第136話 準備②追憶の我が城
「あの……コムギ先生、エッグバードを飼っていた、とは……??」
「――え?
言葉通り、野生のを捕まえてきて飼育スペースで飼っていたんですけど」
「(おい、エッグバードって捕獲出来るのか??)」
「(ムリだろ、警戒心が強くて近寄る事がまず出来ないんだから)」
「(しかし――……)」
にわかに厨房がざわつく。
どうやら信じられていないようだ。
真偽はともかく、エッグバードの卵が欲しいなぁ――店に帰ればたくさん使えるのに。
ここでは足りないものが多すぎる。
――生地を捏ねるミキサー。
――整形するモルダー。
――生地を織り込むシーター。
作業しやすいように考えに考えた効率的な厨房。お客様に配慮した見やすく、取りやすく、わかりやすい売場。
美味しいパンを買って食べてもらうだけに注力した自慢の店。
たくさんの人に食べてもらうための設備が王国に置いてきた我が城『ベーカリー・コムギ』にはあるのに――。
作業をする中で思案すると、妙に店が恋しくなる。
「……コムギ先生?」
「あ、はい。
すみません、なんでしたっけ?」
「あぁ、いえ――……何か考え事ですか?
ぼぅっ、としてらしたので……」
見渡すと同じく心配そうに、どうしたんだろうという眼差しが他の料理人からも向けられている。どうやら一瞬だが、上の空になっていた様だ。
いかんいかん、オレがいるここは厨房。
危険もあるし、気を引き締めねばならない場所だ。
「えーと、次は……」
「コムギ先生、本当に大丈夫ですか……??
きっと質問攻めでお疲れになったのでしょう、本日はこれまでにしてお休みになってください」
「いや、しかし……」
戸惑うオレを囲む料理人達の空気は2つの色が混じっている。1つは野心と向上心に燃える熱意の赤。もう1つは心配し冷静に状況を見極めようとする青。
「我々も興奮しすぎました、いまやコムギ先生は帝国になくてはならない御仁です。もっとしっかり指導して頂けるよう精進致しますので今日はどうかご自愛ください……」
クックさんの嘆願の声に場の空気は一気に平静を取り戻す。
「わかりました、クックさん。
じゃあ今日はこれまでという事で」
「はい、お時間があるときにまたぜひよろしくお願い致します」
料理人達に見送られ、厨房を後にするオレは皇帝達が待つ執務室に向かった。
厨房から出て、廊下の窓から外をふと眺めると、いつの間にか太陽は傾き、空は夕陽色になろうとしていた――。
◇◇◇
一方。
昼食を終え、先に執務室に戻っていた皇帝、マイス所長、タイガー騎士団長、力の賢者カマ・ン・ベール、斥候隊長パシェリ、リーン&サンちゃん。
皆、昼食の余韻もそこそこに座り心地の良い最高級ソファーに身体を預け、少しうっとりしていた。
「うーん、美味しかったであります!」
「ふふんー!サンドイッチは神獣が認めた食べ物だっピ、美味しくて当然だっピ!!(ドヤァ)」
「「「(((お前が作った訳じゃないだろ)))」」」
得意気になる時々駄鳥っぷりが顔を出す神獣サンちゃんを余所に、腹が落ち着くにつれ、一同は次第に神妙な顔へと変わっていった。
なぜなら皇帝が回復しつつある帝国の状況下、久しく見せなかった険しい顔をしているからだ。その苦悶の表情からは重く、秘めた悩みを口にしようとしているのが見てとれた。
「――コムギのこれからの処遇をどうしたら良いだろうか?」
その場にいる誰もが抱いていた疑問。
放たれた言葉の鋭く、重い威力ゆえに、咄嗟に答えられるわけもなく。
どうしたものかと、ただただ閉口するしかなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます