第117話 ドワーフ⑧さけのちからとこくはく
「えへへぇ〜……あったかぁい……。
ねぇねぇ、コムギしゃん?
このあいだみたく、あたまをなでなでしてくださぁい。
あ、それからぁ、ぎゅっ〜!てしてくれたらうれしいでありますぅ……」
酔った勢いで絡みつくように、がっしりと無防備な
「え、えっとリーン……とりあえずちょっと落ち着こうか……」
腕に少し力を込め、リーンを剥がそうとするが、それ以上の力強さで抵抗され、むしろ更にビタッ!と張り付くリーン。
こんな小さな身体のどこにこれだけの力が⁉
「えへへぇ……だめでありますよぉ?
アタシはコムギしゃんの『ごえい』だから、ぜぇったい!はなれないのでありますぅ」
「にへらぁ」と勝ち誇る様な満面の笑みを浮かべる彼女を見て、これは諦めるしかないと悟るオレ。
「あらあら、まあまあ!
リーンちゃんはコムギさんが大好きなのねっ⁉」
興味深そうにオレ達の様子を見ていたドゥーラさんがさらに焚き付ける。リーンは耳をぴくりとさせ、即座に反応し勢い良く返事をする。
「もちろんでありますぅ!
つよくてぇ、
かっこよくってぇ、
やさしくてぇ、
おいしいパンもつくれるコムギさん。
アタシはだいすきでありますぅ‼」
唐突な、しかしこれ以上ない素直な告白と賛辞に、心臓の鼓動が早まる。久しく感じる機会のなかった、純粋な好意を向けられる嬉しさからだろう。
酒の力も手伝った若さによる勢いのある言葉が、ドキドキとオレの胸を緊張させる。
「ガハハハ‼
若いのぅ!甘酸っぱいのぅ‼
どれ、コムギ殿の返事はどうなんじゃい⁉」
「さあ」
「さぁ‼」
「さあ‼‼」
ちょっと面白がっているからか、意地悪そうな笑みを浮かべるパシェリさんを含めた、ドゥーブル一家の筋肉野郎共はポージングしながら煽り、ドゥーラさんはニコニコしながらただ見届けようと待機している。
間違いなくからかわれているが、オレも男だ。何かしらの返事はせねばなるまい、リーンに伝えなければ。
リーン、か……。
よく気が利いて、愛想も良く、礼儀正しい素直な子。
小柄だがそれを補って余りある程に活動的な彼女の頑張りと、太陽の様に明るく周りを元気にする屈託の無い笑顔。懐かれて悪い気がする男はまずいないだろう。
オレ自身もリーンに励まされたり助けてもらった。なにより彼女のひたむきに頑張る姿は好感が持てるし、これからも手伝ってもらいたい。
――よし。
「オレは」
「「「「オレは?」」」」
「リーンを」
「「「「リーンを⁇」」」」
その次の言葉がいかなるものか。
わくわくと期待し、固唾を飲んで見守るドゥーブル一家。
だがそこへどこか聞いたことのある、わずかに空気の漏れるような音が聞こえ始める。
「……?」
――すぅ……――すぅ……
「……ん?」
「えっと――……リーン、寝てますね……」
「「「「残念っ‼」」」」
「――コムギしゃん……むにゃむにゃ……」
リーンを用意してもらった客室に寝かしつけた後、結局ドゥーブルさん一家と飲み明かし、オレも一晩泊めてもらう事になった。
◇◇◇
翌朝。
少し早く目が覚めたリーン。
わずかに痛む頭を押さえながら考えるが、昨晩から今に至るまでの記憶が曖昧だ。
まず、ここはどこか?
宿屋のベッドではない。
上質だが、空間に配置された家具は最低限。
宿屋でないとすればここはドワーフの長、ドゥーブルの屋敷内の客室だろうか。
だがなぜ自分はここにいるのか?
「コムギさんがドゥーブル様に認められて、果実水を飲んだところまでは覚えているのでありますが――その後は……あれ?」
知らぬが仏。
もし彼女が昨夜の自分を知ったらあまりの羞恥に悶絶し、コムギやパシェリと顔を合わせる事は出来ないだろう。
特にあろう事か、自分の気持ちをコムギが知ってしまったなど――。
「とりあえずコムギさんが認められたので良かったであります!次はノース山脈で魔石探し、頑張ってコムギさんのお役に立つであります‼」
疲れが取れたからかやる気に満ち、意気込むリーン。朝食を取る際にコムギが少し恥ずかしそうに自分と接していたのは不思議で印象的だった。
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