第68話 ソーセージが欲しい
「今夜は星が綺麗だな……」
オレは帰路についていた。アンさんの言葉が気に掛かりながら。今後について具体的にどうするかは王様とアンさんとお父君の公爵が話を進めるようだが、どうもイヤな予感がする……。
まっ!いろいろな人の思惑が渦巻く今回の小麦粉の件、オレの出る幕は無いだろう。
まずは米粉を使ったパンのバリエーションを考えることに集中して、しっかりとお客様の胃袋を満たしてあげなきゃな‼
オレの仕事はパンを作って売ること。それ以外の仕事はオレの領分を越えているからパスだ!
さて、しかし何を作ろうかな?
シンプルに米粉と相性が良いのは金時豆や黒豆。あとは
それであんぱんを作ってもいいな。
あとは惣菜パンもいいな。
元は米だから、大体なんでも合う。味付けの濃いものなら特にだ。照り焼きにした肉、変り種で漬物とかもイケたりする。
惣菜パンの定番で必要なソーセージってそういえば市場で見たかな?ちょっと明日見に行ってみるか。
うーん、しかしやはりパンのことを考えていると気分がリフレッシュされる!
今日はゆっくり眠れそうだ‼‼
◇◇◇
そしてバッチリ快眠した翌朝。
オレは市場にいた。なんだかいつもより人が少なく活気もないように感じるが気のせいかな?
昨日考えたレシピに必要な材料を探すために来たが、ほとんどのものが手に入りそうなのでまずは一安心。まだ見てないのはソーセージだけだ。
肉の加工をしているニックさんに聞けば大丈夫だろうと、市場の隅にあるニックさんの店へ向かう。
「っかぁ~‼
まずいなそりゃあ‼⁉」
あれ?ニックさんの声だ。声が大きいからすぐにわかる。なにやら市場の皆、作業の手を止めて話をしている様だ。
「どうしたんですか?」
ひょいと顔を覗かせてみる。
深刻そうな顔で腕組みをしていたニックさんや一緒に話していた市場の人が振り向く。
「おぉ!久しぶりだな、あんちゃん。
聞いてくれよ、えれえことになったぜ。
なんでも小麦粉だけじゃなく他の食材も手に入らなくなるかもしれねぇんだとよ」
「えぇ⁉どうしてそんなことに⁉⁉」
せっかくこれからいろいろやろうと思っていた矢先にこれかよ……。
「なんでもベッカライからの物流が止まってるらしいぜ?あの国から流れてこなけりゃ他所から運ぶしかないが、間違いなく量が少なくなるから価格が上がっちまう。そうなると商売してるみんなが損をしちまうってことよ」
「まずいぜ。こりゃぁ……」
いつも元気なニックさんや市場の皆が意気消沈している。そりゃ死活問題だからな……。なんて言ってる場合じゃない!もちろんオレも他人事じゃない‼
「たしか公爵様がいろいろ動いてるんですよね?足りなくなる前に間に合わないんですかね?」
期待を込めて、という意味で聞いてみると思ってもない答えが返ってきた。
「そりゃまず間に合わねぇだろうな。
可愛い一人娘を帝国に嫁に出すなんて、公爵様も王様も絶対にしねぇだろうからよ」
「……え?
えっ……⁉⁉
すみません、どういうことだか、さっぱりわからないんですが⁉⁉」
いきなりの爆弾発言に混乱してしまう。
まさかこれが『とある事情』なのか?嫁入りが条件、ということで物流が止められているとか⁉
「そういやあんちゃんは公爵のお嬢様と知り合いだったな、知らないのか?
有名な話だぜ⁉カイザーゼンメル皇帝はあのお嬢様に昔からぞっこんで何回か求婚してるって話だ。まぁその度に断られてるっていう話の方が有名だがな」
その場にいるみんながカラカラと笑い、
そうだったのか、と一人納得する。昨日も確かにどこか前向きになれないという話をしていたとき、アンさんは暗い表情だった。
ある意味では人身御供になるわけだから、そりゃ気が進まないだろう。
そうなると今回の件はアンさんの言うとおり『イヤガラセ』なのかもしれない。
求婚を断られての腹いせだとしたら、皇帝という高い身分の男がこんな大勢を巻き込む手段を用いるとは、なんて器の小さな男だ。
なんだかオレも憤慨してきた‼
せっかくのやる気をそがれた気分を『発散』したい‼
「あ、で悪いな。忘れてたぜ、あんちゃん今日は何の用だ?」
「そうだった。なんか聞きづらい雰囲気ですけど、ソーセージってありますか?」
「あぁそれはまさにダメなやつだ、材料が帝国からの輸入品だから品切れだ」
マジかよ…がっくり……。
どうにか手に入らないかな……。
「手に入れたいなら、国境付近に住んでいるヤツを狩るしかないが、大変だぜ?」
……嫌な予感がする。
「ソーセージラフっていう帝国領内にしか住まない魔物がいるんだが、ごく稀に国境あたりに出てくる。そいつの肉がそのままソーセージに使えるんだが、こいつが大物でな……なかなか手に入らないんだよ。
ただその苦労の分、味は申し分ないからやる価値はあるかもな!
それにもしかしたらだが、国境付近の宿場町で珍しいものが見つかるかもしれないぜ?
時々あるんだよ、掘り出し物やら珍品とかがな」
へぇ、そうなのか。
仕方ない、ダメもとでとりあえず行ってみるかな。この流れは無駄かもしれないけど何も無いことを祈ろう……。
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