第21話 あれもない
「んでぇっ⁉オレに何の用だ、バカヤロウ。
また冷やかしならタダじゃすまねぇぞ」
「あの、いえ、今日は乳絞りを御願いしたくて」
「はあ⁉なんだそりゃ」
「「「「はははははは‼‼‼」」」」」
オレの一言に市場の人達が一斉に笑いだす。
どうやら冗談にでも聞こえたらしい。
「おい、あんちゃん。
乳絞りをするならエスケープゴートとカウカウだが、両方とも滅多に市場に出回らない、『超』がつくほどの珍品だ。
しかも乳が出るってことは若い、つまり獰猛で危険な個体ってことだ。
それを捕まえたなんて――ウソはいけねぇよ」
ギョロリと下からまるで威嚇するかのように怒気をはらんだ目を向けられ困惑してしまう。
「本当なんですけど……」
「はん?じゃあ連れてこいや、本当にいるならやってやるよ」
「本当だな、わかった。
カレン、シオン手伝って」
「「はい、わかりました」」
そういって市場の端に繋いでいたカウカウ達を取りに行く。すでに物珍しさから人だかりができていたが、商会の人達がイタズラ防止の護衛用員を立たせてくれていたので助かった。
少しの時間をおいて約束通り、カウカウを連れて帰ると
「「「「「ええええええぇっ⁉⁉⁉⁉」」」」
悲鳴にも似た叫び声が市場中から響いた。
いきなり貴重なカウカウを30頭も連れてきたらそりゃ驚くよな。
「ににににに兄ちゃん、これ……どう、やったんだ⁉
長いこと市場にいるがこんなに大量に――しかも若い個体ばかりなのは初めて見る……‼こりゃ腕がなるってもんだぜ……!」
「お願いできます?」
「あったりめぇだ!
誰がこんな貴重な仕事を他にやらすかよ!
こりゃスゲー額の金が動くぞ!
サービスしてやっからよ、うちに全部任してくんな!」
「じゃお願いします。どれくらい掛かりますか?」
「そうさな、今からだとこれだけの数だ。
市場が終わるまでは掛かっちまうな」
つまり一時間ちょっとか。
市場でいろいろ見てれば時間になるかな。
「わかりました、じゃそれくらいにまた来ます」
「おう。改めてオレは市場の肉部門の元締めニックってんだ。こないだは悪かったな、すまねぇ。
肉や魔物の事なら任せろや、これからも贔屓によろしく頼むぜ!」
「はい、オレはコムギといいます。
こちらこそよろしくお願いいたします」
ニックさんとがっしりと握手をする。
肉厚で筋肉が詰まった力強さを感じさせる職人の手。そして互いに職人ならではの手を感じ取るなり、ニカッと歯を出して笑う気持ちいい笑顔を互いに交わした。
「よっし、野郎共!
こいつは滅多にない大仕事だ、やるぞぉ‼‼」
「おおおお‼‼‼」
興奮冷めやらぬ、熱量を上げながら市場の職人達がカウカウの乳搾りを始めた。
「じゃカレン、シオン、待っている間ちょっと市場を見てもいいかな?」
「わかりましたっ」
「私は商会に戻り、報告してまいります。
また合流しますので――では」
◇◇◇
カレンと二人で市場をぶらつく。
前回は見落としていたのだが、スパイスがあまりない。
昔のヨーロッパではスパイスが金になる、とまでいわれるほどの高級品だったらしいから、それと同じようにあまり一般流通していないのかもしれないな?乳があまり流通して無いくらいだし、考えられるかもしれない。
そうすると『あれ』が作れない……。
うーん……困った。
よくよく色々見てると、あれもない、これもないそんな物が多くて意外と問題が山積みだと再認識する。
――うん?
なんだ、あの人だかりは……?
何事かと近寄るとそこには
獣耳の少年がいた。
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