第146話 晩餐会⑤ サンドイッチのオードブル
皇帝からの労いの宣言。
中には涙し、すすり泣くする者もいる。
長く苦労していた所に、ようやく希望の光が見え始め、皇帝から労いの言葉まで掛けられたのだから無理も無いだろう。
そうなるとこんな雰囲気だ、パーッと食べて、飲んでもらって楽しんでもらいたいな。
目論見という程ではないが、考えていた通りに受けいれてもらえそうだ。
「ではコムギ、後は頼む」
「はい、わかりました。
えー……では。
おっほん!只今ご紹介に預かりました、コムギと申します。よろしくお願い致します。
本日は皆様に楽しんで貰うべく、趣向を変えて食事を用意してみました。
――お願いします。」
入口に控えているメイド長さんに合図を出すと、開かれたドアから次々と大皿が運ばれてくる。
「「「おおっ!?」」」
歓声と共に注目を集める大皿には、サラダや肉、魚などの料理が飾りつけは程々に山盛りになっている。それらを担当したのはクックさんを始めとした料理人達。
そして、手伝って貰いながらもオレが担当した皿は――。
「「「おおおおおっ!!!!!?」」」
一際注目を浴びる皿達。
見る者にわかりやすく伝わるその遊び心と、彩りと、食べやすさを備えた、晴れやかな場にふさわしい一品。
「う、美しい……まるで宝石箱の様だ……」
「おいしそうー!!」
老若男女問わず、テーブルに順に置かれる皿を見るなり驚愕と感動を
「こ、コムギ殿!?
これは……一体何ですかな!?」
「はい、こちらは『サンドイッチのオードブル』と申します。
肉、魚、卵、野菜、果物やジャムなど、味も食感も異なる食材を使用したサンドイッチを盛り合わせた物になります。
どなたでも食べやすいよう、小さく切り分けてありますので、お好きな物を召し上がってください」
「どれでも良いのかね?」
「はい。お好きな物をお好きなだけ。
食べ比べてみて、楽しんで頂くためにご用意したのですから」
「ちょっとずつ食べられるなんて贅沢ねぇ!」
「本当!ついついたくさん食べてしまいそうだわ!!」
「これならたべられるー!」
「はやくたべたーい!!」
――そう、今日の晩餐会な料理は従来のコース式ではなく、バイキング方式。ちょっとずつ選んで食べる食べ方だ。まさに『サンドイッチのオードブル』にはうってつけ。
盛り付けの時間が足らないと困っていた時、とっさにリーンが思い付いたやり方だ。
◇◇◇
――数刻前。
「だったらこうゆうのはどうでしょう?
いっそ料理を大皿に盛ってしまう、というのはいかがですか?」
「「「え!?」」」
この少女はいきなり何を言い出すのか?
その場にいる誰もが耳を疑った 。
貴族の食事というのはコース料理が前提であり、まさか大皿に盛るなどという庶民の大衆料理的な方法は考えもつかなかったからだ。
「馬鹿な!そんなの聞いたもやった事もない!」
伝統的な料理をずっと出してきた彼らが否定的な声を出すの無理は無い。だがリーンは毅然と彼らに反論する。
「私は皇帝陛下の近衛騎士として、貴族の食事に立ち会う機会がこれまで多くはありましたが、彼らは晩餐会での食事を楽しむ事はあまりありません。
むしろ話し合いや社交の機会として位置づけていることがほとんどです。
ならば飾り付けなどは二の次にして、この場は料理を出すことを最優先に作業する方が得策かと思います。 違いますか?」
「た、たしかに……言われてみればそうだが……」
そう、言われてみれば確かにそうなのだ。
晩餐会の料理は通常の食事より余る事がとても多く、いつもその処理に頭を悩ませてきた事実がある。日々研鑽する料理人からすれば、何がいけなかったのかと葛藤する悩みの1つなのだ。
だがリーンの提案はその 葛藤を埋める案として一考の価値があった。
さらに続けてリーンは提案する。
「社交的な挨拶以外の時間で食事を取ろうと思えば自分で料理を取り分けた方が効率的だと思いませんか?空いた時間を無駄なく過ごせるし、時間を潰すのにも有用でしょう。
それに『選ぶ楽しみという価値』を作り出すのは料理人として、引き出しの幅を広げることにもつながりませんか?」
…… 一体この少女の頭の中はどうなっているのか 。料理人たちは目から鱗の発想に舌を巻いている。
そして、この考えに至る観察眼と聡明さが英雄の補佐役として抜擢された一因なのだろう、と推測することが容易に出来たに違いない。
「嬢ちゃんの言う通り、やる価値はあるでしょう。
特に今は時間が惜しい。他にいい案がなければこれしか――どうでしょう、コムギ先生?」
(驚いた……まさか 知らないはずのリーンがバイキング方式での食事を提案するなんて)
何も知らない所からその発想に至ったとしたら……オレは驚きを禁じえなかった。
「よし!
貴族の食事のことはよくわからないけど、リーンが言うなら間違いない 。
クックさん、それでいきましょう!」
こうしてリーンの提案の通りに食事の方法が決まり、オレ達は準備に追われたのだった。
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