第111話 ドワーフ②谷へ

 パシェリさんがカギ……。

その言葉に疑問を抱きながら用を終えた騎士団を後にした。


 その翌日。

研究所に行く前に皇帝から呼び出され、執務室で二人きりで話をする事になった。


「騎士団長から聞いたぞ?

何やら谷について尋ねたらしいな?」 


「あはは、さすがに耳に入りますよね」


「当たり前だ、全く……。

念の為教えておくがパシェリはな、あの村からの留学生兼親善大使なのだ。

つまり帝国と村を結び、未来への扉を開く貴重な人材カギという訳だ。


――まぁそんな立場関係なく、実力主義の我が帝国の騎士団で頭角を表しという立場を得たのは本人の努力の賜物だがな」


「ただの斥候じゃなくて斥候隊長⁉

パシェリさんてすごいんですね」

(だから騎士団で他の団員から見られる目が変だったのか)


 皇帝からの説明でパシェリさんについて納得したオレだが、現状谷やさらに奥の山へ行きたいにも関わらず行けないもどかしさに気持ちがはやっていた。


「親善大使はな」


「はい?」


「本来、定期的に所属する国へ報告をせねばならん。だが任務や密約のせいでそれが出来ていない。正直、帝国としては先日の魔物の件で無事かどうか確認する必要があるのだが……あんな危険な所へ親善大使を1人で行かせる訳にはいかん、そうだろう?」


「そうですね、たしかにそう思います」


「うむ、だから誰か『魔物が襲ってきても大丈夫な程に腕の立つ護衛』を付けたいところだ」


「……もしかして」


「理由が無ければ行けない、だから裏でコソコソ嗅ぎ回る。そんな面倒な事をされるなら最初からこうゆう形を取れば良かったな。

パシェリには里帰りを兼ね親善大使の務めを果たしてもらい、コムギにはその護衛を頼む。しっかりやるんだぞ、あの村との共存は絶対だからな。

……ちゃんと帰ってこいよ」


「わかりました、必ずや無事に帰ってきます」


◇◇◇


 1週間後、皇帝からお墨付きを貰い、騎士団にも同様の通達が伝えられたパシェリさん。故郷の谷へ、さらにはその奥の魔石があるかもしれない山へ向かうため、北へ向かう街道近くの待ち合わせ場所である城門にいたのは。


「――なんでいるのさ」


「アタシも皇帝陛下からの任務であります!国賓待遇のコムギさんの身を守るための護衛であります‼」


 あぁ、そういやオレそんな立場だったな。

ドタバタ続きだったし、そもそもそうゆうの気にしないからすっかり忘れてたわ。

リーンは完全回復したからか、やる気に満ち溢れいるし……。


「パシェリさんはリーンが一緒で大丈夫なんですか?その、密約とか掟的に……」


「問題ないですよ、コムギ殿も立場が立場です。むしろ護衛が付かないと不自然でしょう。

リーンの実力や人柄は良く知ってますし、むしろ彼女で良かったですよ」


「斥候隊長にそう言って貰えて嬉しいであります!」


「やめて下さいよ。リーンが異動したから繰り上がってなった様なもんですし」


「え、どゆこと?繰り上がりって?」


 何やら引っかかるな、何かあったのか?

リーンがいなくなったから繰り上がった?

て事はリーンが斥候隊長になる可能性があったて事⁇


「たぶん、コムギさんの想像の通りですよ。

リーンが実力的にも本来なら斥候隊長だったんですが中央研究所への異動にあたり、次席の私が斥候隊長の引退にあたり引き継いだんですよ」


「て事は、リーンはパシェリさんより強いけど、パシェリさんも相当強いって事⁉」


「パシェリさんは強いでありますよ?

剣や力ならアタシより上であります」


「ははは、魔法をあまり使えなかったり能力がアンバランスなのでリーンには中々勝てないですけどね」


 軽口に聞こえるが互いを尊敬しているのがわかる位に朗らかに笑い合う二人。

実力は申し分ないし、言っても帰りそうにない位やる気になっているリーンをやむを得ず同行させる事に決め、オレ達は北の谷へと向かう馬車に乗った。


「では行きましょうか、我が故郷『ドワーフの谷』へ」

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