第34話 素顔
「ショーニはな、俺様の兄弟子なのだ」
「は?ショーニさんが?
繋がりおかしくありません?
王様とショーニさんが同門なんて――」
普通に考えれば商人と王族が同門と言う事はあり得ない。あまりに取り巻く環境や境遇が違いすぎるからだ。
「俺様はな、まだ皇太子の時に昔からの習わしで身分を隠して3年ほど奉公働きしてたんだよ。
その時世話になった商会にショーニがいてな、いろいろ教わったのだ。
それからの縁だから……かれこれもう10年くらいか?」
「そうですね、立派になられて――……笑」
「……おい、いま語尾に悪意があったぞ?
絶対本心じゃ思ってないだろ」
「……オモッテマスヨ」
「おいいいいい⁉
隠す気ないだろ‼」
「サア?」
「表に出ろ!
今度こそ叩きのめす!」
そう言うなり木剣を取り出し、王様がショー二さんに威勢よく掴みかかろうとする。
――が。
ショー二さんが眼鏡の位置をゆらりと妖しげに直すと同時に、殺気が静かに王様へ向かう。その殺気に当てられた王様は、蛇に睨まれたカエルが如く、青褪め硬直している。
「ほう、やりますか?
いいでしょう。
なら、また『お仕置き』してあげますよ?
ちょうど私も腕が鈍ってないか心配だったんで、良い機会です。
――さ、陛下。
覚悟はよろしいですかな⁇」
「………すみませんでした、俺様が悪かったデス」
変わり身が早い。
あろうことか目の前で王様が土下座している。それ程までに恐ろしいのか、わずかに震えている王様をショー二さんは険しい顔で見下ろしていた。
「――いや、王様が土下座しちゃダメだろ‼」
「ナイスツッコミ!」
思わずオレはツッコんでしまったが、セバスさんがフォローしてくれる 、ありがとう!
まさか窓の外から見える中庭にいる貴族達は夢にも思わないだろう。自分達が談笑しているこの時間、ここ執務室では先程まで自分達が罵倒していた商人に主たる王様が土下座してるなんて。
もし、この光景が目撃されたらどうなる事やら……。
「王様とショーニさんの関係はなんとなくわかりましたが、なぜ呼び出されたんですか?
まさか、この漫才を見せるためじゃないですよね?」
「当然です、これはいつもの
コムギさんと陛下、お互いを紹介したかったんですよ。そのためにこうやって時間を割ける様に口実作りの演技をしました」
「ああ、ショーニの考えはすぐにわかった。
それにショー二、オイル公爵両名から面白い人物がいると報告を受けて興味があったしな。
しかし『メロンパン』
あれは創造以上に美味かったぞ、いや本当に驚いたな!」
「ありがとうございます。
それにわざわざこんな機会を作ってもらってすみません」
「気にするな。
では改めて自己紹介をしようか。
おっと、堅苦しいのは嫌いでな。
口調はこのままでいかせてもらうぞ。
俺様がこのブーランジュ王国国王、イスト・フォン・ブーランジュだ。
よろしくな、コムギ。
俺様達は同門の仲間だ、遠慮しなくていいからな!」
「は、はい。
改めまして『パン職人』のコムギ・ブレッドです。よろしくお願いいたします」
「おう、よろしくな!」
ニカッと歯を出して笑顔で応える気さくな王様。
今目の前にいるのは為政者ではなく、知り合いの青年といった感じ。快活で話していて気持ちが良い。
「……しかし王様、うっかり素が出たら大変そうですね?」
「いやあ、本当に疲れるんだわ。
礼儀だの、作法だの、肩書きや形式とか苦手なんだよな」
「はぁ……確かに大変そうですよね、今日の会議とかも」
「だろ?
あんなんパーっと肩肘張らず、形式とかもどうでもいいし、結果が出せりゃいいんだからもっと前向きな話し合いをしてぇよ。
妙にアタマが古臭い保守的なヤツらばっかでイヤになんだよなー」
どうやら王様はどちらかと言えば革新的らしい。柔軟かつ現実的な思考と結果を重視するあたり、国をより良くしたいという意欲が伺える。
「王様はリアリストなんですね」
「あ、なんだそれ?」
「すみません、現実的かつ合理主義な考えをなさる人のことです」
「おう、なるほどな。
まぁ商人として働いてた時の経験が活きてるからだろうな。
――それにショーニらとつるんでた時が一番長かったし、楽しかった。
なによりも本当に多くを学んだしな。
今よりずっと居心地が良かったから、あの時の経験がなきゃ今のオレはねぇよ」
「(王様は今でもよく城を抜け出すんですよ、だからあちこちに顔が利くんです)」
こっそりショーニさんが耳打ちして教えてくれる。
なるほど。
貴族より民との距離の方が近い王様か。
きっと良い王様なんだろうな。
「で、だ。
コムギ、お前の力をもう少し見てみたいんだが……ちょっといいか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます