第44話 リッチとメロンパン

(雇ってくださいって、いきなり何なんだ!?もしかして何か事情があるのかな?

それにこの子、獣人ってやつだよな、スラムってとこに住むという、、、、)


「えーっと、いくつか聞きたいんだけどいいかな?まずキミの名前は?」


「はい、ボクはリス人族のリッチっていいますぅ」


「なんでうちで働きたいの?」


「すごいと思ったからです。

あんなにたくさんの人たちを笑顔にして、たくさん魔法も使えて。

ボクもそんな風になりたいと思ったからですぅ!」


「魔法はともかく、笑顔にしたい、か、、。

なにかそう思う理由はあるの?」


「……」


「あ!言いたくないなら言わなくていいよ、ごめん」


「いえ!、、ボクには家族がいました。

両親、双子の妹、です。

お金はないけど幸せでした。でも貴族に使われるために、ボクと他の3人は別々になりました。それからボクはあちこちを転々としながら1人で生きてきました」


「家は?寝泊まりはどうしてたの?」


「スラムにはボク以外にも同じように家族が散り散りになっている人達がいてそこでお世話になってました。みんな生きるのに精一杯で辛そうな顔なんです。獣人は下に見られがちであまり良い扱いをされませんから。

ボクも昨日獣人だからって理由で仕事をクビになったばかりなんです。

ボクはもう一度家族と幸せに生きてみたいし、獣人の人達にも笑顔になって欲しいんです。だから、、」


「そうか、辛い話を聞いてしまったな、よく話してくれたね、ありがとう。」


「、、グスッ、いえ、、」


「店長、どうなさいますか?」

ウルも心配そうな顔をしている。

事情が事情だし雇いたいけど、今のままじゃあまり給料が払えないからなあ、、。


「最後に良いかな?」


「、、はい。」


「もし、途中で辛くなっても頑張れるか?」


「はい!なりたいものをやっと見つけたんです、ボク頑張ります!」


「そうか。男に二言はないってわかってるなら採用だ。

改めてオレは店長のコムギ。

こっちはウル。

これからよろしくな!」


「…っ!

はいっ!!」


「店長、よろしいのですか?

正直、獣人はイメージがあまり良くありませんよ?」


「ふっふっ、、これがあるから大丈夫だ!」


棚からハンチング帽子を取り出し2人に見せる、サイズは少し大きめだ。


「これを被ればわからんだろ!」


おぉーっ!、と二人が感心したように手元のハンチング帽を見る。

「試しにちょっと被ってみな?」


「はい…」

耳を隠し、獣人だとわからないようにかぶる。

サイズが大きいかと思ったらちょうど良かった。

「どう…ですか?」


「ウル、大丈夫だよね?」


「はい、問題ないです。なんだかよく似合ってますね」


「よし!じゃこれでいこう!これから大変だと思うけどよろしくな、リッチ!!」


「はいっ!…えへへ」

仄かに頬を赤らめ、リッチは心から嬉しそうに微笑んだ。


―――――――

リッチが来てから一週間が経った。


彼は愛嬌のある笑顔での接客でお客様から気に入られているようだ。

ウルはてきぱきと勘定や計算をそつなくこなし、リッチと共にハツラツとした笑顔でお客様に応対している。メロンパンの店頭販売は評判が評判を呼び、お客様が途切れることない繁盛ぶりだ。2人がいてくれて本当に助かっている。王様もお忍びで買いに来ては律儀に並び、前後のお客様と会話をしている。

なぜ気付かれないのが不思議でしょうがない。


そんな今日は店頭販売最終日。


「コムギさん、ちょっといいですか?」


「ショーニさん、なんですか?」

商会の建物からひょっこり顔を出したショーニさんに呼び止められる。

一体何だろうかと思いつつ、2人に目配せしその場を任せた。

ショーニさんに連れられ、いつもの応接室でソファーに腰を落ち着ける。


「なにかありましたか?」


「いえ、今日が最終日じゃないですか。

今後どうしようかと悩んでおりまして」


そりゃそうだ。

明日からは『メロンパン』をどうするか、実は決めてない。どうなるか予想がつかなかったし、想像以上の売れ行きにてんてこ舞いで先を考える余裕がなかったからだ。


「お店のブランドを考えればいつまでもメロンパンだけではいけないでしょうね」


「そうなんですよね、しかし何を売ったらいいのやら悩みますね」


「ええ、メロンパンとは違う魅力的でインパクトのある物が望ましいですが……」


「「うーん」」


ショーニさんと策がないかと悩んでいた。

すると、


バン!!

応接室のドアが勢いよく開けられる。

そこには私服姿の見慣れた金髪イケメンが。


「ショーニはいるか!?」


「あれ、王様じゃないですか」


「「また抜け出したんですか??」」

思わずツッコミがハモる。


「べべべ、べつにいいだろうが」

懲りないなあ。


「どうしました?」


「実はな、問題が発生した」


「「いつもじゃないですか、ちゃんと仕事しないから」」


「ぐうっぬっ!!正論だが、そうではない。

コムギ、お前も大きく関わっているのだぞ」


オレ??

はて問題とは?

「最近メロンパン焼いてばかりで何もしてないですよ」


「前に貴族が押し掛けてきたのを覚えているな?」


「ああ、はい」


「あいつらがメロンパンを売っておるらしいのだ!これは由々しき事態だぞ」


「なんと!?」


ショーニさんがまさか、と驚愕を露にする。


由々しき、というか真似やライバルの出現は想定済みだ。材料は市場で揃うし、作り方も研究すればいつかはわかるはずだし。

だがオレが気になるのは別の点だ。


「値段とか味はどうなんですか?」


「うむ。奴ら平民向けではなく、貴族向けに売っておるので高い!

食べてみたが味はまあまあだ。

コムギの程は美味くないが、初めて食べる者にはたまらなく魅力的だろうな」


「へえぇ」


ますます興味出てきたな、オレ以外が作ったこの世界のメロンパン。

材料、配合を含めてどんな物なのかな。


「王様」


「ん?なんだ??」


「そのメロンパン手に入りませんか?」


「んん??興味でてきたか?」


「はい、興味ありますね」


「わかった、用意しよう。

ちょっと待て」


手に入れたらみんなで食べ比べだな。

貴族と平民で客層を分けて売るやり方は理に敵っているけど……。

――――――

そして数日後、王様自ら商会に例のメロンパンを持ってきた。

何やら豪華な箱に入っている。

「これがそうだ、コムギどうだ?」


「こ、これは!!」


「どうしたのだ?」


「はっきり申し上げます。

これはメロンパンではないです」


「「「「「えーーー!!!」」」」」

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