第70話 オレ達の本分
梅干し、佃煮、見たことがあるいかにもな食べ物が何故あるのか?売っている出店の人に尋ねるとその疑問はすぐに氷解した。
ここは宿場町、長い旅には保存が効く塩漬けなどの需要があるから、ということらしい。昔から日本だけで無く海外でもザワークラウトなど保存目的の物があったわけだからその理由も納得だ。
興味をそそられ、あちこちのお店を物色していたらソーセージラフが解体出来たと知らせがあった。すぐさま解体現場に到着すると
そこには驚くべき光景が目の前に広がっていた。
「こんなにたくさん……⁉」
そう。
オレたちの目の前には解体され、素材や材料になるソーセージラフの部位が山盛りで切り分けられていた。目当てのソーセージに使える部分はいわずもがな、他の肉の部分も改めて見るとすごい量だ。おそらくは最大の輸送用荷馬車3台分。運ぶことを考えると、さすがにこの量は金銭的に負担が大きい。肉が小さな山ほどの量になっている光景に周りの人々も感嘆の声を上げている。
「ウル、どうしよう?」
「これだけの量です、今の品薄な市場で裁けば、かなり高値で取引されるはずです。輸送費を差し引いても十分に元が取れると思います」
「じゃあ、そうするか。
あ、ついでに梅干しと佃煮もください、一緒に運んで欲しいので」
「2人はなにか欲しいものある?」
「私は特にはありませんよ」
「僕も大丈夫ですぅ、たくさんいろんな珍しいものを見られただけで満足です!」
じゃあ、目的のソーセージのための肉も手に入れたし、市場に帰ろうかな。しかし、馬車3台を手配し市場まで向かうことにしたのは良いが、これだけの物が本当に捌けるのだろうか?
もし捌けなかったら、大量の廃棄肉の処理に追われるし、輸送費もパーだ。
ウルは妙に自信あるみたいだけど……大丈夫かな?量と支払額が大きいだけに、ハラハラと疑心暗鬼になってしまう。
そんな事を考えているうちに市場に到着するが様子がおかしい。市場は閑散としているはずなのに騒がしいな?
……なんだろう⁇
「早くなんとかしやがれ!」
あれ、ニックさんの声だ。
「すみません、すみません……」
なんか平謝りし続けてる人が取り囲まれている。
「どうしたんですか?」
「おう、兄ちゃん、聞いてくれよ!
荷止めの解消目処が全く立たないんだってよ」
「え、それは困りましたね……」
「だろっ?俺達にも生活が掛かってるからよぉ、皆で急かしてんだよ」
「そうですよね。
とりあえずオレの方でもソーセージラフの肉を手に入れましたけど全然足りないですよね、すみません……」
「そうだな、全然足りねぇ…って「「「なにーーぃ⁉⁉」」」」
皆がババッとオレ達の馬車に目を向ける。
『あの中に品物が……』
一同が揃って獲物を狙う肉食動物の目になり、ジリ…ジリ……と距離を詰めてくる。
「兄ちゃん、あれを倒せたのか?!」
「はあ、まあ……」
あまり実感ない倒し方だったけど。
「よし!じゃ買わせてくれ!
俺と兄ちゃんの仲だ!頼む、言い値でかまわねぇ!店に商品がないなんて商人のプライドが許せねぇからよ!」
ニックさんが我先にと買い付けの声を上げると、そこからは肉を争い、文字通り骨肉の争いが怒涛の勢いで始まった。
「「「ズルいぞ!」」」
「「「こっちにも売ってくれ‼‼」」」
あっという間にオレ達は怒号と喧騒に包まれてしまった。いくど待てども一向に収まりそうも無いその場を沈めるため、ウルに取り仕切ってもらい、最終的には数量限定で順番に販売し無事に売り捌くことが出来た。
ウルいわく
「うっふっふっ、……笑いが止まりませんねぇー‼‼」
と宣言通り、元を取るどころか予想以上に儲かったようだ。 さすがは元商人。モノが違う。「任せて良かったな」と思ったのも束の間。ウルに対する好評価もすぐに消えた。
「じゃっ、店長!
もう一狩りイキましょう!
いや、何度でもっ!
今がチャンスです‼‼‼」
「バカヤロウ!
怖い、痛い想いするのオレじゃねぇか!!
なんでだよ!」
そんな必死の抗議にもお構いなし。
「さあさあさあ」と血走った目でグイグイ来られて怖い。完全に目がお金のマークになっている。リッチなんて引いてるじゃないか……。
はあー……っと息を吐いて残念な目をウルに向ける。ここは店長、上司としてビシッと言わねばならん!
「ウル、忘れてないか?
オレ達は『パン屋』だぞ?
……肉を売ってどうするんだよ」
「……⁉⁇
ああっ⁉そ、そうでした⁉」
「バカタレぇーー‼」
……コイツ、本当に忘れてたな……⁉。
『金に目が眩むとウルは暴走する』と言う事をしっかり覚えておこう。
……じゃないと、命がいくつあっても足りなくなりそうだ……。
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