第125話 神獣①烈火
「ここまで広い洞窟だとは……それに奥から獣臭もわずかに漂ってきます。
この洞窟でアタリかもしれませんね」
手から出した【
日の光が入らない程に奥へ、奥へと進む連2人を徐々に包んでいく、飲み込まれてしまいそうな程に重く感じる闇。そして去来するリーンの無事を祈る期待と万が一の不安。
魔物との遭遇や危険に備え、慎重に警戒しつつ、はやる気持ちがいつの間にか少しずつだが進む足取りを早めている。
「――……⁉」
「どうしました?」
パシェリさんが突如、前を向いたまま左腕をオレの前に差し出し、歩みを静止する。何も見えない、という事は何かを察したのかもしれない。
「……きます、奥から何かが近づいてきます。注意してください――‼」
「っ⁉」
パシェリさんが腰の剣に手を掛け警戒する様子に合わせ、オレもとっさに腰を落とし最大限の警戒をする。
――……ズン
――ズン
ズン‼
……来た!
確かにいたらしい。
リーンを連れ去った
いくら洞窟が広いと言っても、それは人間にとってのサイズ、ヤツにとってはそうでもない様子。見る限り恐らく、羽を満足には広げられないだろう。
そのせいか、ヤツは四足歩行で歩いている。前に見た時、飛んでいる姿から鳥をイメージしていたが、改めて見ると鳥と言うよりは竜とグリフォンの間と言った所の容姿をしているのに気付く。
巨体から放たれる凄まじい威圧感。
前に倒した大亀の魔物に比べれば一回りは小さいが、その分ギュッと濃縮されたと言った感じだ。
堂々とした風格と凛とした佇まい、確かに伝説とやらに語られるだけはある。魔物とはいえ、どこか神々しさすら感じるのだから。
「……おでましですね!
となると、奥にリーンがいるかもしれません。
ここは私が引きつけます、その隙をついてコムギさんは奥へ……!」
「……しかし、それじゃ……⁉」
自らを囮にする提案。
相手が相手だけに、とてもじゃないが賛同しかねる。2人掛かりでもどうかという威圧感。
「……ん⁉」
本来ならば暗いはずの洞窟。
だがヤツの額にある3本の角は青白く発光し、オレは手から炎を出しているので周囲を含めそれなりの明るさだ。
その明るさだから気付いた点――それはヤツの口の周りに付いた汚れ。
――いや、食べカスと言っていいだろう。あれはオレが作った……⁉
「――来たか、人種よ。
待っていたぞ」
「「喋った⁉」」
「……やはり人種は皆同じ反応をするのだな」
落胆するように呆れた様子のヤツだが、気になるのは人語を話す事だけじゃない。
「オレ達が聞きたいのはお前が攫ったリーンをどうしたのかって事だ!
――それにお前の口の端に付いた食べカス。
間違いなくオレが作ったサンドイッチだ、リーンは一体どうした⁉」
興奮を抑えきれず、ヤツを指差しながら問い詰める。横で聞いているパシェリさんも万が一の展開に備え、額に油汗を流しながら構えている。
「ほぉう‼
あれは貴様が作った
いささか量が足りなかったが、我の腹ごしらえには丁度良かったぞ。
……最近ロクな物を食べていなかったからな(起きたばかりだから)」
堪能した感想を述べつつ、ニヤリと満足げに口元を歪め笑う
「そりゃどうも。
だがリーンはどうした⁉
それは彼女の荷物の中に入っていたはずだ!」
「あの小さな人種か?
あれなら――」
「まさか、腹を満たすために……⁉」
「ふふふ、さてな……?」
信じたくなかった可能性を突き付けられたオレ達。頭に無かった訳じゃない、むしろ一番高い可能性。しかし、不安をかき消すために必死に考えないようにしていたのだが……。
「リーン……」
「くそっ……」
膝から崩れ落ち、大の大人2人がいながらたった1人の少女を救えなかった無力さ、慚愧の念。ふつふつと次第に湧き上がる怒りの炎。
自らを慕う少女の喪失感。
正直、まさかこれ程までに自分の心を揺さぶるとは思いもしなかった。
いつの間にか彼女の存在が自分の中で大きくなっていた証拠だ。
彼女は、もういない。
(守ってやれなかった……。
オレの……せいだ……っ‼)
まるで不甲斐ない自分と憎む相手への怒りに呼応するかのように、灯り代わりにしていた炎は勢いと激しさを増し、バチバチとスパーク音を立てながら両手を包み込みながら烈火の如く燃え盛る。
「……仇は取ってやるからな」
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