第58話 久しぶりの厨房
いまだここは書斎の間。
先ほどまでのピリピリした雰囲気はなく、なんとなく歓談に近い雰囲気だ。
「さて、堅苦しいのは終わりだな。
はあ…今回もショーニ殿にやられてしまったか……」
「ははは、いやいやそんなことはないですよ」
「謙遜ですな、いや、この話は止めましょう。胃が痛くなりますからな」
殿様も胃が痛くなるのか。
そりゃ責任ある立場だからわかるけど、そうさせるショーニさんって一体……。
「ところで、ウル。お前、ちゃんと母さんに挨拶してきたのか?」
「しましたよ、ご迷惑をお掛けしました。
父上、本当に申し訳ありませんでした。」
「ふん、バカ者が。
何年待ったと思っておるんだ、全く…グス……」
殿様はすすり泣いている、やはり親なんだな。
「んんっ!お恥ずかしいとこれを見せてしまったな。
ところで、コムギ殿だったかな、愚息が世話になっているパンとやらの師というのは?
なんでも火と氷と風の魔法を操る大魔法使いとか。
いつも愚息がお世話になっております、今後ともビシバシと鍛えてくだされ、よろしくお願いいたします。」
いろいろツッコミどころが満載の挨拶をされる。殿様とウル、親子で深々と頭を擦り付けて下げているものだから、冷や汗が滝のようだ。
「ええと、大魔法使いではなく《パン職人》なのですが……」
「はい、ショーニ殿からの手紙でご活躍はかねがね伺っております。
よろしければ、ぜひともそのパンと魔法の腕を拝見したいのですが……ダメですかな?」
殿様が目をキラキラさせている、明らかに興味津々だ。 もしかして為政者としての顔より、こちらの方が素なんだろうか?
かなり人懐っこい感じで、ウチで働いているときのウルにそっくりだ。
やはり親子か……。
「ショーニさん、どうしますか?」
困惑したのでとりあえず許可を求める、勝手にやるのはまずいよな。
「いいんじゃないですか?というより、使用できるのかという確認の意味でも米粉を使ったパンを私も食べてみたいですしね」
それが本音か。
よし、じゃやるか!
「わかりました、では米粉のパンを作りましょう。厨房はどこですか?」
_______
殿様を含め、オレ達は厨房に移動する。
厨房には材料もあらかじめ用意されていたようだ。何かを作為的なものを感じる……。
いや、確実にこれは計画されていたにちがいない…ショーニさんによって。
おそらく交渉次第では食べさせて、胃袋ゲットからの商談という展開になっていたのだろう。その策を考えてやろうとするあたり、パンを食べさせればイケると自信があったのだろう。それほどに信頼されてると思うと職人としては是が非でも応えたくなるな!
久しぶりのパン作りだ!!
いざ、米粉パン!
…ん、あれ??ちょっと待てよ……?
「あのぅ…すみません。
イーストってどこにありますか?」
これがないと発酵させられないからな、さすがに。
「……イースト?
なんですか、それは」
「なにいいいいぃぃぃ⁉⁉⁉」
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