第120話 ノース山脈③遭遇

 憤慨の感情も合わせ、赤面するリーンをよそに彼女の昔話を色々聞きつつ、同時に魔石の手掛かりがないか警戒しながら山を登る。


「だいぶ歩いてきたけど、何の手掛かりがないなぁ……」


「ちなみにコムギさんは氷の魔石をどこで手に入れたんですか?

何かヒントがあるかもしれません」


「氷の魔石はドラゴンの巣に落ちてたんだよ、そこにある鉱石が魔石になるって聞いたし」


「「……え?」」


「魔石はドラゴンの巣にゴロゴロ落ちてたのを拾っただけ。こんなんじゃヒントなんてないよ」


「「いやいやいやいや――‼‼⁉⁉⁉」」


 足を止め、驚きのあまり2人が上げた大声が辺りに木霊こだましながら響く。


「え、コムギさん。

待ってください。

……ドラゴンの巣って言いましたよね?

しかも魔石はそこで拾った……⁉」


「本当にドラゴンの巣――そんな危険極まりない所に行って、魔石を取って帰ってきたんでありますか⁉」


 事実を述べただけなのに、未知の珍獣を見るかの様な、なんとも言えない目を向けられオレはどうしたら良いのやら。


「なんでそんなに驚くのさ?」


「いや、だってドラゴンを相手にして無事に帰ってきた者は今までほとんどいないんですよ⁉」


「そ、そうらしいね?」


 たしかに無事に帰って来れたのは奇跡的に『パン職人』の能力を使える様になったからだもんなぁ。


「それにドラゴンの生態はほぼ分かっていないので、そこから戻ってきたと言うだけで情報に価値に生まれるのであります!

ましてや、それが魔石ともなると………」 


 ふんふんっと鼻息を荒くし、興奮と共に上がっていく2人のボルテージ。片やイマイチ事の重大さが理解出来ず、逆にクールになっていくオレ。


「ん?――て事はこのノース山脈にもしドラゴンとかの大きな魔物がいたら、その巣に魔石があるんじゃない?

もしくは魔鉱石がたくさんある所があれば見つかるかも――」


――ピタッ


 言葉に反応したのか、2人がまるで一瞬で石化したかの様に動きを止める。蝋人形が如く、固く無機質な感情を感じない表情を浮かべながら。


「……」

「……」

「……え?」


 固まったままの2人はその場から全く動こうとしない。いや――正しくは動けなかったのだ。辺りに巨大な影を落とす『それ』にオレ達の存在を悟らせないよう息を殺していたから。


「……いました」

「……いたであります」

「……いるね」


 空を舞う影の主。

翼長は30メートルほど、全身を蒼黒色の羽で包み、スラリと伸びた尾羽根は黄金色をしている。

目を引くのは頭部に生えた3本の角とマカロニペンギンの様な尾羽根と同じ黄金色のたてがみ。額と左右のこめかみに生えた角は水晶の様に透き通り、時折光を反射して煌めいている。


「まさか――あれは――……‼⁉」


 パシェリさんがどうゆう訳だか感激している。『巨大な竜のような鳥に似た生き物』とでも形容詞するのが適当だろう。決して視線を外さず、しかし自分達の息は殺したまま『それが』頭上を過ぎ去るのを待つ。


「「「…………」」」


 バッサバッサと巨大な羽根を飛翔というよりは滑空のために羽ばたき、優雅に空を滑りながらゆっくりとオレ達の頭上、視界から消えていった。


「……行ったよね?」

「……行きましたね……」

「……緊張したであります……」


 時間にして1〜2分。

短い僅かな時間だったが、体感的にはその数倍以上に長く感じる程にオレ達は緊張からな身動きが取れなかった。


「パシェリさん、『あれ』の正体がなんだか知ってたみたいですけど……あれは一体⁇」


「――『雷竜鳥サンダーバード』、このノース山脈の主と呼ばれる伝説の鳥です。

絶滅したか、実在しない鳥だと言われていましたが、まさか実在するなんて……」


「そんな生き物と遭遇するなんて運が良いね。……襲われたらひとたまりも無さそうだけど」


「あの鳥に見つからない様に慎重に行くしかないでありますね、他にも何かいるかもしれないですし」


「そうですね、これからは今まで以上に辺りを警戒しながら進みましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る