第147話 晩餐会⑥ 評価
「これと、これと……」
「ふーむ……どれにするか迷うな……」
「おかあさま!これも!これもおねがいします!」
参列者は嬉々とした様子で楽しそうに『サンドイッチのオードブル』はもちろん、クックさんら料理人が作った最高級料理もどれがいいかしら、と目移りしながら選んでいる。
バイキング方式ならではの『選ぶ楽しみ』、機転の利いたリーンの発想は好評の様だ!
「うーん!これは美味い!!
マヨネーズという調味料がパンに挟むだけのはずの料理に複雑な味を生み出している!」
「このタルタルソースも美味しいですよ!
魚をフライにした物と相性はバツグンですな!」
「パンに果物やジャムを挟んだだけなのに、甘味にも口直しにもなるとは……」
「サンドイッチおいしいー!」
「歯の悪いわしでも色々な味が楽しめるとは……長生きしてみるもんじゃなぁ」
次のはどんな味がするのだろう?
止まらない食欲と好奇心から、食べやすいよう一口サイズで用意したサンドイッチを次々に、パクパクとつまんでいる。
「これは是非ともうちの領内で食べたいが、この食材をどう入手するか――」
「もしよろしければ、我が領内にてご用意出来ますよ?」
「おぉ!誠ですかな!?ではあちらでお話を――」
中には貴族の領主同士、ビジネス的な話などもあちらこちらで聞こえてくる。
社交の場として主たる目的である挨拶や歓談しながら、好きなものを好きなだけ好きなタイミングで食べられる。バイキング形式ほど効率的な食事はなく、むしろ今までなかった事が不思議なくらいだ。
「良かったね、上手くいってるみたい」
「はい!どうなるか不安でしたが、大丈夫そうで安心したであります!!」
壁にもたれ掛かり、料理に
ひとしきり貴族らからの挨拶を終えたので、ようやく食事にありつけている――うん、美味しい。
「――なんだか不思議な光景であります」
「えっ?」
「こうやってみんなが笑顔で食事ができるなんて、ついこないだまでは思いもみなかった光景であります 、それもこれも全てコムギさんのおかげですね…… 本当にありがとうございます」
「オレは何も――……少なくとも、 今目の前にある子のみんなが笑顔で食事している光景は、みんなが頑張って耐え抜いて努力したからこその結果なんじゃないかな?
まだもう少したぶん頑張らなきゃいけない日々が続くけど、でもそれもきっと、みんななら乗り越えられるよ。俺はそう思う――そう信じてるよ」
「コムギさん……」
はっ、いかん。何を偉そうに言ってるんだ、オレは――……!
まずい、リーンがじぃっと見てる、カッコつけすぎて呆れられたか……。
「――きっと乗り越えられる、か。
そうだな、我もそう信じているぞ」
不意に両手にグラスを携えた皇帝が話し掛けてきた、 どうやら皇帝の方も貴族達との挨拶が一通り終わったようだ。
かなりの数を相手してるにも関わらず疲れを見せないのはさすがだとしか言いようがない。
「リーンの言う通り、我もこんな光景が見られるとは思っていなかった。普通の社交界からすれば確かに華やかさに欠けるかもしれないが、しかしその分、温かみや笑顔があふれている。
見てくれ。老いも若きも誰もが笑顔で、食事を楽しんでいる。本来これが自然な光景なのだろうが、毎日が一杯一杯だった我々にはそれを楽しむ余裕が無かった。
食べる楽しみを思い出させてくれた、今の情勢から考えればこれ以上ない贅沢な晩餐会だ――本当にありがとう、コムギ殿」
最後の一言だけは誰にも聞こえないように小さく、しかし確かにしっかりと想いは届いた。
きっと異性ならば、まるで爽やかな清風の様な皇帝の笑みと眼差しにきっと心奪われてしまうことだろう。
曇りない琥珀色の瞳が、溢れんばかりの感謝の熱い想いを真摯に伝えるべく、キラキラと輝いているのだから。
「
「頑張ってください、応援してます」
「あぁ!コムギも達者で――くれぐれもリーンを頼んだぞ。
もし王国や他に何か問題があればすぐ文をくれ。
出来る限りの
「はい、何から何までありがとうございます!」
「それくらいお安い御用だ」
帝国の皇帝として意地や誇りがあるのだろう、ふんと鼻息を荒くして返事をする。
しかし今度は打って変わって、何やら少し言いにくそうに歯切れ悪く、皇帝は手にしているグラスを傾けながらおずおずと話を切り出した。
「――最後に頼みがあるのだが……」
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