第123話 ノース山脈⑥発見と理由
広い洞窟の中で見下ろす神獣と見上げる獣人の少女。見つめ合う2人の顔は互いに目は丸く、口はぽかんと開いて、まるで同じ表情をしている。
「え、お前は我がなんだかわかっておるのか?」
「え、
「「あ……」」
気を取り直し、再び言葉を口にしたタイミングは重なり運悪くすれ違う。
こうゆう時のもどかしいやら恥ずかしいやら、複雑な感情が入り混じった気まずさが出来ると、なんとも次の話が切り出しづらいものだ。
「……あー。
まず、聞きたいのだが――我の事は知っておるか?」
「知らないであります」
「――本当か?」
「はい。
神獣という単語も、会話が出来る魔物も初めてであります」
「――嘘……ではなさそうだな……」
あまりにキッパリと、呆気ないほどに一番聞きたくなかった答えを告げられたショックにトーンダウンしていく。
「まさか……我が寝ている間に忘れられたとでも言うのか?」
そんな馬鹿なことがあるわけがない、これからの『大事』に備え、少し眠った位で自分程の存在が忘れられるなどありえない。
万一にもあるわけがない。
いやあってなるものか。
たぶんないだろう。
たぶんないはず。
おそらくない。
もしかして。
まさか。
いや。
―。
しばらく何かを考え込む様に雷竜鳥が沈黙し、再び恐る恐る口を開いた彼は何かを期待しているようにも、不安であるようにも見えた。
「――小さな人種よ、すまないが今はいつだ?ええと、そうだな……お前達でいう、星暦何年だ?」
「今……は星暦302年であります」
「え……」
「ん?」
あれ?
何か変な事言ったでありますかね?
なんだか見る見る青褪めているような……でもそもそも羽とか蒼いし、そう見えるだけ?
なんだか震え始めたけど、大丈夫でありますかね?
「あのぅ……大じょ……」
「やってしまったあああぁぁぁ⁉⁉⁉
まずい、これはまずいぞ‼
えらいこっちゃ、どうしたら――……‼⁉」
完全に取り返しのつかない失敗をやらかした人よろしく、ぐおおっ‼と頭を抱えながら絶叫する
もし彼が本当に神獣だとしたら、本来あるべき威厳など彼方へすっ飛んで滑稽なくらい狼狽する姿にリーンは少し唖然とした後、なんだか可笑しくなり「ふふふ」と笑ってしまう。
図らずも狼狽し続ける雷竜鳥と対象的に気持ちが落ち着き、頭が冴えてきたリーン。
彼女はこれからどうすべきか、そして一体どうゆう事なのか、本人?を冷静にさせないと話にならないので、まず話を聞く事にした。
「えっと、落ち着いて欲しいであります。
そんなに驚くなんて、一体何をやってしまったんでありますか?」
「う、うむ……。
300年に一度訪れる世界の危機をオクリビトと共に救うのが我々神獣の使命であり生み出された理由なのだ。
その、やがて訪れる危機に備え、新しい身体に転心すべく卵を用意しておいたのだが!
まさか寝過ごしてしまうとは‼⁉
我とした事が何という体たらくっ‼‼」
つまり勉強の用意を頑張って完璧に揃えたが、用意に疲れうっかり寝落ちしたらテストの朝でしかも寝坊した、という所か。
目の前で盛大にぐぬぬっている
状況を考えると鳥頭と言う言葉がある通り、オツムに期待が出来無さそうなガッカリ神獣と言ってもいいのかもしれない。
リーンはため息を小さく漏らし、平静を取り戻し確認したい事をさらに問う。
「ここにアタシを連れてきた理由はその大事に関係あるのでありますか?」
「ん?いや、あるような、無いような……。
実はお前の背荷物からなんとも言えない嗅いだことのない魅力的な良いニオイがしたのでな。
腹が空いておったのでつい連れてきてしまったのだ。……スマンな」
背荷物からニオイ……もしや?
思い当たるフシがある、たぶんこれだ。
「ちょっと待ってくださいね、もしかしたら――これの事でありますか?」
「おおおあっ⁉
これよ、このニオイよ‼
ん〜っ……良いぞ、実に。
美味しそうだ!」
「ちょっとしかないでありますが、食べますか?」
今回の探索用に持ってきた枝豆パンのサンドイッチは3日分。全てコムギの能力で凍らせてあり、食べる際に解凍するのだが、リーンは朝昼分を少し残して弁当箱に戻していたのだ。
その残りを渡そうとすると羽根の付いた前脚を器用に使い、ぽいと口に運んだ。
――もぐ
――もぐもぐ
――ごくん……
「美味い……‼
人種はいつの間にかこれ程の美味を食す様になっていたのだな。肉に野菜にパンに卵……は心理的に複雑だが、それぞれが見事に調和しておって、とにかくこれは美味い‼」
コムギが作ったサンドイッチを褒められるとなぜだか自分も嬉しくなり、自分が作った訳ではないのに何故かえへん、と胸を張る。
「良かったであります!
嬉しいでありますよ‼」
「……すまないが小さな人種よ、もう一つくれまいか?まだあるのだろう⁇」
……あれ、これアタシの分がなくなる⁇
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