第13話 魔石の行方

――はて?

しかし氷の魔石とやらは、ドラゴンの巣のどこに、どんな形であるのか。全く情報と手掛かりがない。


「氷の魔石ってさ、どんなの?」

 我ながらアバウト過ぎる質問だ、だって他に質問の仕様がないからね。


「ショー二さんが言うには氷の魔石はそんなに大きくないらしいですよ。手のひらに乗るくらいで、色は輝く薄青色、だそうです。

前に違う魔石を見たことありますが、独特の輝き方をするので見たらすぐにわかりますよ」


 ダメだ、銀世界に広がる輝きのどれが魔石なのかさっぱりわからない。ということは、あのドラゴンの巣に近づかないとダメなんだな。かなり怖いが仕方ない。


 慎重に、慎重に……一歩一歩、巣があるであろう辺りまで少しずつ距離を縮めていく。


 すぐ横ではドシン、ドシン、とドラゴン達が歩く。巨体から繰り出す大きな足音に恐怖を感じながら、オレたちは岩陰に隠れながら歩いている。

そろり、そろりとあくまで慎重に。


 しかし、こんなに近いとバレそうなもんだが、意外とバレないもんなんだな。

――よし、なんとかこの辺なら探せるだろう。ここはドラゴン達がさっきまで群がっていた場所だ、何かあるに違いない。


「(……で、どうゆうとこに魔石がある、とか傾向とかあるのかな?)」


「(いえ、巣の辺りによく見つかるとしか聞いてないです……)」


「(うーん……)」


 ドラゴンに感づかれない様になるべく小声で会話する。それだとこの辺が怪しいと思うんだけどなぁ。


――キラッ。

そういや、この辺だけ地面や岩肌がな。

良く見たら雪が反射してるのかと思ってたけど違うぞ?何が光ってるんだろ?

すごく綺麗な石だ、なんだか不思議な輝きをしてる――。


「この輝き、もしかして魔石じゃない?なーんて……」


「あ、はい、そうです。

魔石はこんな感じの輝き方です」


「「………」」


「「えぇ〜〜〜〜っ‼‼‼⁇⁇」」



一拍置いて仰天する。

まさか、一体なんの冗談だ⁉

良く見ると探していた魔石がそこかしこにある。こんなに容易くゴロゴロ見つかるなんて、魔石は貴重なんじゃなかったっけ⁇



『『『『グアアアアアアア‼‼‼‼』』』』


しまった!

あまりに呆気なすぎる発見に思わず声を出してしまった。二人で慌てて出来る限り、魔石を拾い集めてから逃げるが、パニックになったドラゴン達がオレたちを執拗に攻撃してくる。


バシン‼

バシン‼‼


 前足ではたくように攻撃するものもいれば、大口を開けガブリと噛みついてくるものもいる。


「逃げるぞ!はやく‼‼」


 オレ達は必死に、全力で洞窟に向かう。

もうここに用はない、とっとと下山だ。

全力でダッシュ……じゃない。

今度はアンさんを置いてかないようにしないと‼


 まさか襲われたりしてないよな、と後ろをちらりと振り返る。

 だが悪い考えが的中してしまった。アンさんが今にも襲われそうだ!ドラゴン達がすぐ後ろまで迫っている。


 オレは踵を返し、アンさんとドラゴンの間に割り込み、両手から全力で炎を出す。

そしてドラゴン目掛けてブンブンと両手と炎を振り回す。端から見れば、火柱がドラゴンたちに襲いかかるかのようだろう。


「どうだ⁉

火が怖くないならかかってこい!」


 寒冷地に住むドラゴン達には熱さが弱点らしい。火を見るなり、じりじりとたじろいだと思ったら反転して一目散に逃げ出していった。


 助かった……。

アンさんはもうダメかと思ったのか、腰を抜かしている。あわやドラゴンの攻撃から彼女を守れてよかった。まだ恐怖の余韻からか、立ち上がれないでいる彼女にスッと手を差し出す。


「もうドラゴンは行ったから大丈夫だよ」


「ほ、本当に……良かった……。

あ、あはは……さすがに怖くて腰が抜けちゃいました。

ありがとうございます。アイスグリズリーの時に続き、また助けられちゃいましたね」


「気にしないでよ、おかげで氷の魔石が手に入ったんだからさ。

お礼はこちらが言いたいくらいさ」


 アンさんは照れているのか顔を赤らめ、もじもじしながら上目遣いで要求を述べる。


「じゃお礼は『あんぱん』で……!

たくさん食べさせてくれるんですよね?」


「ぷっ……あはは‼

食い気があるなら大丈夫そうだ‼

あぁもちろん。『あんぱん』以外にも美味しいパンはたくさんあるんだ、それも食べてくれよな」


「はい!楽しみです‼」


 野生生物からの危機が去り、そんな会話をしながら無事下山したオレ達。麓の集落から出ている首都パリスへ向かう馬車に揺られながら帰路に着いた。


これで食材の保管に困らなくなるぞ、待ってろよ!愛しの我が


◇◇◇


 街に着くなり、すぐさま我が城『ベーカリー・コムギ』に向かい、閉ざされたシャッターを開ける。

 厨房の中で眠るように動きを停めている冷蔵庫を前にし、祈る気持ちで氷の魔石を冷蔵庫に入れてみる。

雪山から降りた今だから実感出来るが、例えるなら氷の魔石は溶けることのない超低音で強力な保冷剤。だからこそその効果を期待する。

――頼むぞ……。


 少し時間を置いて、改めて冷蔵庫を開ける。漏れだした冷気がかなり感じられる!

冷蔵庫の温度計も3度前後で、確実に冷蔵効果が出ているのがわかる。


「おお……ちゃんと冷えてる!

これならバッチリだ‼

もしかしたら沢山いれたら冷凍庫も使えるかもしれないな、いやぁ助かった‼

アンさん、本当にありがとう‼‼」


 彼女の両手を握り、ブンブンと振りながら礼を口にする。


「い、いえ……良かったですね」


 素直な屈託のないコムギの笑顔が眩しくて、思わずドキリとして顔を赤らめてしまう。彼女のおかげだ、感謝しなきゃな。

食材が無駄にならなそうで本当によかった‼


――ん⁇


 店の入口の方から何やらガチャガチャと騒がしい音と人の気配がする。


「失礼‼‼ここの主はいるか‼⁉」


「一体なんでしょうか?」

「さぁ?」

アンさんと2人で顔を見合わせ、不思議に思いながら声のする店の軒先に顔を向ける。

とりあえず様子を見るべく、奥の厨房から店先まで移動し、声の主を確認すると全身鎧の集団5人がいた。

 そして先頭の人がオレとアンさんの姿を見つけるなり、血相を変え大声で指差す。


「貴様を誘拐容疑で捕縛する!」


え?

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