第37話 品評

 カマドから焼き上がったフランスパンを取り出すと、


『パチッ、パチッ』


とフランスパンの皮が焼きたての音を立て、スンッとした小麦の焼けた香ばしい匂いがあたりに広がっていく。


 キレイなフランスパンの焼き色は『クープ』をいれた部分は焼き色がつきやすいので、焦げ茶、そこから茶、きつね色、白 とキレイな4色のグラデーションがついていることだ。その色目が付いていれば熱が上手く伝わっている証拠。


 そして、焼き上がったフランスパンには見事な4色のグラデーションが。


「……これがあんたの作ったパンかい?」


「そうだよ、フランスパンといわれる種類で、この場合は『ミニフランス』かな」


「これを王様たちの朝食に並ぶようにしてくれ」と給仕の人に頼む。クラム達のパンも焼き上がっており、一緒に食卓に並ぶことになる。食べ比べは王様に朝食でしてもらえばいいや。


 そして、多めに作っておいたミニフランスを彼らと朝の休憩時間に食べ比べ、品評することにした。



(どうなってるんだ、どうしてこんなに違う!)


クラムとクラストは二人で信じられないというような顔で、そして五感を最大限に使い比べていた。


「香りがいいよ!全然ちがう!!

なんでこんな香りが?」

「ああ、それにこのツヤはどうしたら出るんだ?」

「とりあえず食べてみようよ」

2人が物珍しそうに眺め、そして口にする。


――パリッ……サクッ!


「「うんまあああ‼⁉」」


「え、なにこれ!外はパリッと、さくさくしてて、中はもちっとしてるのにふわりともしてる優しい味だ!」


「それに口の中でネチネチしない。

噛むと優しく甘味が出てそのあとにスルッと飲み込まれていくのよ!」


「あんた、これの作り方はどこで覚えたんだ!

こんなパンは食べたことがない、、おれっち達や師匠よりも上の技術と味だ……。

くっ、自分がまだまだだってわかってはいたけどここまでとは……。

頼む、作り方を教えてくれ、いや教えてください!」


「すごいよ、他にも作れないの?

材料ならたくさんあるから使っていいからさ‼」


 まるで子供みたいに彼らははしゃぎ、新しい味の発見に感動し歓喜していた。

こうゆう素直なところがあるなら大丈夫かな?自ら学ぼうとする者は吸収が早く、身に付けるのも早いからな。


「よし、じゃあ昼食も仕込むのだろうからそれは一緒にやろうか。

教えつつ、問題点があれば適宜教えるから」


 そして、数日を掛けてオレは仕込みの段階から改善すべき点を細かくチェックし――というか最終的には全てを見直した。

彼らは飲み込みと理解が早く、情熱的な意欲も合間って見違えるように上達していた。

 最初は少し躊躇したが、厳しめに教えた甲斐があったのでこれからは自分達でさらなる高みを目指せるだろう。


 成長の結果が目に見えると嬉しいもんだ。

これくらい出来れば十分だろう、そろそろお役ご免かな。


「先生、これでどうだ?」

「先生、こんなん試したんだけどどうかな?」


……まあ、なぜか2人から先生と呼ばれるようになってしまったのは不思議なんだが。

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