第7話 ショーニという男

「ご無沙汰しております、ショーニ様。

ご多忙のところ申し訳ありません。

突然の非礼をお詫びします」


「いえいえ、相手なら私はいつでも歓迎致しますよ。

ますます美しくなられましたな。

日々のご活躍も聞き及んでますよ。

さすがは『公麗騎士』と名高いだけはありますな」


――

偉いのか、金持ちなのか?

『公麗騎士』とやらも一体?



 わからない単語が飛び交う会話をする2人を何も言わず見ていたところ、彼女が本題を切り出す。


「早速で申し訳ありません。

ショー二様に本日、用があるのはこちらの方でして」


「……ほう?」

 ショー二という人がチラリと目をこちらにやる。なにか品定めでもされている様な、悪意は無いが只ならぬ視線を。


「単刀直入に申しますと、こちらの方が『氷の魔石』をご所望なのです」


「――なっ……!

氷の魔石ですって……本気ですか……⁉」


 スゲーびっくりしてる。

威厳のある顔が百面相してるのは見てて面白いが、あの反応からするとかなり厄介そうな匂いがする。

しかし、そんなにすごいものなのか……?


「お聞かせ願いたい。

一体なんのために……ですかな?」

 

 ごくりと唾をのみ神妙な顔でオレに真意を尋ねる。馬鹿にされないか心配だが、オレにとっては何より大切な物を守るためだ。正直に打ち明けるとしよう。


「食材の保管のためだ。

このままでは全てダメになってしまう、それを避けたい」



「――‼

(『あのお嬢様』がわざわざ事前の連絡も無しに連れてきたこの男は一体……⁇

まさか何かとてつもない、未曾有の危機でも迫っているとでも言うのか……?)」


 今度は打って変わって神妙な顔になるショー二さん。コロコロ変わって忙しいな、この人。


「わ、わかりました。

具体的にお話を伺いましょう」


「よくわからんがとりあえず、ドラゴンを倒せば1億が手に入り、氷の魔石とやら が購入が出来ると聞いた。

そのために必要な情報、道具など一切が欲しい。


 もし代金が必要だと言うなら、今のオレにはこのパンしかない……‼

 オレの命と同じくらい大事なパン達のためなんだ!

代金はいつか必ず払う、だから――どうかよろしく頼みます‼」


 そう言って大きなビニール袋4つ、いずれもパンパンに詰まったパンを渡す。

道中、重みでだいぶつぶれているが仕方ない。


「こ、これは ……?

パンと言いましたか??

これが?」


 まるでパンを初めて見るような顔で、くわっと刮目してから、チラリとお嬢様?の方にショー二さんが顔を向け質問する。


「ショー二さんも召し上がってください、がありますよ?」


「いやいや、パンごときで大袈裟な……」


「あ"ぁ⁉」


 パン如き……⁉

確かにそう聞こえたが、相手は大事な情報をくれる相手だ、ガマンガマン……‼

 オレの漏れ出る怒気を両者が感じたらしく、そそくさと話を進める。


「ささ……そのまま、がぶり、とどうぞ?」

「そ、そうですな。では――」

 

 ショー二さんは『あんぱん』を手を伸ばし、そしてゆっくり口に運び……。



「うんままままあ‼‼⁉」



 本当に百面相だな、ショー二さん。

予想通りのリアクションだと、愉快そうにクスクスと彼女が笑う。


「なななんですか、これは⁉」


「『あんぱん』です」


「『あんぱん』……いや、衝撃的な味です。

上品な甘さでありながら、くどくなく、舌の上でサラリと溶ける……。

これは素晴らしい……。未体験の味だ。

さぞ高価なのでしょうな……。

これ程の物をしかもたくさん、他に何種類もあるなんて……。

――わかりました。

対価としては十分でしょう。

ドラゴンについての情報や資材、全てこちらで用意させていただきます」


「やった‼」

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