第14話 狙い
――誘拐?
――オレが?
――誰を?
さっきまでずっと雪山にいたんですけど。
訳のわからない話の切り出しに理解が追いつかない。
「人違いじゃありませんか?
オレは誘拐なんかしてませんよ?」
「そちらにいる方を連れ去ったのだろう、言い逃れは出来んぞ!」
ぞろぞろと鎧の5人が店の中に入って詰め寄ってきた。……飲食店なんだからあんまり汚さないでほしいんだけど。
「……確保だあ!」
「え⁉」
「キサマ、言い逃れは出来んぞ?
現行犯だからな‼」
「い、いきなり……な、なんのことだ⁉」
オレは突如4人の鎧男たちに組伏せられる。さすがに抵抗して振り解こうにも振り解く事が出来ない。
「もう大丈夫ですよ、お嬢様。
ご安心ください」
「あなた達、何をいっているの⁉
彼を離しなさい!」
オレが組み伏せられる様子を見ていたアンさんが先頭の男に激昂しながら抗議する。事態を飲み込めないオレは唖然としながらただ見つめるしかなかった。
――本当に何がどうなっているんだ⁉
「そうは参りません!
貴女様を拐かした罪、こやつめは重罪人ですぞ」
「彼は何もしていません!私は無事です‼
私の言う事が信じられないのですか⁉」
「申し訳ありません、お父上からのご命令です!」
「お父様が……?
ならば私がお父様人掛け合います。だから彼を離しなさい」
「なりません 」
「どうして⁉
公爵家の一員である私の命令が聞けないのですか⁉」
「命令がお父上から下っている以上、貴女様の命令でも聞くわけには参りません、どうかお許しください。
……おい、連れてけ。」
「はっ‼」
「……っ‼」
アンさんは悔しそうに唇を噛み、下を向く。悔しさ、歯がゆさから拳をぎゅっと力いっぱいに握り締める、背中越しの彼女の表情を連行されるオレが知る術は無かった。
◇◇◇
キィ〜……ガチャン‼‼
まさかの人生初の牢屋である。
石畳で暗く、じめじめした所だ。
座ると石がゴツゴツしていてお尻がちょっと痛い。
しかしマジか?
一緒に雪山に行くだけで誘拐になるなんて厳しくない⁇やっぱり異世界だけあって価値観が違うのかな?
とりあえず気になるのは店だ。
戸締まりしてきてないし、悪戯されたりとか大丈夫だろうか?心配で仕方ない……。
――カツ、カツ、カツ。
廊下の奥から誰かが歩いてくる音がする。
そして足音の主はオレの牢の前で止まった。護衛をつれたその男は高級感ある衣服に身を包みアンさんによく似ていた。威厳と知的さを感じさせる立ち姿に只者ではないと初対面ながらにオレは察した。
「……お前か、娘を誑かした男とやらは?」
「何のことだ?」
「アンジェリーナのことだ」
「ああ、アンさんのことか」
どうやらこの男がアンさんの父親――公爵らしい。つまりオレを牢に入れた張本人か。
「気安く娘の名を呼ぶな」
「無罪の人間を牢に入れといて随分な言い草だな。別に彼女が呼んでいいというからそう呼んでるだけだ」
「ふん、まあいい……。
貴様、本当に魔石を取ってきたのか?」
なんだ、いきなり……。
まさか魔石が欲しいのか?
欲しけりゃ自分で雪山にいきなよ。
たくさんあったからさ。
「さてね」
「口の聞き方に気を付けろ!」
一緒にいる護衛が叫ぶが、公爵が片手で静止すると静かに佇まいを直す。
「たくさんあったから持って帰ってきたよ、それがなんだ?」
――なんだ、こいつらの高圧的な態度は?
オレだって落ち着いていられないんだ。
段々とイライラしてきた。
だが互いの温度差を埋めるかのように公爵が突如頭を下げ、驚きの提案をする。
「――頼む、どうかそれを譲って欲しい。
無論対価は払う」
「……へ?」
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