第31話謁見と秘密兵器

「どうかな、ちゃんと食べてもらえてるかな?」


 ショー二さんやウル、商会から一緒に来た従業員数人と待合室で着席して待つがどうにも落ち着かず不安だ。

本来なら座り心地の良い高級な椅子に身をゆっくりと預けたいところだが、それどころではなかった。


 いつものより美味くできたと思うんだけど、やっぱり口に合うかどうか心配なんだよな。エッグバードのタマゴは風味が強いのに、くどくなくて使いやすいから個人的にはすごい良かったんだけど。

 メロンパンを作りつつ、インスピレーションが刺激されて、カウカウ、エッグバードの材料を使って色々試したくなって内心ウズウズしていたのは内緒だ。


 あー……早く店に帰って試したい!


「コムギさん、ご安心ください。

『メロンパン』なら大丈夫ですよ、我々が保証します」


 不安そうにしているオレをショーニさんが優しく微笑みながらフォローしてくれる。


「そうですよ!店長!

我らの『メロンパン』なら間違いないです。

この次は何にしましょうか、楽しみですね‼」


 スタッフになったウルが乗り気だ。

最初の時に比べ、あまりに雰囲気が丸くなりすぎて、回りの元同僚達はそんなウルにまだ馴れてないようだ。

その証拠に――


「あの『狂犬』と呼ばれた副会長を手なずけるとは……」


「あのクールさに憧れてたのに変わりすぎだろう……」


と言った内容のひそひそ話を商会の人らから最近よく耳にする。


――コンコン


 突如、控え室のドアがノックされる。

全員無言になり、姿勢を正し立ち上がる。


「ショーニ様、国王陛下がお呼びです。

――どうぞ、こちらへ」


 ショーニさんが呼び出しを受け、軽く頷く。予想だにしていない呼び出しに皆がざわつく。

 何故なら休憩時間ティータイムにわざわざ呼びつけるなどがなければあり得ないからだ。


「大丈夫かな……」


 皆がざわつく中、ショーニさんがオレをちらりと見る。


「コムギさん、一緒にお願い致します」


「え、オレも?」


「はい。

『それ』も一緒に持ってきてください。」


「……わかりました。」


うぅー……緊張するな。

『これ』は実際どうなんだろうな……。

でもせっかくだ、やるだけやってみよう。


「じゃ、いってきます」


「「「頑張ってください‼」」」


◇◇◇


 ウルや商会皆の応援を受け、長い廊下を歩く。

一歩、また一歩と踏みしめる、ふわふわの絨毯。足元が落ち着かない感じがするのは絨毯のせいか、それとも浮ついた気持ちのせいか。


 どうやら会場は突き当たりの部屋らしい。

係の人が重そうに、装飾の施された両開きのドアが開く。


 部屋の中に入ると、広い空間に貴族ならで高貴な雰囲気を纏う人達が長机にずらっと座り並んでいた。

上座にいるのが王様かな?

結構若い。

金髪碧眼の美しい顔立ち、外国人スターって印象だ。

歳はオレより下、20代だろうか。

横には執事の人がいる、なぜかすごい元気がないけど体調悪いのかな?


――あ、国王の右手側の席にアンさんの父であるオイル公爵が座っている。ふと目が合い互いに軽く会釈する。


「商会代表、ショーニ参りました。

こちらに控えますは、この料理を作った者でございます」


「コムギ・ブレッドと申します」


 事前にショーニさんに教えてもらった通り、恭(うやうや)しく臣下の礼を取る。


「ショーニ、よくぞ参った。

初めて見る料理だ。非常に興味深い、のだが

1つ頼みがある。


……お代わりはないか?

この執事が毒見といいながら全部食べてしまったのだ。

まったくけしからん」


「誠にっ、申し訳ありませんっ‼‼」


 だから元気なかったのか。

よほど叱られたらしい。

 控え室から補充分を持ってきてよかったな。この反応から察するに『これ』の出番もありそうだ。


 王様の皿に『メロンパン』が乗せられる。


「おお!これか、待ちかねたぞ!

よしではさっそく――」


「陛下、毒見を!」


「お前がまた全部食べたらどうする!

……ほら一口、これでどうだ」


もぐ……


「――はい、大丈夫です」


「よし!待たせおってからに!」


 王様がナイフとフォークを器用に使い、一口大に切って食べる。


「――……‼


美味い……‼


なんなのだこれは……ケーキでもパンでもない。余も数多の菓子を食べてきたが、初めての味だ……⁉


 外はまるでクッキーの様にサクサクと、中はふわりと軽く、異なる甘さと食感を調和させた見事な逸品――……‼。


皆も食べてみよ、この美味さを余は形容できぬ。ショー二、ええと……これは……何と言う食べ物なのだ……⁇」


「『メロンパン』でございます、陛下」


「『メロンパン』か。

これは何の材料から出来るのだ?

今までの中で一番の美味なる品だ、まるで検討がつかん」


 フッ、と眼鏡の位置を正しつつ、満を持して答えをハッキリと告げる。


「カウカウの乳と、エッグバードのタマゴ、魔物の食材が使われております」


――ザワザワ……‼


告げられた予想外の一言に皆がざわつく。


「なんだと!

カウカウは王室牧場があるので余もわかるぞ。どちらも入手困難な高級品ではないか!

用意出来たというだけでも驚くのに、それらをこれほどの料理に昇華したのか……。


見事としか言いようがないぞ、ショーニ!」


「格別なお褒めの言葉、恐れ入ります。

それら全てこちらのコムギの手によるものでございます」


「そうか!

――コムギとやら、見事である‼」


「はっ、ありがとうございます!」


 褒められているのはわかるがやっぱり緊張するな。こうゆう仰々しいやり取りは劇やテレビでしか見たこと無いからな。


「いやしかし……これは本当に見事な、美味な物だ……。

『メロンパン』と言ったか。

もう、無いのか?」


はい、王様からお代わり入りました。


 公爵や回りの貴族達も驚愕と嬉々を浮かべた顔でもりもりと食べている。

どうなるかと思ったけど、良かった。

あの顔を見れば安心だ。


「陛下」


「まさか……もうないのか⁉」


 王様がこの世の終わりを目にしたかの様に絶望的な表情をする。

そんなに気に入ったのか。


「ご安心ください、まだメロンパンのご用意はございます。

――よろしければさらに違った食べ方をお試し願いたいのですが……いかがでしょうか?」


「なに⁉まだ何かあるのか?

良い、許す!

早くせい!」


 事前の打ち合わせ通り、ショーニさんが着々と進める。王様から許可を得られたので全員分の皿に、ショーニさんがメロンパンを補充し、横でオレが『それ』を各皿に盛り付ける。


 盛り付けられた『謎の物体』を皆が不思議そうに眺める。反応から察するに見た事が無いのだろう。

――これならイケそうだ。


「ショー二よ、なにやらまた奇妙な物だが『これ』はなんだ?」


「こちらは『生クリーム』と申します」


 そう、用意してきたのは『生クリーム』。

これがオレ達の秘密兵器なのだ!

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