第35話 前途多難
「えっと……力を見せる、とは何をすれば?」
「うむ、まず確認したいのだがお前が作ったのはパンなんだよな?」
「はい、『パン職人』ですから」
「それを見込んでという話でもあるのだが、うちの料理人達のパンの出来を見て欲しいのだ。
料理はともかく、パンについては俺様もちょっとな、と思う時があるのだ。
『メロンパン』以外のパンも作れるのだろう?
だから頼む、一度見てもらえるか?」
「わかりました、お力になれるかわかりませんが、協力させていただきます。
時間から見るに、たぶん今日のパンはきっとすでに焼き上がっていると思いますので明日の分から確認でもいいですか?」
「そうだな、それで頼む。
今日の分もあとで用意させるから、試しに食べてみても欲しい。
ダメなところも、もしかしたらすぐにわかるかもしれないしな」
「ではそのように」
「頼むぞ、期待してるからな!」
王様が期待の眼差しでサムズアップする。
パンの事なら力になれるはずだし、城のパンにも興味あるからwin-winと言うやつだ。
「では我々は戻りますね、陛下も会議の続き頑張ってください」
「ぐっ――ショーニ……イヤなことを思い出させやおって」
「え?
『お仕置き』が欲しい?
そんな欲しがりさんには『ご褒美』の方が良いですかね⁇」
「よ、よし!セバスチャンいくぞ!!」
妖しく光る眼鏡でターゲットをロックオンしたショー二さんから逃げ出すため、脱兎の如く王様は部屋を出ていった。
「すみません、コムギさん。
手間な仕事を増やしてしまいましたね」
「いえいえ、興味深いですし、むしろこちらのパンについて勉強になるのでありがたいですよ」
――では厨房へ、と案内係の人に連れられオレとショー二さんは移動する。
厨房は城の一階と地下の二層になっており、パンは地下厨房で作っているらしい。
階段を下へ、下へと降りていく。
広大な厨房の一角にパンを作るためのスペースはあった。
麺台と呼ばれるパンの生地を扱う大きな作業台。棚や周りには材料が取りやすく、わかりやすいように整理整頓されている。効率を意識した合理的な配置だ。これだけで十分に職人達のレベルがわかる。
作業しているのは若い男女の2人。彼らがパン製造の担当者らしい。
「すみません。パン作りをする方ですか?王様の頼みで作業を見るように言われてきたんですが……」
と声をかける。
2人はなんだ?という不思議そうな顔で作業の手を止め、こちらを見る。
「誰だい?あんた?」
「『パン職人』のコムギと言います。
王様からの頼みでこちらに来たのですが、わからないこともあると思うので色々教えてください」
「王様の頼み……?
まぁよくわからんが、そう言われたなら好きにしなよ。
おれっちはクラスト、こっちはクラムだ」
2人の顔をよく見るとそっくりで、聞くところによると双子らしい。
「いまは何を?」
「明日の仕込みだよ、見るだけだぜ?
忙しいんだから邪魔しないでくれよ⁇」
忙しいからかそっけない対応だが、見るだけと約束し、彼らの作業ぶりをじっくり観察する。途中、ショーニさんは別件があるからと商会へと戻っていったが、オレはその場に残り観察し続ける。
――さて、まず彼らの仕込みの作業を見ているとなかなか骨が折れそうだ。気になるので思い切って訊ねてみる。
「君たちの生地の配合は何を基準に量っているんだ?レシピはないのか?」
「ないよ、勘だよ」
「勘て……誰からどうゆう風に教わったんだ?
師匠みたいのはいなかったのか?」
「いるけど、こんなの普通だぜ?
俺っちら職人の仕事と言えば、『見て覚えろ、技を盗め』さ」
……まあ一理は確かにある。
しかしそれはある程度のレベルになってからの話。
仕事の基本である『効率と安定』とは真逆の考えだ。
なぜなら何かトラブルがあった時に、『基準がないから修正出来ない』からだ。
それではいつまでも良いものは作れない。
『品質を維持しつつ安定して生産継続できるか』がまず職人にとって大事な資質と言えるのに、これじゃあ前途多難だなあ……。
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