第43話 少年とメロンパン
「終わったー!いやー疲れたあ!!」
全身に疲労感が襲う。こんなに疲れたのはいつぶりだろうか。だが、達成感の方が勝るからか不思議と身体は軽い。
ウルも満足げな顔をしながら座り込んでいる。
日も暮れ、今は夕方。
メロンパンは全て売り切れ、これからは片付けと明日の準備の前の小休止だ。
(途中トラブルもあったけど、売上も予想以上、無事に終わったから良かったな。
しかし、どうするかな?
正直これほど売れるとは思わなかった。
これ以上は設備的に作りきれないし、お客様の対応も考えないと。少なくとも人手不足のこの状況はなんとか打破出来れば良いんだけど)
「うーん、、ウル何か良いアイデアはないかな?
募集案内してもくるかどうかわからないし、辞められても困るから意欲のある人がいいんだよなー」
「継続的な雇用となるとまだベーカリー・コムギは実績や評判が無いに等しいので期待薄かと。
しかし、今日のこの状態を考えれば人手は確かに欲しいですね」
どうするかと2人で考えていると、今日1日中オレたちの様子見ていた獣耳をもつ少年と目が合う。恥ずかしいのか彼は思わず顔を下に俯いてしまった。
ウルもその少年に気付いていた様で、少年のその様子に不思議がる。
(もしかしてメロンパン食べたかったのかな?売り切れちまったしなあ、そうだ!)
「ねえ、キミ」
オレは少年に優しく問い掛けた。
すると少年は予想していなかったのかハッとした顔でこちらを見る。
「は、はい」
「ごめんな、今日はもう売り切れなんだ」
少年は何か期待していたことを裏切られたかのように落胆を露にする。
「でも」
と付け加えるとパッと顔を上げまた何かを期待するような眼差しを携えた表情になる。
コロコロ表情が変わる少年の様子はなんとも可愛らしい。
「キミさえ良ければ、ちょっと待っててくれないかな?片付けが終わったらいいところに案内するから」
少年が微笑みながら、うん!と元気良く返事をする。
それから程なくして、片付けが終わり、オレとウルは少年と共に店へと戻る。
今の店内はメロンパン専用の生産体制仕様にになっているため、本来は売場スペースである所にもメロンパンの材料が大量に積み重なっている。その奥の厨房へと進み、目当ての物を探す。
「あった、これだこれだ」
オレはそれを少年に手渡す。
手に取ったのはメロンパン。
焼いたときに少し形が悪くなってしまった売り物にならないロスの分だ。形が悪いだけで味は全く問題ない。
「形はちょっと悪いけど、これで良ければ食べてもらえないかな?
捨ててしまうのも、勿体ないからさ」
「わあっ、本当にいいんですか!?
嬉しいですぅ!」
少年は目を真ん丸にして驚いた後に喜び、一心不乱にメロンパンにかぶりつく。
(嬉しそうな笑顔だ。
満足そうな顔で喜んでもらえるから、パン屋をやってて良かったと思えるんだよな)
「サクサク、ふわふわぁ!
こんな美味しいの食べたことないですぅ!」
「まだまだあるからゆっくり食べていいよ」
「やったあ!!」
少年は目を輝かせながら、次々とメロンパンを平らげていく。食べ盛りなのか、驚くことに10個程のロス分のメロンパンは全て彼のお腹に収まってしまった。
「んーお腹いっぱいですぅ!
ごちそうさまでした!
とっても美味しかったです、本当にありがとうございますぅ!!」
少年は食べ終わると、ペコリと頭を下げ礼を述べる。礼儀正しい良い子じゃないか。
「あの、、ボクずっと見てました。
飛んだり、凍らせたり溶かしたり。
すっごく驚きました!
なんの職業(ジョブ)なんですか?」
「オレは パン職人 さ」
「パン職人?聞いたことないですぅ」
またか、と思わず苦笑する。
隣にいるウルも予想していたのか、釣られて苦笑する。
「さて、今日はもう遅いからうちに帰りな?家族も心配だろうし家まで送るよ」
「ごめんなさい。
ボク、今うちも家族もいないんです、、」
「え!?、、ゴメン」
「いいですよ、馴れてますから」
なんと声をかけたら良いかと気まずい雰囲気が流れる。少し長い沈黙の後、少年がゆっくりと口を開く。
「あの、もし良かったらボクをここで働かせてください!」
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