第127話 神獣③駄鳥

「よがっだでありま"ずぅ〜」


 オレに抱きつき、嗚咽するリーン。

しっかり感じる事が出来る。

温かな体温も、柔らかい感触も。

……もしかしたらあれは臨死体験というやつかもしれない。今わの際に時間がゆっくりに感じられるという――。


「本当に大丈夫なんですか、コムギさん。

どこかにお怪我は……⁉」


 意識を取り戻してなお心配そうにするパシェリさん、膝を付きぺたぺたとオレの身体を触り確認する。ちょっとくすぐったい。


「しかし、なぜ無事だったんだ……⁉」


「――貴様がオクリビトだからよ」


「っ⁉」


 突如、背後から聞こえた声に吃驚する。

この声は――。


「まさか、こんな偶然があるとはな。

これから探そうとしていたオクリビトの方から来てくれるとは思いもしなかったぞ」


「どうゆう事だ?」


「神獣たる我の役目は訪れる世界の危機から平和、秩序を守り維持する事なのだが、オクリビトのチカラを借りなければそれは不可能。

故に我々神獣がオクリビトに危害を加えないよう神から付与されている加護が働いた様だ」


「そうなのか……だからお前の攻撃はオレには通用しなくて無事だったって事か。

ん?いま神獣って言った⁇」


 いきなり出てきてリーンは無事だし、神獣だの、前にも聞いたオクリビトだの、起きてすぐのアタマでは理解が追いつかない。


 どうやらリーンは大きな怪我もなく無事で、腹を空かせてサンドイッチの匂いに釣られた雷竜鳥サンダーバードに連れ去られただけらしい。


 そして未だ軽く混乱している状態のオレと同じくパシェリさん、リーンも興味深そうに雷竜鳥サンダーバードの次の言葉を待つ。


「さっきも言ったが神獣とは定期的に訪れる世界の危機を救い、安寧を見守り、維持するための存在。

今世界は危機に瀕しておる、だから我は300年ぶりに目覚めたのだ。

(……うっかり寝坊してしまったが、どうにかせねばならん……ボソボソ)」


「え、最後なんて⁉聞き取れなかったけど……」


「いやいやいや!

なんでもないぞ、うむ、本当になんでもない」


 明らかに動揺しているあたり何かを隠しているのか?なんだな怪しいな、と思っているとリーンが耳打ちして寝坊したらしいと言う事を教えてくれる。


「寝坊したのか……」


 ジト目で見やると狼狽し、反省しているのかしゅんと小さくなる。


「ぐぅむっ⁉


……そうだ、うっかり寝過ごしてしまった、あと3年は早く目覚めなければならなかったのに。

我とした事が……何たる不覚……‼」


「早く起きなかったら何かマズいのか?」


 素朴な疑問だ、早く起きなければならなかった理由。その内容は果たしてなんなのか。

どれほど重要なのか、気になるのは当然だろう。


「『転身』しなければならなかったのだ」


「「「転身?」」」


「そうだ、この身体はそろそろ限界が近い。チカラの行使にそろそろ耐えきれなくなるだろう。我が務めを果たすべく、新しい身体に魂を移す事が『転身』なのだ」


「あっ、もしかしてあの卵は⁉」


 どうやらリーンは新しい身体とやらの存在を知っているらしい。あれがそうだったのか、と1人納得した顔をしている。


「そうだ、転身するための用意はしてあったのだが寝過ごしてしまってな……ぐぬぬ」


「いや、ぐぬぬじゃないだろ。

転身して、その後はどうするつもりだったんだ?」


「転身した後はチカラが落ちるのでな。チカラを蓄えるべく成長のために時間を割くつもりであった……」


「「「そして寝坊したと」」」


 ガックリ落胆する神獣様。

寝坊したという事実から逃げられないと観念したらしく、意を決した眼差しになる。


「とりあえず急いで転身せねばならん。

転身前の栄養補給はこないだの亀共で賄えたが、まだ足りん。寝過ごして時期が悪くてな、食べ物が無いのだ。何か食べ物はないか?」


「……ちょっと待て、まさか亀共ってコマッタートルの事か?」


「そうだが?

奴ら、魔力溜まりで我の分まで魔力を吸いすぎたようで巨大化しとったからな。

だがその分、食べ応えはあったぞ」


 確かコマッタートルは北からはず、

そして今のこいつ発言、つまり――………。


「いやー捕らえて喰おうにも、亀共が逃げおってこの辺りからいなくなったのも誤算だったわ、お陰で栄養補給もままならんでな」


「「「全部お前の寝坊が悪いんじゃないか‼‼」」」


「ひっ――⁉我の寝坊、そんなにダメか⁉」


 どれだけの迷惑が起きたか、滾々こんこんと説明すると、色々わかった。 

 魔力溜まりとは、少しずつ大地に貯められる魔力エネルギーの吹き出す場所。その魔力溜まりは神獣がチカラを得るためのいわば餌場。だが、稀に魔物達が魔力溜まりのエネルギーを浴びると巨大化したり、特殊なチカラを得てしまうとの事だ。

 

 そうならないように管理するのも神獣の仕事らしいのだが、寝坊したせいで手遅れに。

 目覚めた時、コマッタートル達はすでに巨大化した後だったらしい。仕方ないので栄養補給と間引きを兼ね、襲撃しつつ捕食したらしいのだが、いくらかには逃げられてしまったと。


 話をまとめると、そうゆう顛末てんまつらしい。

 オレ達3人からじろりと睨まれた神獣、雷竜鳥サンダーバード、いや――駄鳥ダバードは、しゅんとして肩身が狭いようだ。


「食べ物なら、弁当として持ってきたサンドイッチがあるよ。あと少ししかないけど」


「おっ‼

我、それ好きだぞ!

サンダーバード、サンドイッチ、ほれ名前も似ておるだろ?それに何より美味しいからの!

なに、礼に下界まで送るから弁当の心配などせんでよい。ほれ、早くくれ」


「しかし……」


 サンドイッチをもっしゃもっしゃと頬張りながら、まだ何か用があるのかと不思議がる駄鳥。


「魔石はどうしましょうか」


「手ぶらで帰るのも惜しいであります」


「でも無事に帰れるならそれに越したことは無いよ、また今度の機会にしよう」


 リーンの危機も回避出来たし、たまたま今回は無事に帰れるんだから諦めるしかない。

また別の機会にしよう、そう思ったのだが。


「お前達、魔石が欲しいのか?

なら、ほれ。そこにあるぞ?」


「「「え?」」」

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