第113話 ドワーフ④面会

――ちょっと待って。

この身長2メートルはあるガチムチの毛深いおじさんがドワーフの長ってこと⁉

どう見てもファンタジーに出てくるドワーフのイメージの姿じゃない⁉


「ささ、コムギ殿、リーンもこちらへお掛けください。

――では紹介します、こちらがドワーフの長にして私の父である、ドゥーブルです」


「遠路はるばる御苦労でしたな、ワシがドワーフの長、ドゥーブルですじゃ」


 貫禄のある髭を蓄えたガチムチの長――間違えたドワーフの長、ドゥーブルさんが座りながら肩の筋肉を見せ付けるかのようなポージング《サイドチェスト》をとる。

――確かに肩に重機乗っけてるわ。

しかし何故に突如ポージングをするのかと狼狽してしまう。


「ど、どうも初めまして。

私はコムギと申します。こちらはリーンと言いまして、私の護衛役です」


「ふむ、してコムギ殿は何用でこのドワーフの谷に来たのかな?

帝国とは密約を結び、我らもその為の掟を守りながら生きているのだ。

それを踏まえた上での来訪、余程の理由なのでしょうな……?」


 こちらの真意を図るように、同時に苛立ちを込めた眼差しがオレを刺す。

これは理由を正直に言わねばならないだろう、そう判断するのに時間は掛からなかった。


「ご子息が親善大使と言う事を伺いまして、定期報告と先日の亀の魔物の被害の確認を兼ねて参りました。

そして、私個人としてはここよりさらに北に位置する山にて魔石を採取したいと考えております」


「なんだと⁉」


 正直に話し過ぎたか?

身を乗り出し驚愕を露わにするドゥーブルさんは全身の筋肉を膨張させる事で驚きを最大限に表現したいのだろう、今度もポージング《モストマスキュラー》――ポージングがドワーフのリアクションなのか……⁇

 いちいちポージングを取るドゥーブルさんにリーンもポカーンと口を開け唖然としている。


「ふん、亀なんぞ我らの筋肉チカラの前に無力、全く問題なかったわ。むしろワシらに恐れをなして谷向こうへ逃げていったくらいじゃわ。

むしろ問題はお主が言った魔石うんぬんの方じゃよ。

……悪い事は言わん、命は大事にすることじゃ」


 やはりそう言うよな、ただでさえ危険な場所だと知っていて近寄る命知らずが絶えないんだから。


「そうですよね……はぁ、どうしよう……」


「しかし、なんだってお前さんが魔石を欲しがるんじゃ?稀少な魔石だ、帝国は兵器開発や大規模な魔法研究でもするのか?」


 魔石ってそう使うのか、ただの便利な石じゃないんだな。冷蔵庫や冷凍庫に使ってるオレは奇妙なヤツと思われるかもしれないな。それにいきなり帝国から来た人間が魔石を欲しがるのは不思議がるのも無理はない。

ドゥーブルさんのオレを見る目が一層厳しくなった。


「いや、店のオーブンや機械に必要な電気とかに使えないかと思ってまして……」


「オーブン?キカイ?なんだ、それは?」


「あ、そうか。

そこから説明しなきゃな、えーと……――」


 まずはオレがパン職人である事、そしてオーブンや機械について説明し始めるとパシェリさん、リーンも興味深そうに話に耳を傾ける。2人共まるでお伽噺でも聞いているかのように半信半疑みたいだ。

だが一番真剣に話を聞いており、興奮したドゥーブルさんは徐々に鼻息を荒くし、話を終えると遂にはテーブル越しからオレの襟首を掴み引き寄せる。ボリュームのある剛毛の髭が当たってチクチク痛い。


「なんと!そんな物がこの世にあるじゃと!

信じられん、一体誰が作ったのだ⁉我らドワーフが物作りで遅れを取るとは許しがたいわぃ〜〜‼」


 力いっぱいに、グワングワンとオレを揺さぶるドゥーブルさん。こんなに力強く揺さぶられた事はない、身体が飛んでいってしまいそうな程に浮遊感を感じる。


「――ちょ、ちょっと待って……気持ち悪い……うっぷ……」


「おっと、こりゃすまん。

つい興奮してしまったわい。じゃが本当か?そんな炎ではなく熱源でパンや料理を焼く物や生地を自動で混ぜる物があるなどにわかには信じられんぞ。生地は手で捏ね、石窯や竈で焼く物あろう」


「ほ、本当ですよ。それに氷の魔石は手に入ったので冷蔵庫や冷凍庫に使ってましたけど問題なかったです」


 興奮と混乱でポージングが上手く決まらないらしい。身体のあちこちを、せかせか動かしながら悩んだ挙句、昔美術館で見た『考える人』みたいな椅子に腰掛けて丸く縮こまったポーズになった。しかし筋肉がモリモリなのでボリューム感がすごい。


「氷の魔石を持っているだと⁉⁉

それに、れい……ぞー?れい……とー⁇

さっきから次から次へとわからん事ばかりだ、何なんだお前さんわ⁉」

 

――ただのパン職人なんですけど、はい。


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