第133話 報告と驚愕③中央食堂にて
変態巨漢賢者のカマさんの魔の手から逃げ出し、昼食にサンドイッチを作るべく厨房に入る。
すると見覚えのある顔が。
「おぉ、コムギ殿ではないですか!
お戻りになったんですね」
オレの姿を見付けるなり嬉々と駆け寄る彼は、騎士団宿舎にある食堂の料理長。
たしか名前はクックさん――なぜここに?
「あれ、クックさんじゃないですか。
騎士団の食堂は良いんですか?」
問い掛けると待ってました、言わんばかりの嬉しそうな笑顔で答える。
「いやぁ、おかげ様で異動になりましてね。むこうは若い奴らに任せて、今はこの中央食堂で副料理長をしております」
「そうなんですか、栄転ですね。
おめでとうございます!」
「いやいや、これも全てコムギ殿に教えて頂いたマヨネーズの賜物です。
新しい味の世界の扉が開けたおかげで、もう料理をするのが楽しくて楽しくて!!
皇帝陛下を始め、皆様にご好評頂きまして。
ありがたい事です……コムギ殿には足を向けて眠れませんよ」
ペコペコと頭を下げるクックさんの姿を、周りの料理人達は意外そうな顔で見ている。
フラットな造りでバスケットボールコート2面分はある広い厨房、その入り口に立つオレ達。徐々に注目の視線が集まる。
「なんだ、副料理長が頭を下げてるぞ」
「一体あの人は誰だ?」
「おい、まさかあれは英雄のコムギ殿じゃないか!?」
作業の手を止め、ざわつき始める厨房。
……このままでは仕事の邪魔になってしまうな。
「クックさん、挨拶はこれくらいにして――すみませんが、ちょっと厨房を使わせてもらって良いですか?」
「もしかして、また何か作るんですか?」
「えぇ、まぁ」
「でしたらどうぞ、どうぞ!!
ちょうど端の作業台が空けられますのでそこを使ってください」
指示された厨房の端の邪魔にならない作業台。先ほどまで使っていたようだが、道具を片せば使えるらしい。作業はそこでやるとして、何を作ろうかな……?
「今日は何を作りますか?マヨネーズならすでにありますが……」
指差された方を見るとボウル一杯のマヨネーズが!どんだけマヨネーズ使うんだよ!?
「マヨネーズは全てを制す魔法の調味料です!マヨネーズをかければ、あら不思議♪
なんでも美味しくなりますぞ!」
クックさんがマヨラーに目覚めすぎて、もはやマヨ狂になっている。
マヨネーズはカロリー高いから食べ過ぎは良くないんだよな、過ぎたるは及ばざるが如し。
なんでも『バランスが大事』なんだよな。
――まぁ大量に折角あるんだし、使わせてもらうつもりだけど。
「……バランス、か」
ふと思い付いた言葉をカギに、少しずつ作りたいサンドイッチのイメージが固まりつつあった。確認のため材料保管庫に移動し、何があるか物色する。
六畳二間ほどの広さの食材保管庫には店を開けるくらい見事な品揃えがあり見るだけで製作意欲が掻き立てられる。ふと奥の棚に目をやると『ある物』に目が止まる。
「お、これとマヨネーズを組み合われば……それに合うのは――……よし」
やる方向性が決まり、改めて保管庫を見渡すと思い描く材料は全てあるようで、イメージ通りに作れそうだ。
さて、じゃいっちょやりますか!
◇◇◇
――……ゴクリ
城内一階にある中央食堂。
普段の昼食時は職務から解放された兵士らが気を抜き騒がしいのだが、今日の彼らは座るなり黙々と作業的に食事を口に運び、食事を終えた者からそそくさと食堂を後にする。
食べる音もたてづらい空気なので、食べるペースもほとんどの者がいつもより遥かに遅く、席を立てる者はなかなかいないのだが。
食堂の一角にある王族特別区画。
特別といっても折り畳み式の仕切りがあるだけで空間としては繋がっているので、何もない平日であるにも関わらず、食堂が妙な緊張感に包まれているのはこの区画から漏れ出すオーラが原因だ 。
区画内に設けられた専用席に座る皇帝以下、先ほどまで執務室にいた一同。
帝国内でもこれだけの重鎮が揃い、また彼らに料理を振る舞う事など滅多にあることではない。
料理人からすれば栄誉であると同時に凄まじい
万が一、失敗したら――……。
辿る末路を考えるだけでも恐ろしい。
「まだか……」
「まぁまぁ。すぐ来ますよ」
「何が食べられるか楽しみですね〜!」
「サンドイッチ……と言っていましたが、どんなものでしょう?」
「サンドイッチはパンに色々挟んだものですよ、あぁ考えただけでお腹がペコペコになってきたであります……」
「ご主人のサンドイッチ、待ちきれないっピ!!」
仕切りの向こうで厳かに食事をしている兵士らの緊張を余所に、食事が運ばれてくるのを、まだか、まだかと沸き上がる興奮をどうにか沈めながら待つ。
――ガラガラガラ
入り口からカートを押しながら、給仕達が食事を運んでくる。その後ろをコムギが続いて歩く。
あのカートの上には待ちかねた物がきっとある、いや。
間違いない。
『あれ』が待ちわびたサンドイッチに違いない。
運ぶ給仕も緊張を、しかしどこか自慢気に兵士らの横を通過しながら奥の仕切りへ運んでいく。食事を中断した兵士らの目はカートに釘付けになっている。
そして目的地である奥の仕切りに着くと一礼の後、コトリ、コトリと順番に各人の前に皿が置かれていく。置かれるなり香る皿からの魅惑の匂い。
種類の異なる香ばしさ、酸味のすっぱさ、しかしそれらの要素をまとめる仄かに甘く、ぬるい熱気が食堂を満たしていく。
「きたか……!」
「今日のこれはなんでしょう?
パンに挟んである白いソースと葉野菜、茶色い……」
「なんかサクサクってしてますね」
「これもサンドイッチなんだっピか?
こないだのとは全然違うっピね」
「コムギさん、今日のはなんでありますか?」
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