第121話 ノース山脈④想定外

『警戒する』


 ありふれた表現だが、それが出来るのは意識と想定の範囲内に脅威や危険がある場合の話。


 だが、もし。

意識の範囲外、想定を上回る想像以上の出来事が訪れたら――。 

 言い換えるならば不意打ち、または奇襲。

いくら厳重に警戒をしていても、標的となった者は無防備かつ唐突に意思と意識、最悪の場合は命を刈り取られる。


 安易な発想や認識の甘さが招く危険。

その重大さをもっと早く自覚していれば……そうオレ達は後悔する事になる――。


◇◇◇


「魔石は魔鉱石がなんらかの要因で変化した物――となると……」


 闇雲に探すのは効率が悪すぎるし、危険が増すだけ。そう認識を改めたオレ達は話し合い立てた仮説を元に探索行動を再開している。


 モノ作りに詳しいドワーフであるパシェリさん曰く、材料に使う鉱石を取るなら山肌の露出した所か深い洞窟の中が良いとの事だ。


 洞窟と言えば昨夜休んだ所を提案するが、そこはたかだか10メートルくらいの奥行き、かつパシェリさんが確認したが、めぼしい鉱石は無かったらしい。


 というわけで、現在は露出した山肌か深い洞窟を探している訳だがそう簡単に見つかる訳もなく……。


「……見つからないね」

「……見つからないですね」

「……見つからないでありますね」


「「「う〜ん………」」」


 そもそも広大なノース山脈を歩いて探すのは効率が悪すぎる。衛星写真みたいなもっと広域的な視野で探さないと。

例えば鳥みたく高い所を飛んで――。


「あぁっ⁉」


「ど、どうしたんですか⁉

なにか見つけましたか⁇」


 突然の声に驚きつつ、反射的にキョロキョロと2人が辺りを見渡す。


「ご、ごめん……。

見つけたとかそうじゃなくて、うっかりしてた」


「……?

何をでありますか⁇」


「オレが飛んで空からありそうな所を探せば早いんじゃない?」


「「……あ‼」」


 皆で忘れていたというか盲点だったと言うか、もっと早く気付くべきだった。

自分の能力なのにすっかり失念していた事を反省する。


「じ、じゃあオレは空から探すという事で……2人はどうしようか?」


「とりあえずこちらはこちらで探しますよ」


「もし見つけた場合は、どうやって知らせる?」


 当然スマホや携帯電話がある訳ではないので、こうゆう時改めて文明の利器の素晴らしさを感じる。


「発煙筒だと大袈裟ですし、万が一魔物を呼びかねないですよね。

――コムギさん、これを使った事ありますか?」


「なにこれ⁇」


 手渡されたのは、手のひらサイズの丸く平べったい石の様なもの。化粧コンパクトくらいのサイズと軽さで一見したところ何か仕掛けがある訳でもなさそうだが……⁇


「見るのは初めてですかね?

これは『共振石』と言います。

この石は特殊な性質がありまして、割って互いに持ち合い、50メートル以内に割ったカケラ同士があれば振動して反応するんです。

加えて、一言程度なら振動に合わせて相手に伝えられるので簡単な連絡なら取れますよ」


「すごい!こんな便利な石があるの⁉」


「それに近付くにつれて振動が激しくなるので、互いの位置も確認しやすくなります。

ただし効果は半日位ですが、まぁ我々にはちょうど良いでしょう」


「じゃこれを割って3人で分けますか。

みんなで持ちあえば迷子にならないね」


 早速近くにある手頃な石で6つに割り、3人それぞれ2つずつ持つ。そうすればそれぞれが確認し合う事が出来るからだ。

 そしてオレは空から石が振るえるギリギリの距離まで、2人はすぐ駆けつけられる距離30メートル位離れ、なるべく広く探せるように決めた。


「じゃ何かあったり見つけたら連絡を取りつつ、知らせに戻るから」


「はい。

念のため、緊急や有事の際にはそれぞれが持つ発煙筒を使うという事にしましょう」


「了解であります‼」


 そうやって各々が散らばり、捜索が始まる。共振石が振るえているうちは互いに近くにいる。つまりポケットに入れ、布越しに伝わる振動が互いの無事を知らせる安心の証でもある。

 探索を始めて、約1時間。

探せど探せど手掛かりや見当がまるでつかない。

 もう少しで夕暮れ時。

日が落ちたら探せなくなるから早く見つかって欲しいと願うが、そう上手く行く訳もなくはやる気持ちが胸をざわつかせる。


「――ん?

あれは……‼」


 視界の端に捉えた空を舞う影。

それには見覚え――いや。

つい先程、遭遇したばかりなのだから忘れようもない。そいつはオレには目もくれず、急速に2人がいる斜面の森を目掛け急降下した!


まさか――‼⁉


 悪い予感は当たるもの。

そして、そもそも共振石に致命的な欠陥があった事に今更気付く。

 石が知らせる振動によって、互いの距離はなんとなくわかっても、のだ。

だから誰が襲われたかすぐには判別出来ない。


 急降下したそいつは見事に速度を活かした奇襲を仕掛け、一瞬で捕えた者を脚で鷲掴む。そして奇襲後、すぐ離脱すべく空へ飛び去る瞬間を捉える。

 荷物ごと雷竜鳥サンダーバードに捕らえられたその者は衝撃によるショックか絶命したのか判別がつかず、意識と身体に力が無くグッタリとしている。


「あれは――‼」


 雷竜鳥サンダーバードは目の前で何が起きたか理解しきれていないオレを横目に、一瞬のうちに大空へ離脱する。慌てて追おうするも、猛烈な羽ばたきによる驚異的な加速と突風に遮られ、まんまと振り切られてしまう。


「くっ――‼⁉

くそ……。


リーーーン‼‼‼」


 連れ去られた仲間の名を叫び、自身の無力さを悔やみ反省する。

 山脈に虚しく響く彼女の名前を叫ぶ木霊が消える頃、連れ去られたリーンの共振石と対となる石の振動は、激しく響く鼓動とは対象的に静寂としていた……。

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