第118話 ノース山脈①休憩と敵意
「ふっ――……はっ――……ふっ――」
少しずつ薄くなる空気のせいか、それとも疲労のせいか。疲れないよう、リズムよく呼吸をながら街の北にあるノース山脈から続く山道を延々とひた歩く。
時折現れるまばらな傾斜と舗装などされていない、ほぼ自然のままに荒れて歩きづらい砂利道。
そして徐々に近づいてくる山脈の奥から感じる不穏な雰囲気は、まるでオレ達の歩みのペースを見出そうとしているかの様だ。
「コムギさん、リーン大丈夫ですか?」
先頭を歩くパシェリさんは時折後ろを振り返り確認してくれる。荒れた山道だ、足を取られたりして怪我や滑落などの危険があるからだ。
「大丈夫です」
「大丈夫であります」
そろそろ山の3合目くらい。今の所は問題無く、順調なペースで来ている。
職人同士、すっかり打ち解けたドゥーブルさんから許可を貰い、オレ達は魔石を求めてノース山脈を登山している。
入山にあたり、決めた約束は探索は3日以内。3日経ったら必ず下山する事。荷物の容量や疲労を考慮するとそれが限界だからだ。
加えて魔石に関しての情報も聞いた所、昔採取された魔石は山の中腹辺りで入手されたらしい。どんな形で入手したかは不明、噂では魔物の死骸からたまたま手に入れたのではないか、との事だ。
具体的な情報は少ないが、まず目指すは中腹。そしてそれらしい魔物を探す事が目的となった。希少な魔石だ、そうそう見つからないとは言うが……。
時折雑談しながら歩いているので、訊ねてみると魔石を2人共見た事があるらしい。
リーンは中央研究所の標本、パシェリさんはドワーフの工房で見たらしい。
中央研究所ではマイスさんが、工房の組合長であるパシェリさんの弟バジィルさんがそれぞれ大切に保管しつつ、活用法を研究しているとの事だ。
「コムギさんは氷の魔石を手に入れたんですよね?」
「あぁ、でも店に置いてきたけどね」
「コムギさんのお店、行ってみたいであります‼」
「私も気になりますね、氷の魔石を使って食材の保管をするなんて聞いたことありませんよ」
「ぜひ来てよ、パンならたくさんご馳走するよ?」
「「ぜひ‼」」
こんな他愛のない会話もしつつ、途中開けた見晴らしよく、安全が確保しやすい場所で休憩を挟みながら山道を進む。
休憩の食事は枝豆パンにトマト、ベーコン、レタス、目玉焼きを挟んだサンドイッチを持参してきたのでそれを食べる。ちなみに痛まないよう【
「うーん!
このサックリとした歯ごたえのパンに、カリカリのベーコン。
塩ぽさを和らげ、マイルドな味にしてくれる目玉焼きと、酸味のアクセントを演出するトマト。
彩り良い緑と白と黄、赤の4色の組み合わせ――見た目から美味しく感じさせるなんて、パンに具材を挟むこんな料理があるとは⁉」
「食べごたえもあって、パンだけで食べるより美味しいであります‼」
「そりゃ良かった、このサンドイッチは栄養的にもヘルシーだからね」
「サンドイッチ――それがこの料理の名前でありますか?」
「うん、サンドイッチはパンに色々な具材を挟むんだよ。
おかずみたいな惣菜から、ジャムやクリーム甘い物までなんでもオッケーの幅広い可能性を秘めた食べ方だね」
2人とも空腹であることも相まって夢中でかぶりついている。
――サンドイッチか。
山で食べるのはこれで2回目だな。
前にも魔石を取りに来た時に食べたっけ。
あの時はアンさんが隣にいて―……。
元気にしてるかな……、アンさんも、みんなも……。
「コムギさん、どうしたでありますか?」
「いや、ちょっと前の事を思い出してね。
氷の魔石を手に入れた時も山でサンドイッチ食べたからさ」
「そうなんでありますか、氷の魔石は1人で取りに?」
「いや、あの時はアンさんと一緒だったよ」
「アンさん……⁇」
不意にリーンの表情が強張る。
何かを察知し警戒するかの様に。
「アンさんはブーランジュ王国の公爵令嬢だよ。世話になったし、オレが帝国にくるキッカケとなった人だね」
「――ふーん……。
じゃあその人には感謝でありますね、コムギさんと出会わせてくれたのですから。
もし、会う機会があれば直接ご挨拶をしたいであります」
……なんだろう。
悪意は無いが敵意を感じさせる冷たい響きが交じっている気がする。
パシェリさんもそれを感じたらしく、ははは……、と力無い乾いた笑いをしていた。
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