第71話 争奪戦と米粉のホットドッグ

 市場での騒動から数日後。



「はぁ……」


 何回目の溜息だろう。

オレ達、ベーカリー・コムギの面々は「またまた」国境付近にいた。

 なぜなら市場での『派手な一件』以来、国境付近での狩りを全面的に市場と商会から依頼されることになってしまったからだ。


 国境付近で出没する魔物はソーセージラフが一番の大物だが、市場に少しでも多くの肉を流通させるため、少しでも価値のある魔物討伐をするハンターの人達とチームを組んで効率的な狩りをしようとなったのだ。ただ、ソーセージラフを狩る事のできる強者のハンター達は出払っていて、最悪の場合はオレ頼みというのが悩みのタネだ。


……オレ、パン屋なんだよ?


◇◇◇


「そっちいったぞ!」

「でぇええい!」

「だぁああああ!」


 ハンターの人達は必死に魔物を狩り続けている。

 万が一に備え待機し、狩りの様子を傍観しているオレ。討伐した魔物の数を数え、市場流通の分量や価格を試算するウル。いつのまにか、しれっと魔物の討伐に加わっているリッチ。


 こんな3人とハンターたちの狩りが連日続いていた、そんなある日。


「お~い、コムギさん」


「なんですか?」

 話しかけてきたのは顔なじみになったハンターのカリュードさん。無精髭をはやしたワイルドな風貌がいかにもハンターらしい。彼はベテランらしく狩りのコツやポイント、それ以外にも魔物についていろいろ教えてくれるので、とてもありがたい。。


「今日は何かおかしいぜ?」

 彼のハンターとしての長年の経験に基いた勘が何か異常を訴えているらしい。


「何でしょうね?」


「わからん。だが、間違いなくヤバイ。

見てみろ、今日はこの時間になってもこれくらいしか狩れてない。

しかも小柄なやつばかりだ。どう考えてもオカシイ……」


 たしかに今は昼前。いつもこの時間なら一段落する時間で、目前にある量の倍は狩れているはずなのだ。それが半分しかないなんてたしかに変だ。


「もしかしたら、このあたり一帯で何か異常が起きているのかもしれないな……」


「異常?たとえば?」


「う~ん、いくつかあるが生態系が変わってしまう何かが起きたとか、天変地異が起きる前触れとかが考えられるかな」


 ……なんだか物騒な話になりそうだ。

ま、とりあえず腹が減ったので昼食にしよう。腹が減っては戦はできぬ、ってね。


 基本的にここでの昼食の担当はオレたちベーカリー・コムギが用意することになっている。材料を融通してもらう代わりに、作って皆に提供するという形だ。最初はみんな「大丈夫なのか?」と不安だったようだが、今では……



「「「「うおおおおおお!!」」」」」

「今日こそは俺がメロンパンを食べる!」

「クロワッサンは渡さんぞ!」

「サンドイッチはもうないのか?!」

「くっ……明日こそはかならず…」

「コノウラミ、ハラサデオクベキカ……」


 などと取り合いになり、さながら戦場のような有様だ。喜んで食べてくれるのは嬉しいんだけど、最近聞いた話では魔物を狩るのが目的なはずなのに、この昼食目当てのハンターが何人かいるとか。……働かざる者食うべからずとは確かに言うけど……。


 せっかくのなので試験的な意味でもいろいろ試してみているが、米粉パンは好評の様だ。食べ慣れていない食材だから、最初はどうなるかと思ったが、米粉パン特有のもっちり食感と素朴な風味は何にでも合うため、様々な具材との組み合わせを楽しみながら食べているようだ。


 特に心配していた梅干しやら、佃煮のようなあまりなじみのないような味のものでも案外抵抗なく、むしろウケていることにビックリしている。

 そして一番人気は『米粉パンのホットドッグ』だ。見た目は定番のホットドッグだが、一味違う。米粉パン、マスタード、ケチャップ、ダイス状にカットした玉ねぎのトッピングするまでは普通のホットドッグと同じ。


 違うのは、白味噌とマヨネーズを和えたものをパンのカットした断面に薄く塗ってあるところだ。本来ならばマスタードとマヨネーズを和えたものを塗るのが一般的だが、白味噌のマイルドな旨みとほのかな甘み、マヨネーズの酸味が、米粉パンの素朴さと相まってそれぞれの美味さを引き出してくれる。

 ボリュームがあることや希少なソーセージラフのソーセージの肉を使用していることもあり、このホットドッグは常に争奪戦になっている。こないだは取り合いが白熱しすぎて決闘騒ぎにもなったっけ……血の気の多いハンターたちだから仕方のないことかもしれないけど……。



とその時!



ズズズズ……………‼‼‼

 遠くから、しかし確実に近づいてくる地響きが強い揺れととともにあたり一帯に響き渡る。


なんだ、いったい何の音だ?!

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