魔石を求めて

第8話 いざ雪山!

 ショーニさんがドラゴンや氷の魔石について色々と教えてくれる。

……パンを片手に、決して離すまいと握り締めながら。


「まずドラゴンは国境にある山脈地帯に群生してます。基本的に山からは出てきません。

なのでこちらから狩りに行くしかないのです」


「わからないんですけど、ドラゴンって何か悪さでもするんですか?

しないならなんだか可哀想だ、あまり気乗りしないな……」


「基本的には魔物ですが、悪さはしませんよ、ただ死骸であっても全身あちこちに莫大な価値があるのです」


「……魔物?」


「魔物ですが?」


「……なにそれ?」


「「え‼⁉」」


 2人が驚愕の表情でオレを凝視する。

わからんもんはわからんのだから仕方ないだろう……。


「……いや、ご冗談でしょう?

まさか魔物を知らないはずは……」


「本当に知らない、だから魔物について教えてくれ」


「魔物は魔力を持った野生生物の総称です。

ドラゴンも含め、身に宿した魔力によって多種多様な現象を起こせるので、身体の部位だけで価値があったりします。

羊だって毛自体に価値がありますよね?

それと同じです」


「なるほど、なんとなくわかった。」


「で、ドラゴンを倒すにはどうしたらいいんだ?」


「それなのですが、氷の魔石が御所望なのですよね?ならばドラゴンを倒さずとも良いと思われます」


「「うそ⁉」」


「実は最近手に入れた確かな情報筋からの話なのですが、氷の魔石は元々ドラゴンの巣の辺りで入手できる鉱石が変化した物らしいとわかったそうです。


詳細まではわかっていないようですが、どうやら非常に寒い山の中という環境と、ドラゴンの巣の中という条件によりなぜか氷の魔石に変わるようです。

ちなみにその鉱石をドラゴンはエサにしているらしいので、場合によってはドラゴンから逃げたり、最悪戦う必要があるかもしれません。なのでそれに見合った準備をいたしませんと……」


「なるほどな」


「いつから行くご予定で?」


「これから」


「……え?……は⁇」


「準備が出来次第すぐにしたい、あとどれくらいかかる?」


「いやいやいや‼‼‼

ち、ちょっと待って下さい、相手はあのドラゴンですよ。ピクニックに行く訳じゃありませんよ‼⁇

しっかり装備や人を揃えなければ無理ですよ!

どんなに早くてもあと数日はかかります」


「そんなに待てん!

アシが早いものはすぐに痛み始めるのだから‼」


「(そんなに緊急なのか……⁉)」


……一体何が起きるというのだ⁉

ショーニは凄腕の商人、そしてキレ者として今の地位を一代で築いた。そんな彼の武器は膨大な情報を処理する頭脳と、未来を正確に読み通す分析力があるのだが、すさまじく空回りしていることに誰も気付かない。


――まさかパンのため、食材保管のために一億もする氷の魔石を所望する男がいるなど夢にも思わないからだ。


 甚だしい勘違いの舞台の幕が誰にも気づかれることなく今、開こうとしていた。


◇◇◇


「……本当に行くつもり、なのですか?」


「ああ、時間がないんだ。

最低限の装備でも用意してくれてありがとう。

そのパンはここのみんなで食べてくれ!

じゃあ、行ってくる‼」


 矢継ぎ早に告げ、コムギは登山用具と寒冷地対策の衣服を纏い、山脈方面行きの馬車に乗り込んだ。

……彼女と共に。


「あの……なんでついてきたの?」


「え、だって目の前でなにもわからない人が危険な所へ行こうとしてるなんて、騎士として放っておけません。

……それに私にもので」


 確かに色々わからんからパートナーくらいは欲しいと思っていたけど……。

しかし彼女の都合って?


「話を聞く限り、とても危険な場所なんだろ?そんな場所に君みたいな、かよわい女性と行くのはあまり気が進まないな……」


「――っ‼

かよわい……(ぽっ)」


(異性の方に生まれて初めて言われましたが……物語の中では良くありますが、実際に言われるとこんなに恥ずかしく、胸がときめくものなのですね……)


「大丈夫か?」


「はっ、はい!

あ、それとご心配には及びません。私こう見えても結構強いんですよ?」


「まぁここまで来ちゃったし今さらだけどね……。

ところですごく気になってるんだけど……オレ達お互いの名前を知らないよな?」


「あっ!

そうですね、すっかり自己紹介を忘れてましたね。すみません……。

私はアンジェリーナ・フォン・ドボーです。

アンとお呼びください」


あんぱん好きのアンか、なんだかわかりやすい。


「オレはコムギ・ブレッド。

コムギでいいよ。

よろしくね」


「コムギさんですね、わかりました!

こちらこそよろしくお願いいたします」


 遅れた自己紹介を山に向かう馬車の中で、自然と柔らかな空気の中ですることが出来た。

すかさず、まるで会話の区切りを待ちかねたかのように御者が声を掛ける。


「お客さんたち、そろそろ着きますよー」


いよいよ雪山か、待ってろよ、ドラゴン!

そして氷の魔石……‼

オレのパンのために‼‼

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