第124話 ノース山脈⑦空の旅

「うむ、このサンドイッチなる物は本当に美味いな‼

最近起きてからまともな物を食べとらんかったから、より美味く感じるわ‼」


 上機嫌でサンドイッチを頬張る雷竜鳥サンダーバードの彼。

 なんだかんだでサンドイッチをほとんど平らげ、アタシの食べる分は死守した最後の1つだけ。せっかくコムギさんに作ってもらったのに……とほほ。


 ちなみに凍ったサンドイッチをどうしてサンダーバードが食べられたかと言うと、角から発する電気の力で何故かサンドイッチの氷は解け、ほかほかに温めてから食べていた。

どういった理屈か理解出来ない、まさに魔法を超越した力――これが神獣たる所以なのかな?


「うーん、神獣というだけあって不思議な事が出来るんでありますな……」


「ふぅ……腹も膨れた事だし、礼と詫びを兼ねて送ってやろう。

――わしもこれから忙しくなるのでな、いつまでも相手は出来ん。

どこへ送ればよいのだ?」


 思いがけない提案にぱあっと表情が明るくなるリーン。だが、問題はコムギ達とどうしたら合流出来るか。

それに心配も掛けているだろうし……。

 様々な考えが頭をよぎり、提案を快諾しながらも、頭を悩ませる彼女。


「――……っ⁉」


 突然、サンダーバードが立ち上がり警戒の姿勢を取る。


「ど、ど、どうしたんでありますか⁉」


「――何者かが近付いてくる」


「えっ――……⁇」


◇◇◇


 少女を探す2人、コムギとパシェリ。

 地平の彼方では太陽が沈みゆき、空が青からオレンジ、さらには紫に変わりつつある夕暮れ時。


 少しでも早く、出来れば夜になる前に助けたいリーンの行方へと繋がる手掛かりを探していた。


「何か見えました?」


「……」


「えっ、何か見えたんですか⁇」


「…………」


「――コムギさんっ‼⁉」


「は、はい。

ごめんなさい、パシェリさん。

何か言いましたか⁉」


「いや、何か見えたのか、と……」


「あぁ、残念ながら何も……」


「そうですか。

しかし、必ずどこかにはいるはずです。

方向は合っているんですから、どこかにあの巨体が隠れられる場所があるはずなんです。

それこそ、谷間や洞窟とか――」


「くそ、せめてもっと時間や人手があれば……」


「悔いても仕方ないですし、この広大なノース山脈を探すならいくら人手があっても足りませんよ。

はコムギさんしか出来ないですから」


「まぁ……確かに。

パシェリさん、疲れたりキツくないですか?」


「大丈夫ですよ!

図らずもコムギ殿が見ている世界を見る事が出来て、むしろ感動してるくらいなんですから」


「気持ち悪くなったら言ってくださいね、何かあってからじゃ遅いですから」


「お構いなく。

今はリーンを探す方が先ですからね、も良いですが、さすがに時間も迫ってますから」


 そう。

焦る2人は今、それなりの速さで空中を飛んでいる。コムギは能力の【重量管理ボリューム】でパシェリを荷物ごと最大限まで軽くし、自らの腹にくくりつけてぶら下げているのだ。パシェリ自体も落下防止のため、腹に縄をぐるぐる巻きにされている。


 飛行しながらコムギは前を、パシェリは斥候任務で培った広い視野で横から後方を確認している。雷竜鳥サンダーバードが飛び去った方向は視認していた2人はこうやって後を追い、必死に目を凝らし探索しているのだが、一向に手掛かりが見付からない。

 洞窟や谷間はいくつか見つけるが、いずれも規模は小さく、とても巨体が潜む程の大きさではなかった。


 2人の脳裏には仮に今は生きていても、夜になれば手遅れになるかもしれない。いや、今この瞬間すら危険が迫っているのかもしれないのだから、急ぐに越したことはない。

 危機感を募らせる考えが念頭にあるため、はやる気持ちは抑えきれない。だが残酷なまでに刻々と時間と景色だけが過ぎ去ってゆく。


「――‼⁉

コムギさん、あれは⁉」


 何かを見つけたらしいパシェリの叫ぶ声に、キキーッと急ブレーキを掛け、急停止する。彼が指差す方向にあるのはひっそりと深い森に隠れる様に山肌に口を開けた穴。 

夕闇の影に紛れ、見辛いが確かにそこには洞窟がある。

 その穴の入口は大きく、離れた空中からでも巨体が潜む可能性を感じさせる程だ。


「行きましょう‼

飛ばしますよっ――‼‼」


 最速で洞窟に向かい、2人は少女の存在を願わくば生存の望みを掛ける。


「無事でいてくれよ、リーン……‼」

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