまずシャッターを閉めよう。

なんだかすごい注目されているからな。



――ガラガラガラ、ピしゃん! 閉店‼


 ふぅ……。

オレも疲れてるんだろうな。

かれこれ18歳の頃から約15年、ほぼ休みなく働いてきたからな……

おかげでいまだに独身だし……。

 とりあえず仕込みは一回止めて確認するとしよう。


『ぐぅ~……』


(なんか腹が減ったな……とりあえず品物にならないダメパンを喰うか)


 毎日パン屋では必ずロスが出る。

正直これは頭が痛い問題だ。

見た目が揃ってないといけないし、生焼けだったり、焦げすぎてもいけない。必然的に売れ残り以外にロスが出るのだ。

 それらを総じてダメなパン、略してダメパンと呼ぶ。



もぐもぐもぐ……ごっくん。



うん、美味い!

我ながらやはり自慢のクリームパンは美味いな!


 今オレが食べたのはクリームパン。

こだわりにこだわった、しっとり口溶けの良い生地とさらりと舌の上で溶ける上品な甘さのカスタードクリーム。

 ボリュームたっぷりにクリームを包んだ、うちの店自慢、人気商品の1つだ。

生地に砂糖やバターが多い分、少し焦げ色がつきやすいワガママなやつだが、オレはこいつが大好きだ!

 

 なめらかに一体になるカスタードクリームと生地がゆっくりと歯、舌、口内、のどを刺激しながら腹の中へ飲み込まれていく。

喉ごしの良さがカスタードクリームパンの美味しさを決める重要な要素だ。


さて……腹もふくれて落ち着いたところで冷静に考えよう。

シャッターを開けたら違う世界。

――そんなことは、まさかあるはずがない。

漫画や小説じゃあるまいし!

開けたらいつもの常連さんたちが待ってくれているはずだ‼



……よーし、気を取り直して開店だ‼

ガラガラガラ!


「いらっしゃいませ!

ベーカリー・コムギ、開店いたしまーす!」


いつものように開店の挨拶をする。



――が。

違っていたのは目の前に鎧を着たブロンド美人が目を血走らせて立っていたことだ。

外国の人かな、こんな朝から来るのは珍しい。


「おっ‼

お客さんがやっときた‼

いやぁ……安心した‼」


「オキャクサン?

何を言っているかわかりませんがこれは一体なんですか⁇

誰の断りを得てここにいるのですか⁉」


「え、うちはもう何年も前からここで店をやってますよ?

となりの佐々木さんや向かいのお肉屋さんに聞いてくださいよ?」


「ササキサン?肉屋?そんなものはありませんよ⁉さっきから一体何を言っているんですか⁉」


「そんな馬鹿な……。

………。

やっぱり夢か……?


いや――何度見てもさっきの景色だ」


 女騎士さんの後ろには先程の見たことない街並み。それを見た瞬間に身体中の力が抜け、はぁあ〜……とため息をつきながら膝を落とした。


 目の前でオレが脱力する様子を見ていた女騎士さん。


「やっぱりあなたかなり怪しいですね、ちょっと同行願います」

とオレの腕をむんずと掴み連れていこうとする。見た目によらず、すごい力だ。


「イヤだ、留守番も立たせずに店を放置するなんて!」


 店の柱にかじりつき、駄々をこねるように拒否の態度を示す。


「いいから来なさい!早く‼」


「い・や・だー‼‼」

 やっと建てた俺の城なんだ、なにがなんでも失いたくない、危険にさらしたくない‼

涙目になりつつ必死に抵抗する、、。


「はあ……ちょっと話を聞くだけです、何も泣かなくてもいいでしょう。

私が悪いみたいじゃないですか」


「悪いよ!いきなり人の城にいちゃもんつけたり、オレを連れていこうとするし!」


「私の職業(ジョブ)と任務なのですから仕方ありません!」


「俺だって職業は『パン職人』だ、ちゃんと仕事だもんね!!」


子供のような言い合いになる。



「パン職人?そんな職業は聞いたことありませんが……?」


「……は?そんなわけないだろ」


「いや、パンなんて誰でも作れるじゃないですか、なんなら子供でも作れます。そんな職人なんて………」

 呆れるような小馬鹿にする言い様と彼女の態度にオレはたまらずに声を荒らげた!



「パン屋さんをバカにするんじゃない‼」

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