第89話 北の魔物
マイスさんと2人で頭を悩ませていたが、埒が明かないと結論に至る。
「コムギさん、提案なのですがどうでしょう。一度帝国内の様子を一緒に見てませんか?
もしかしたら何か解決の糸口が見つかるかもしれませんし、なにかの手懸かりくらいは手に入れば、と思いまして……」
「そうですね、何もわからないのでは考えても仕方ないですしね」
「では早速馬車を用意致します、少々お待ち下さい」
そう言うとマイスさんは部屋をバタバタと出ていった。
部屋に取り残されたオレは散らかっていた書類を片付ける。整理整頓は仕事の基本だからな。
……ん?
なんだ、この書類は?
『正体不明の巨大な魔物の討伐依頼の件』
『報告された魔物の生息地点、北部山村地帯における未収穫分の補填案件』
「これは……?」
北で何か起きているのか?それに未収穫分があるのか?なんだか気になるな……。
「お待たせしました、では参りましょう!」
2人が研究所を後にし、もぬけの殻になった所長室にバタバタと入って来たのは、リスの獣人の少女。
「遅れて申し訳ありません、話はどうなり……あれ⁉どこに行ったのでありますか?」
すれ違いになり、話題のコムギとの邂逅がお預けになってしまった事に『副所長』である少女は落胆するのだった。
◇◇◇
オレ達は馬車に乗り、各地を回ることになった。見ていく中で方針を変え、一気に各所を視察し1週間があっという間に過ぎた。
主だった各地の市街地、住宅街、農地、職人街、地方都市を見て回った感想として、帝国は思ったより疲弊していた。
確かに正直、このままではまずい。
農作物全般が不作、それに起因し経済が回っていないことが致命傷だ。食料だけでなく、家畜の飼料も少ないため、馬車や牛車による運送や物流も減っているからだ。
そして、食料不足による栄養不足も問題だ。この状態では皆、冬を越すどころではないだろう……。早くなんとかしたいという皇帝の焦りも当然だと納得出来た。
「いかがですか、コムギさん。
……これが今の帝国なのです、お恥ずかしい限りですがお知恵をお貸しください」
ただのパン屋に国の大事の協力を乞うあたり、何やら変な汗が出てしまう。
大勢の人命がかかり、そしてタイムリミットも迫っている。後には引けないというプレッシャーは思ったより胃に来るもんだな……。
「マイスさん、以前、研究所で『北部山村地帯に巨大な魔物がいる』という資料を拝見しましたが、あれは⁇」
「ああ……それですか。
その件も悩みの種でして……。
とある魔物が北部の穀倉地帯や農地あたりに生息しているせいで、我が国の特産品なども収穫出来ないのですよ。
今月中に討伐できれば収穫に間に合うのですが凶暴な魔物で、総力を上げましたが我々では討伐出来なかったのです。
兵站も不十分でしたし……」
「つまり、その魔物を倒すか、いなくなれば大丈夫なんですか?」
「はい。
少なくとも春まではなんとかなるはずです。自転車操業になりますが、冬を越すことが最優先なので」
「なるほど……。
ちなみにどんな魔物なんですか?」
「巨大な亀です」
「……亀の魔物⁉」
北に亀って。
南国の海にいるイメージがあるんだけどな……。
「はい、砦の物見櫓くらいの大きさです。
しかも巨大な亀は何体もいるのです、見たことがない位の群れなのです。
国の歴史書にも無い話で、にわかには信じられず、対応が後手に回ってしまいました」
つまりは10m近い大きさの亀がうようよいると。そりゃ対応に困るよな、狩に討伐出来ても処理に困るだろうし……。
「ちなみに元々そのあたりにいる種類の亀なんですか?
突然変異とかじゃなく」
「いや、恐らくは突然変異だと思われます。
外見や特徴はその地域に生息する、『コマッタートル』という手の平くらいのサイズの亀と一致しますが、サイズが違いすぎて……」
『コマッタートル』?
なんだかふざけた名前だ、困ってるのはこっちだよ!
冬前に、
突然変異の、
見たことがない程の群れか。
この『コマッタートル』がカギになるかもしれないな。
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