第69話 珍品
「やっぱり、こうなるのかあぁぁぁぁ‼‼
ひぃえぇぇぇぇぇ……‼‼」
「店長、頑張ってください!」
「あ、え、えっと、、ファイトです!」
ウルとリッチが声援を安全な場所から送ってくれる。
(ありがとう、すぐオレと変わってくれ‼‼)
そう思いつつ、従業員を危険に晒すわけにはいかないと涙目になりながらひたすら全力疾走!
ここは国境付近の平野地帯。
そこでオレはソーセージの材料、もといソーセージラフに追いかけられていた。
前に動物園で見たキリンに似ているが、一回りゴツくなり、頭には鹿の角が付いている。
そしてめちゃくちゃ速い!
死ぬ気の全力疾走で逃げるが、いい加減ダメだ……、体力がもたん………!
「店長!空です、空に飛んで逃げればいいんですよ‼‼」
(そうか、ナイスアイディアだ、ウル‼
その手があった‼‼)
ソーセージラフの突進してくる足元をスライディングでくぐり抜け、背後を取ったオレは再び襲われる前にグッと脚に力を込め飛翔する。ソーセージラフは見失ったようでキョロキョロとオレを探している。
(いやはや、どうなることかと思ったけど、これで一安心だ、良かった良かった、、)
ちなみになぜこうなったかというと……。
◇◇◇
「店長、私たちも一緒に行きます。お手伝いさせてください!」
「はい!何かの役に立てると思います!荷物係とかなら任せてくださぃ!」
2人がついてきたいと懇願するので、危険だが帯同を許可した。図らずも初めてのベーカリー・コムギの従業員だけでの仕事だ。
目指すは国境付近。
平野地帯が国境まで整備された街道により続くので歩きやすく、わかりやすい。
道中、3人でたわいない話をしながら散歩気分で道を進んでいくと前から悲鳴を上げながら人が走ってきたのだ。
「どうしましたか⁉」
息も絶え絶えになる人々を呼び止め聞くところ、どうやらこの先で魔物が出たらしい。
その人達を介抱し、急いで現場に向かうと荷馬車は襲われ、回りに荷物が散乱していた。幸いにも軽いけが人が数人出たくらいの被害で済んでいるようだ。……そして、目の前にいる巨大なその魔物こそがお目当てのソーセージラフ。せっかくの巡り会えたチャンス、どうにか確保しようと近づくのだが………。
うまく行かず、激昂したソーセージラフに追い掛け回される羽目になってしまった、というわけだ。
そんなオレは今空中にホバリングしている状態なのだが、ソーセージラフはこちらを睨み、降りてくるのを待っているのか眼下をうろうろしている。
(さて、どうするか、、?)
いつもみたく足元を凍らせるには地面から冷気を流さないとダメだしな……。
ヤツの動きを止めるにはどうしたらよいのか……。うーん、と無い知恵を必死に絞り出そうとする。
(待てよ⁉)
前に重量管理もパン職人の能力で出来るかもと考えたよな。
一か八か試してみるか……どうしたら出来るかな?
とりあえず思い付いたイメージは加重。
直接触れないから、何となくソーセージラフがいる辺りの空気を重くするイメージをしながら両手を軽く前に出す。
すると傍目にはよくわからないが、よく見るとソーセージラフの動きが鈍くなり、足を必死に踏ん張っている。それに呼吸しづらいのか苦しそうだ。どうやら上手くいっているようだ。そして、数分後。
ドッスゥーン……‼‼
ついにソーセージラフは気絶し、巨体が大きな音を立て倒れこんだ。
「スゴイです、手を触れずに倒しちゃいましたぁ‼」
「驚きです……一体何の力ですか⁉」
「よかった。【重量管理・加重】が上手くいったみたいだけどどうすればよいかな?オレたちじゃ運ぶことも解体も出来ないしな……」
うーん、と困っていたオレたちに救いの手が。先程介抱した人達が襲われていた荷馬車にソーセージラフをくくりつけ、近くの解体をやってくれる宿場町まで運んでくれることになった。なんでも、その馬車の人達も宿場町に用があるとのことなのでちょうど良かった。
◇◇◇
「ここが宿場町か、思ったより栄えているな」
宿屋はもちろん、土産や道具を買う店に、小さな市場で食材も色々扱っている様だ。
解体屋を見つけ、ソーセージラフの解体をお願いしたら、「よっしゃ、腕がなるぜ‼」とノリノリで引き受けてくれた。
話を聞くとやはりこの市場でも物流が滞っているらしく、オレたちの依頼はちょうど良かったみたいだ。
解体が終わるまで少し時間が空いたので市場で道具や食材を見て回る。規模が小さい市場なので珍しいものはあまりないのだが、ウルがリッチに目利きを教えている。
「これはここを見てだな……」
「こ、これどうですかっ⁉」
「ダメだな、不正解だ」
ウルが厳しくも面倒見良く指導しているようだ、と2人のやり取りを見て安心する。
「あれ?これは……?」
ふと視界に見慣れたものを見つける。
そこにあったのは、
『梅干し』だ。
まさかこの世界にも梅干しがあるとは‼
良くみると「海苔の佃煮」もある。思わぬ珍品たちの発見に胸の高鳴りを感じていた。
「よし、これらがあれば米粉パンのバリエーションが増やせるぞ‼‼」
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