第84話 執事再び
『シュトーレン』
オレが元いた世界ではクリスマスの前から少しずつ食べるパンとして作られたものだ。
生地にはドライフルーツ、ナッツなどをたっぷり混ぜ込む。
シュトーレンの1番の特徴は『高い栄養価と優れた保存性』だ。
まず、混ぜ込むフルーツやナッツはビタミンを中心に栄養価が高い。食べごたえも含めて満足度も高い優れ物だ。
また普通のパンは膨らませるために混ぜ込む物を生地より少なくするのだが、シュトーレンは混ぜ込む物の量が生地より多くなるようにするため、膨らませないように特殊な製法と凸型の形状を採用する。そうすることで余計な空気が生地に入らず腐敗しづらくなるのだ。
そして最後、しっかり焼き上げたら仕上げに表面を砂糖で何層にもコーティングすることで見栄えを良くするだけでなく、保存時の乾燥を防ぐことが出来る。そのおかげで配合や保存環境にもよるが、約20日くらい日持ちするという保存性に優れたパンに仕上がるのだ!
◇◇◇
「……この白い固まりが、今回帝国に提案するパンなのか?
なんとも不思議な形だが……」
王様をはじめ、その場にいる皆が不思議そうに皿の上のシュトーレンを眺める。
たしかにパンと言われなければこの白い物体の正体が何だかわからないだろう。
「このシュトーレンは普通のパンと違って、丸かじりするのではなく、少しずつ切り分けて食べるんです。
美味しいだけでなく栄養面でも保存性にも優れたパンなんですよ?」
「ほう……‼本当にそんなパンがあるのか。
にわかには信じられなかったが、これがそうなのか。まさに今回の交渉にうってつけだな。
良くやったぞ、コムギ!
……さ、ではさっそく一口食べてみるか」
「っ……陛下!」
執事セバスが大声で静止する。
「なりません!
まずは私が毒味を!」
「バカタレ!
お前は喰いたいだけだろうが!
……聞いてるぞ。最近、コムギのパンをこっそり買いに行っていると。衛兵達がバッチリ目撃しておるのだぞ!
そんなお前の事だ、この新作を自分が喰いたいのだろう……⁉」
「なにを仰るんですか‼
私は執事として責務を果たそうと……‼」
「ならば、その顔はなんだ?」
――そう。
今の彼(セバス)は説得力が皆無の顔なのだ。明らかに口元が緩み、すこしヨダレを垂らしている。誰がどう見ても完全に食い気が先行しているようにしか見えない。
「……まあよい、とりあえず一口、セバス食べてみろ」
「ははっ!」
セバスがためらいなく切り分けられたシュトーレンを口に運ぶ。
「……陛下。
なりま……「よし、食うか」」
完全にセバスの意見は封殺される。
段々と扱いが雑になってきてないか?
皆がセバスを少し哀れみの視線で見ながら切り分けられたシュトーレンを口にする。
「「「「「うぅんんんんんまっ‼‼‼」」」」」
「甘い部分と甘くない部分がハッキリとわかれているので、くどくない!
そして、ホロホロと口の中で溶けるような生地の食感とアクセントになっているナッツやレーズン。
これは酒に漬けてあるのか?
大人な味わいと風味がたまらんな!」
どうやら皆も同じ感想のようだ。
これなら大丈夫かな!
人によっては少しパサつく感じがするので、シュトーレンの好みが別れる心配をしたけど杞憂だったかな。
「ふぅ……コムギのパンにはいつも感動するな。
これなら、あんのバカイザーをギャフンと言わせられるな!
アイツめ、これ食わせて絶対に吠え面かかせてやる!
ダーッハッハッハッ!!」
……趣旨は物流と国交の回復だよな?
なぜケンカを売るような話になるんだよ。
王様と皇帝はそんなに仲が悪いのか、、?
本当に話をまとめる気あるのかよ??
幾ばくかの不安を抱えながら、打ち合わせをした後、オレたちはベッカライ帝国へと出発した。
――道中、何もないことを願いながら。
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