第151話 出発② 授業?

ここは小会議室。

ミーティング等で使われる部屋で、机と黒板があるのでまるで小さな教室。学生時代を思い出すな。


「ではコムギさん、なにから始めましょうか?」

「じゃ、ちょっと聞いていい?」

「はい、なんでありますか?」


移動して席に着くなり、先程から感じている

まず、それを確認する事が最初だと思ったので、躊躇いながらも教壇に立つリーンに訊ねた。


「……その服装は何?」

「この場に相応しい制服ユニフォームです」

「ゆ、ユニフォーム?」


そう。

気になるのはリーンの服装。

マイスさんの前では聞くタイミングを逃したが、どう考えても違和感があるのだ。 


近衛騎士の時は勇ましい鎧姿、中央研究所では知的な白衣。リーンとは大体この2つの姿でしか会わないのだが、今日の彼女は見た事もが無い姿。  


「や、やっぱり変ですか?

皇帝陛下や所長に、この服装で教えるのがマナーだと言われて――……」


そう、今の彼女は白いワイシャツにタイトな黒スカートに黒いタイツを着ている。まるで女教師の如き装いなのだ。


ワイシャツは胸の膨らみやくびれ、タイトなスカートはヒップライン、彼女の年齢不相応な女性的なボディラインをセクシーに強調している。

指摘され恥ずかしいのか、身をよじる姿がまた妙に色っぽい。


「なんか変だなあとは思ったんであります、研究所の皆がジロジロ見るし……」

「い、いや、似合ってるから大丈夫だよ。

気にしないで」

「本当でありますか?」

「う、うん」


現金なもので、想い人からの一言で舞い上がり機嫌が治るのだから恋の盲目さは罪である。


「お、おほん。

では気を取り直して、まずは世界の国々についてから話しましょうか」


リーンの説明はわかりやすく、スッと頭に情報が入って来る。教え方も上手いなんて、才女過ぎるだろう。

いや、本当に補佐として頼りになる。


話を聞くと、世界の国々には色々な人種や文化があるるしい。まぁそれは前の世界と同じなのだが、エルフ、リザードマン等ファンタジーに定番の種族がそれぞれの国や文化を持っているとの事だ。

今更ではあるけど、改めて異世界だなぁと感嘆する。


「ただ、交流が乏しい国や未開の国や土地も世界にはまだまだあって知られてない事や噂が独り歩きしている様な事もたくさんあるんですよ」

「例えば?」

「そうですね……聞いた話ですけど、南のある国では豆の絞り汁を飲んだり固めて食べたりするとか」

「豆乳や豆腐の事かな?ワフウで食べたけど」

「本当ですか⁉

本当にんですか?」

「茶色?いや、白かったけど」

「「え??」」


反応をみるにどうやら互いに違う物を思い描いているらしい。なのか。もしかしたらこの世界ならではのものなのかもしれない。


予想がつかない。

だがそれが良い。 

これから見つけるのが楽しみになるというものだから。


「じゃあそれもどんなものか確認しなきゃね」

「はいっ!」


笑みを交わし、自分達の好奇心、その意欲を確認しあう。未知の味や材料、これほどパン職人として探求心をくすぐる事はない。期待を胸に、僅かに高まった興奮そのまま、授業?の続きを始めようとしたその時。

  

「じゃ次は――」

「ちょ〜〜っと待つッピ!!」


バンと勢いよく入口のドアが開き、向けた視線の先に、チカラの賢者ことカマ・ン・ベールさんに抱きかかえられた神獣、雷龍鳥サンダーバードのサンちゃんがふんすと鼻息を荒くしていた。


「ご主人!味や材料も良いけど、大事な使命を忘れないでほしいッピ!!」

「使命――……?何だっけ?」

「ぐぬッピ!忘れたとは言わせないッピよ!?」


激昂するサンちゃんは文字通りトサカに来ている様で、ちょこんと生えた3本の角からバチバチと激しく青白い小さな雷を放電した!


「アババババババ――――ッ!?」

「「カマさん!?」」

……可哀想に抱えているカマさんが雷の餌食になってしまった。一瞬、骨みたいのが見えたけど気のせいだよな?漫画じゃあるまいし。


「ちょっ――サンちゃん、そうゆうのは危ないから、めっ!でありますよ」

「カマさん、だ、大丈夫ですか?」

「あ……は……ん。

し・び・れ・る♪」


心配して駆け寄ると身悶えしているのか痙攣しているのかわからないが、カマさんは満悦そうな表情、ずいぶんと余裕がありそうだ。

「…………大丈夫そうですね」


オレとリーンはサンちゃんに向き直り、叱責すべく対峙し、バチバチと互いに睨みをきかせている。


「も、もとはと言えばご主人が悪いんだッピよ!大事な使命を忘れるから!」 

「なんでだよ!それにいくらなんでもやり過きだろ!」

「ふ、ふん!この程度で参るとは賢者も情けないッピね。いつも良いようにするからいい気味だっぴ」

「サンちゃん、めっ!!」

「……ご、ごめんなさいッピ……」


少女リーンに叱られた神獣サンちゃんに威厳などある訳もなく、しゅんと消沈し丸く縮こまってしまった。どうやらカマさんに撫でくり回される事にフラストレーションが溜まっていたらしい。


「もう〜仕方ないでありますね。

ほら、サンちゃんおいで」


よいしょ、とリーンに抱きかかえられたサンちゃんは

機嫌が直ったのか、今度は冷静に問い掛けてきた。


「で。

ご主人、使命はちゃんと覚えてるッピね?」


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