第126話 神獣②炎雷

 両手から激しさを増しながら立ち上る炎。

オレがイメージするのは『火炎放射器バーナー』。パン屋や洋菓子店では表面を砂糖でパリッとさせたいカラメリゼをする時に炙る為に使用される。

 

 今まで【温度管理ヒート&クール】で生み出した炎は延焼させるとか温める使い方が多かったが、相手は明確、しかも単体の仇。危険な使い方でも構わないだろう。


 この――胸をざわつかせる、このどうしようもなく、行き場の無い怒りの炎を【空調管理エアコン】で起こした竜巻に乗せ、雷竜鳥サンダーバードにぶつける!


「……焼けて消し炭になれオーバーシュート‼」


――ゴオオオオオォォォォォッ‼‼‼


「んなっ⁉」


 両手から放たれた炎は螺旋を描きながら、ヤツに直撃する。あの巨体では逃げ場などあるわけもなく、正面からもろに喰らった以上、無事であるはずがない。


「ぐあああっ――⁉」


「す、すごい……(ゴクリ)」


 目の前で起きている異変とも言うべき、洞窟中が赤とオレンジで明るく照らす猛火。

その光景と、それを作り出した張本人を見比べ規格外だと再認識するパシェリ。


「まだだ!

リーンの敵討ちだ、欠片も残さず燃やし尽くす‼」


「くっ――……いい気になるなよ、人種‼」


――バリバリバリッ‼‼‼


 額の3本角から放たれたのは、雷の嵐。

身を炎に焼かれながらも、反抗の意志を示し、雷は意志を持つかの様にコムギとパシェリを狙い撃ち続ける。


 逃げ続ける為に炎の攻撃は止めざるを得ず、その間いつの間にか炎は消えかかっていた。


「我にここまで傷を負わせるとは見事だが、許さん!貴様が炎なら、我は雷で黒焦げにしてやろう!

神也鳥かみなりをナメるなよ、人種‼」


「そっちこそ『パン職人』をなめるなよ!

丸焼きにして焼き鳥サンドにしてやるよ‼」 


「「はああぁぁぁっ‼」」


 互いに怒り心頭、パシェリはとてもでは無いがついていけないレベルの世界の戦いを見届ける役に徹するべく、安全を確保するため少し離れた岩陰に隠れた。


 炎と雷。

洞窟という閉鎖された空間で激しくぶつかりあい続ける天変地異とも言える程の2つの凄まじいエネルギー。

それを避ける事の出来ない周りの岩肌や石は溶けたり変質してしまっている。


 変形するだけでなく、中にはガラス化したり、《なんとも言えない不思議な輝きを放つ綺麗な石》等が散見され、最初とはまるで景色が違っている。猛火と轟雷の光をキラキラと乱反射しきらめく洞窟はとても幻想的に見えた。


「夢でも見ているのか……」


 洞窟内の温度はみるみる上がり、まるでサウナ。洞窟に入ってしばらくは寒いくらいだったのに、今では着ている鎧の中はじっとりと汗まみれだ。ぎゅっと握り締めた手はさらに汗をかいている。


「まさか人種がこれ程のチカラを使う様になっていたとは……我が眠りについている間に世界では色々な変化が起きていたようだな」


「……?

何言ってるんだ⁇」


「だが我とて急ぎの大事が控えておるのだ、ここでもたつく訳にはいかん。

巣が壊れるかもしれんが、仕方ない。

喰らうが良い――『雷之御技かみのみわざ』!」


―――バリバリバリバリッッッッ‼‼‼‼


 今までで一番の電光が辺りを照らす。

蒼白く太い3本の稲妻、さながら龍の如くうねる疾雷がバチバチと雄叫びに似た雷鳴を激しく轟かせながら洞窟を駆けていく。


「コムギさんっ⁉」


「う、うわああぁぁっ⁉」


 疾雷は荒れ狂うようにうねりながらコムギへ狙いを定め、遂には標的へと向かってゆく。

 いくら優れた能力を持つコムギでも、あれだけの雷をまともに喰らったらひとたまりもない。一瞬で黒焦げになってしまう。


 次の瞬間。

コムギの視界は電光で真っ白になる。

そして全身を覆う光。

覆われた光の中に現れた白い空間に自分の意識だけがゆっくりと、まるで時間が止まったかのように流れてゆくのを感じる。



 もうダメか――リーンの仇は取れなかったな――。

店には結局戻れなかった――。

ウル、リッチは元気にやってるかな――。

ショーニさん、イスト王。


――それに――……アンさん。


元の世界も含め、みんなにもう一度。

美味しいパンを食べさせたかったな……。


 オレの人生、これまでか。

色々あったけど、あっという間の35年だったな……。


あぁ……なんだか温かくなってきた……。

何かに包まれているような、どこか懐かしいような……。

まぁでも、このまま眠るのも良いかもな。

感電って痛いらしいけど、痛みが無いままならそれが一番――……。


 少しずつ意識が遠のいていく中、微かに何かが耳に聴こえてくる。


「―――……さん」


――なんだ、何かに呼ばれたような……?

いや……きっと気のせ……。


「コムギさんっ‼‼」


――気のせいじゃない‼


「……はっ⁉」


「「気が付いた!」」


 バッと上半身を起こすと、まず目に飛び込んできたのは自分の身体。いつもと変わらないトレードマークのコック服だ。


そして、傍らにはパシェリさんと……


「良かった――‼

死んじゃったかと思ったであります……コムギざん、無事で良がっだ……‼」


 泣きじゃくる獣耳の少女リーンがいた。

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