賢者襲来⁉いざノース山脈へ!

第104話 カマ=ン=ベール

 少しずつ配給により人々の生活が回復し、街には活気が戻ってきた。今日オレは中央研究所ではなく、騎士団からお呼びが掛かり登城していた。

 ついでというと不敬かもしれないが皇帝にも呼び出されていたため執務室に入り、話を聞こうとしているとバタバタと廊下からけたたましく走る音が聞こえてくる。



「大変です!

け、賢者様が……いらっしゃいました‼‼

皇帝陛下、お早く!」


 いつも見る文官さんが血相を変えて部屋に飛び込んでくる。その言葉を聞いた皇帝はサーッ、と一瞬で青ざめた顔になる。


「なななっ―‼‼

なんだとおおぉぉぉぉぉ⁉⁉⁉


い、一体、何の用だ⁉

いや、そんな事より早く――」


「え、一体どうしたんですか?」


 耳をすませば廊下からは阿鼻叫喚。

何かを察した皇帝も脱兎の如く、椅子から飛び上がり駆け出す。


「なんなんだ?」


 皆が慌てふためく中、事態を飲み込めないオレは呆然と立ち尽くすしかなかった。


――バンッ‼‼‼


 壊れんばかりに勢い良く執務室の扉が開かれる。どうやらあの巨漢が開けた様だ。


ガシッ‼‼


「ひぃっ――‼」


皇帝がアイアンクローで掴まれ、プラプラと宙に吊るされる形になる。


「――あらぁん、どこに行こうとしたのかしら。カ・イ・ザー・ちゃん♪」


「い、いや……今日は腹の調子が悪くて……」


「あら、いけない‼

じゃ、とぉ〜っても良く効くこの『おクスリ』を飲ませてあ・げ・る♪」


「ま、待て……よせ……いやだああぁぁぁぁ‼‼‼‼‼


―――あっ………」


 腹に響くような低く野太い声で有無を言わさず、口から試験管をブチ込まれた皇帝がビクンビクンと明らかにおかしい程に痙攣している。


「これで大丈夫よ♪

も〜ぅ、無理しちゃダメよぉ?

あなたはこの国たった一人の皇帝なんだから、もっと自分を大事になさい」


「…………(ガクリ)」


 白目を向き、口から泡を吹く、物言わぬ屍の様に気絶した皇帝。

……本当に死んでないよね?

疑いの眼差しを犯人もとい巨漢に向け、改めて見るその姿は違和感の塊だった。

 

――今にも皮膚がはち切れそうな程に肥大化した大胸筋。

――大木から切り出された丸太のような大腿四頭筋。

――袖口から覗く太い血管と鋼のような前腕二頭筋。


 見えない部分も全身くまなく鍛えられているのだろう、モリモリと膨れ上がった筋肉の鎧を包む服は白の差し色が入った真っ赤なメイド服と三角帽子にヒラヒラとしたマント。

 その奇抜で強烈なセンスから来るインパクトに負けない、ゴテゴテとした分厚い化粧。

思わず二度見してしまう、見る者の目を引く奇抜な格好の巨漢。

――この人(男)は一体誰なんだ?


「あら?あなたは誰かしら?

初めて見るけど、いいオトコね♪」


「え、えっと……初めまして。

訳あってブーランジュ王国から参りましたコムギと申します。よろしくお願いします」


「んまあっ‼あなたが噂の英雄ちゃんね⁉⁉

一度会ってお話したいって思ってたのよぉ、会えて嬉しいわぁ♪」


「は、はぁ、それはどうも……」


「あらヤダ、ワタシったら!お喋りばかりで自己紹介がまだだったわね。


ワタシは『力の賢者』、カマ=ン=ベール。

この世に3人しかいない賢者の1人よ。

カマさん、もしくはカマちゃんって呼んでいいわ!


よろしくね、コムギちゃん♪」


「よ、よろしく……」


――賢者?

そういや、前にそんな人がいるとか聞いたな。確かすごい魔法を使えるやらなんやら……とても見えないけど。


「カイザーちゃん、大丈夫かしら?お腹痛いっていうからおクスリ飲ませたけど寝ちゃったわねぇ……これじゃ報告が出来ないわぁ」


「報告?」


「えぇ、あのコに頼まれてお使いに行ってたの。その報告よ」


 お使い?なんだろう?

興味あるけど、皇帝はまだ気絶してるしなぁ……。


「――仕方ないわ、可哀想だけどカイザーちゃんを起こしましょ♪」


「え」


何だかイヤな予感がする。

口調と目付きが明らかに怪しいからだ。


「あ、あの念の為、聞きますが……どうやって起こすつもりですか?」


「――んふっ。こうやってよ♪」


 すると、カマさんは横たわる皇帝の頭を両手でそっと押さえる。そしてゆっくり自分の顔を近づける……ま、まさか⁉⁉

 溺れたり、気絶した相手にやる『アレ』か⁉

見たくないの『アレ』を見させれるのかとげんなり思いながらも凝視してしまう。

 

 少しずつ……ゆっくり、ゆっくりと2人の頭が近づき………。



ガツン――ッ‼‼‼



「――痛ってえええええぇぇぇぇ‼‼‼⁉」


 カマさんは気絶していた皇帝に全力のを食らわせ、目覚めさせる。

何故かはわからないが、オレはホッと胸をなでおろした。


「おはよう♪カイザーちゃん、目は覚めたかしら?」


「カ、カマ……⁉

くっ……やはり夢ではないようだな……」


 床をダンッ、と残念さをぶつけるかの様に叩く皇帝。見てるこちらからすれば、乾いた笑いしか出てこない。


「目が覚めたところで、お願いされてた件の報告したいんだけど……いいかしらぁ?」


「っ‼⁉

あ、あぁ頼む――聞かせてくれ」


 皇帝は平静を取り戻すと椅子に掛け直し、神妙な面持ちで報告を聞く姿勢になる。

オレは退席しようとしたが構わないとの事なので一緒に報告を聞くことにした。


「頼まれてた、あの亀の魔物達を念入りに調べたら不思議な事に全個体、妙に魔力量が多い事が解ったわ。

 原因はわからないけど――もしかしたら、何かしらの影響で魔力が増え、それが巨大化に繋がったんじゃないかしら?」


「そんな事があり得るのか?」


「そうねぇ……あながち無いとは言い切れないわ。ワタシも修行や研究で魔力量を増やしたら、こぉんな魅力的なピチピチボディーになれたワケだしねぇ♪」


「そ、そうなのか……」


「今のはジョークよ、もうっ!

ツッコミどころ満載なんだからちゃんとツッコミなさい!」


((どこからどこまでツッコめばいいのかわからん‼⁉))


「――まぁ良いわ。

 ここからはワタシの想像だけれど、あの亀達はもしかして『北の秘境』から逃げてきたんじゃないかしら?

 穀倉地帯は山の麓付近、その奥には『北の秘境』しか無いわ。そこで何か異常が起きたんじゃないかって思うの♪」


「……やはりカマもそう思うか、我も実はその可能性を考えていたのだ」




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