第134話 報告と驚愕④白身魚のサンドイッチ
今回のサンドイッチはクックさんも知らなかったソースと調理法を用いて作ってみた。
調理中、厨房中の料理人が手を止め、作る様子をじいっと観察していた。
特にクックさんは責任者であるにも関わらず、食い入るように最初から最後まで見て貪欲に学ぼうとする姿勢が印象的だった。
――さて、待ちきれない皆が食べたそうにしているから紹介しようかな。
「今日作ったこれは、『白身魚フライのタルタルサンドイッチ』です」
「「「「えっ……――魚!?」」」」
驚愕している一同は、魚よろしく目を丸くしている。
なぜなら、これまで帝国では魚を食べるなら『焼く』しかなく、『揚げる』という調理法を初めて見たからだ。
「どこに魚が!?
――もしかして、この茶色いのがそうか!?」
「ふらい?たる…たる……??
初めて聞く言葉ですが……???」
「予想通りというか、裏切らないというか、またも不思議なパンがでてきましたね……」
本当に食べられるのか困惑しているが、食べればわかるだろう。
――フライとタルタルソースの真価が!!
「さ、どうぞガブリといっちゃってください!」
「「「「で、では――いただきます」」」」
――パリッ……フワ……
――サク……フワ……
――サク……ジュワッ……!!
噛み締めると口の中にみるみる広がる味の五重奏。
歯応えのある硬さと柔らかさが交互に味わえ、食材それぞれの旨みが順に顔を出す。
最初は、パンの皮と身。
次に、白身魚フライの衣と身。
最後にタルタルソースの
パンは、昼食用に用意されていた物を、さらに追加で焼き上げ、外はパリッと、中はふんわりとメリハリのある食感が生まれるように。
白身フライは、丁寧に下処理してもらった淡白な白身をフライすることで、魚の旨みを逃さず、外はサクサク、中はホクホクの異なる食感と香ばしさを。
それらをまとめるのはタルタルソース。
保管庫で見つけた『ピクルス』が味の決め手となり、マヨネーズに潰したゆで卵と和える事で味と味、風味と食感をマイルドに繋ぎ合わせているのだ。
鉄板ともいえる組み合わせがまとめられたこのサンドイッチは食べ応えもあり、非常に好評の様だ。
「美味しいです!
たるたるそーす?がちょっと甘くて酸味とコクがあって」
「初めての味ですがパン、素材、互いの良さが際立ってます!」
「うまうま。やっぱりご主人のサンドイッチは美味しいっピ。
――はぐはぐ……!!」
「あはん♪初めて食べるコムギちゃんのパン、スゴい美味しいわ!
薄いモノと濃いモノの
クックさん曰く、今日は魚料理を出す予定だったらしい。仕入れた魚を拝借し試したフライを受け入れてもらえたようで良かった。
あっという間に完食した男性陣は物足りないと文句を言うので、念のため用意しておいた残り分を配る。
――多めに作っといて良かった……!
「この『フライ』と言ったか?
色々な食材で揚げられそうだし、タルタルソースとやらも他の料理に使えそうだな」
「魚だけじゃなく鶏肉、豚肉、牛肉がフライに出来ますよ。
タルタルソースも色々使えますよ、淡白な物が特に美味しく召し上がれますね」
なるほど、と頷きながら、もしゃもしゃとかぶり付く一同。
――ジーッ……
――じゅるり……
――ゴクッ……
「ん……?
なんだか視線を感じ……るうぅっ!?!?」
物欲しそうに、恐れ多いと思いながらも好奇心に抗えず、覗く数多の瞳。
ある者は仕切りによじ登り、ある者は家政婦よろしく半身を仕切りに隠し、じっとこちらを見つめている。
「あれが英雄殿のパン……」
「見ろよ、よくわからないが美味そうだぞ……」
「俺達も偉くなったら食べられるのかな…」
「手柄を立てるしかないな……」
兵士達がにわかにやる気を出している。
食事を邪魔され、なかば呆れながら見ていた皇帝はふと不敵に笑みを浮かべる。
――何か思い付いたようだ。
「「「「――ん?」」」」
すっ、と立ち上がり兵士達に向け、何かを宣言するように右手を伸ばす――手にタルタルサンドを握りしめながら。
「よいか!
我等が口にしているこれは英雄コムギ殿から、神獣様をお連れし魔石を見事持ち帰ったリーンとパシェリへの褒美の品である。
我等は相伴しているに過ぎん。
屈強にして栄誉ある帝国兵士らよ。
口にしたくば結果を、手柄を立てるのだ!
我やコムギ殿は必ずやその成果に応えると約束しよう!!」
「「「「「おおおおっ!!!!!!」」」」」
静かだったはずの食堂一杯に響き渡る歓喜の声。そして皇帝の宣言を受け、我先にと訓練に向かう兵士達。
「よし!訓練だ訓練!!」
「待て、抜け駆けは許さんぞ!?」
「皇帝陛下、コムギ殿見ててください、必ずや手柄を立てますから!」
「っしゃあ!!やるぞ、お前らぁぁ!!」
「「「「しゃあああぁぁ!!!」」」」
「あ――……はい」
ドタドタと走り去る彼らの目は血走り、鼻息は荒い。
――もし今、魔物退治の命令があれば間違いなく彼らは標的目掛けて一斉に襲いかかるだろう。きっと標的を狩り尽くすまで。
それくらいヤル気に満ちた熱と殺気を彼らは纏っていた。
「……いいんですか?
あんな事言っちゃって……」
「構わんさ、少しでもやる気や士気が上がるならな。
実際、我らを含めてコムギのパンを食べたいと思う者は多い。あながち彼らが奮起するに悪くない話だと思うがな」
「はぁ、そうゆうもんですか……」
サンドイッチなんてそんなに大したもんじゃないのに本当に大丈夫かな、とオレは心配になりながら静かになっていく食堂の虚空をぼんやりと見る。
他の一同も兵士らの熱狂的に去り行く姿を心配そうに見送っていた――構わず食事を取り続ける者を覗いて。
「はぐはぐ――……サンドイッチ美味しいっピ!!」
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