第83話 切り札の名前

 国の一大事、その案件をオレが決めるの⁉


「いやいやいや⁉⁉⁉」


「なぜだ?

コムギしかおらんだろう?

パンについてお前以上に信頼出来る者はおらん。それに、お前のメロンパンが関わっているのだ。……悔しくないのか?

 あの硬い別物の黒いパンなんぞで、ケンカを売られたのだぞ?」


……たしかに。

 全くの別物を比較して、かつ一方的に『勝った』と思われるのは勘に触る。職人ならば正々堂々と同じ土俵で勝負すべきだ。

 なんだか沸々とした怒りと共にヤル気がでてきた。

 よーしっ……!

こうなったら帝国側にとって、魅力的な商品を提示してやる‼


「こうなりゃヤケだ、やってやりますよ‼‼

どんと任せてください‼‼‼」


――我ながらチョロい男だ、見え見えの乗せ方なのにパンのことになるとついつい……。

 ほら、だって王様が小さくガッツポーズしてるじゃん。本当にうまくノセられたよな……。


「で、コムギ。

実際どうだ、アイデアはあるのか?

なければ少しは時間を与えるが……」


「食料問題を解決するためのパン、ですよね?――ありますよ。」


「「「えっ⁉」」」


その場にいる全員が驚く。


「本当か……⁉

そんなパンがあるなんて知らないぞ⁇


大丈夫か?

口からでまかせは困るぞ……⁉」


 にわかには信じ難いのだろうか、王様がまん丸と目を見開いている。

――もしかして『あれ』が無いのかな?

たしかに『あれ』はここに無いかも。

念のため、王様に『あれ』について聞くと「なんだそれは?」との反応。


 よしっ!イケそうだ!

材料も揃うし、あとは作るだけだな。


「すみません、王様やっぱり一週間ください。そのパンに勝算はあるんですが、時間と手間がかかるんですよ、お願いします」


「1週間もか……うーむ……わかった!

仕方ない。リミットギリギリだから、それ以上は無理だからな?

いいな、勝つためだ。必ず1週間で作れよ!」


「はい!」


 すぐさま店に戻り、オレはパン作りに取りかかる。時間と手間がかかる分、このパンは美味しいのだ。ただ、本来のレシピならコストも掛かるが今回は度外視だ。


――見てろよ、これならイケるはずだ!


期待と願いをパンに込め、ついに1週間後のその日を迎えた。


◇◇◇


 出発前、無事に完成した『そのパン』を王様や皆に報告がてら見せる。

 普通ではない異様なその姿に皆が不思議そうに見ている。凸の形の白い砂糖でコーティングされた茶色い棒状のパン。

 それはまるで中の生地部分が柔らかい白い布で覆われているかのように見える。


「またもや見たことがないものだ……」と視線を釘付けにしていた、1週間かけて作った力作であり切り札。


 そのパンの名前は


『シュトーレン』


これで今回の交渉は勝負だ‼

――見てろよ、バカイザー‼‼‼

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