第144話 晩餐会③ ヒキコモゴモ
作業に作業を重ね、出来上がったオレにしか出来ない『もてなし』。これなら皆にウケるに違いない。
「――よし、出来た。
こんなもんだろう」
我ながら会心の出来だ。
パン屋として『こうゆうの』は作り慣れてるけど、量が量だからちょっと疲れたかな。
――ん?
「「「ふおおおぉぉぉ――!」」」
「うわっ⁉ビックリした‼」
振り向くと、料理人達が出来上がった『それ』を一目見ようと詰め掛けていた。
「これが――!!」
「す、すげぇ……!!」
「食べるのがもったいない、しかし――!?」
「彩り、ボリューム、食べやすさ、どれを取っても間違いなく、これは最高のもてなしの料理だ!」
感心しながら驚く彼等からの賛辞。
折角なので、少し余った分があるから皆に食べてもらおう。ウケるかどうか心配だが――……。
「もし、良かったら余った分があるので皆で食べて見てください」
「「「なんだって!?」」」
余ったのは小皿一杯分。
多くはないが、乗り切らなかったので捨てるよりは食べてもらった方が良い。
そう考えて、皿を出した途端。
まるで肉食動物が一斉に獲物に飛び掛かるが如く、取り合いが始まった。
我先にと近くにいた者は両手で、少し離れていた者は手を伸ばし、さらに離れた者は人の壁に阻まれ勝負に立てず、ぐぬぬ、と歯を食いしばっている。
そして、取り合いの勝負は呆気ないほど、一瞬の内に決着がついてしまった。
「よし!これが――!」
「はむはむ……うまうま……」
「次から次へと食べたくなってしま――あ、もうない……」
「くっ……無念……」
悲喜こもごも。
食べられた人は余韻に浸りながら感嘆し、食べられなかった人は唇を噛み締め悔しさを滲ませている。反応を見る限り、好評な様だがそれだけに、口に出来なかった人達の嫉妬に燃える修羅の如き面相が怖い。
――待て、君達。
すぐそこにあるからって、包丁を握りしめるのはやめなさい。
怖いから!洒落にならないから!
「次こそは……!」
「バカ、コムギ先生は王国に帰るんだから次ないだろ⁉」
「じゃあオレも王国に行く!」
「ずるいぞ!じゃあオレも‼」
「「「オレも‼」」」
「「「どうもどうもどうも」」」
仕事そっちのけで皆が王国に一緒に行きたいと次々に騒ぎ始めた。挙げ句の果てには見た事のあるコミカルなやり取りが始まるくらい妙なテンションのカオス空間に。
「後で時間を取るから今は持ち場に戻れ!
仕事を再開しないと間に合わなくなるぞ」
「何言ってんですか‼副料理長だってさっき自分も一緒に行きたいって言ってたでしょうが!」
「ぐむっ……た、確かに……」
クックさんが冷静に落ち着く様に促すが、中々落ち着く様子がない。
いかん、このままでは収拾がつかない。
どうしたら――……⁉
「一体何をやっているんですかっ‼」
厨房に響く一喝する声。
振り向くと憤怒の表情で腕を腰に当て、仁王立ちしているリーンとメイド長さんの姿が。
「準備が心配で様子を見に来たら全く……。
なんなんですか⁉これは⁉」
メイド長さんの静かな怒声。
「全く……コムギ様の晴れ舞台だというのに、それをまさか料理人の貴方達が台無しにしようとするなんて……」
「い、いや……決してそうゆう訳では――」
「いくら参加するのが国内の者だけとはいえ、今日の晩餐会が失敗すれば、コムギ様だけではなく、皇帝陛下の顔にも泥を塗る事になるんですよ?責任がとれますか!?」
「……」
突きつけられた正論にぐうの音も出ず、先程までの喧騒が嘘の様に静まり返る。
頭を切り替え、思考が冷静になるにつれ、自分達の愚行と取り戻せない作業時間に焦燥感が
「まずい、このままでは料理が捌ききれない――‼」
「どうするんだ、仕込みと調理班の作業は工程通りに終えちまってるぞ⁉」
「作りきれたとしても、盛り付けに時間が足らない……」
聞くと晩餐会は必ずコース料理。
飾り付け、盛り付けにはそれなりに時間を割く必要がある。まずは見た目から楽しんでもらい、食べる人の興味を引く事で、食欲を刺激するからだ。
しかしこのままではどんなに作業スピードを速めても、今からでは最後の工程、盛り付けの時間がどうやっても足らない試算だ。
何か良い手はないかと一様に頭を悩ませている。
「――あの」
リーンがおずおずと声を上げる。
重く静まり返る厨房に彼女の声はよく通った。
「料理や盛り付けについてはよくわからないのですが、こうゆうのはどうでしょう?」
「何か思い付いたの?」
「はい、コムギさんの料理を見て思い付いたんですが――……」
―――……
――……
「それだ!それでいこう‼」
リーンの発案による解決策。
満場一致で賛成された事により、直ぐ様オレ達は動き出す。
一方、リーンとメイド長さんは指示を出すべく晩餐会の会場に急いで戻る。
図らずも舞い降りた彼女の初仕事。
もしかするとその評価は中々に悪くない物になりそうだと、傍らで走る少女にメイド長は期待を寄せずにいられなかった。
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