第75話 もしかして

 メープルは床に頭を擦り付け、必死に懇願する。


「雪山での魔石の件、商会での新商品発売の件、ワフウとの国交樹立、米粉の確保による市場の流通回復など、数々の偉業とそれを成したあなた様の実力を見込んでの頼みです。


どうか……!どうかお頼み申し上げます‼‼‼」


 これだけ頼まれると困ってしまうな。

仕方ない、と覚悟を決めるオレの雰囲気を察したのか、ウルとリッチも「やれやれ」といった表情で賛成の意思を示してくれる。


「わかった、オレになにができるかわからないけど、協力するよ 」


「本当ですか‼⁉

ありがとうございます‼希望が見えました‼‼」


 メープルの表情がパアッ!と明るくなる。

大人と子供の間といった年齢らしく、無邪気な笑顔だ。先程までの剣呑とした雰囲気が一気に消え去る程、屈託のない笑顔。

(……こんな子供の笑顔が失われるのは良くないよな……)


ぐうぅぅぅぅぅぅ…………



「……っ‼‼⁉⁉」


 メープルが顔を真っ赤にしてお腹を抑える。恥ずかしさからか顔をバッと下に向けるあたり、年頃なのかなと思ってしまうほどの可愛らしさ。そのコロコロ変わる表情や仕草が先程までのキリッとしていた彼女の姿と可笑しくなるほどのギャップを生み出していた。


「ははは、安心したからお腹が空いたのかな。オレたちもご飯にしようか。

メープルも一緒にどう、食べなよ?」


「……い、いいんですか?」


 恥ずかしげにおずおずと聞いてくる。

気を許したからか、猫っぽく甘えてくる姿に思わず頬が少し緩む。


「いいよ、みんなで食べた方が美味しいからね」


「ではお言葉に甘えて……。

実はその……興味がありまして。

……今話題の店ですから……」


 ミーハーなのかな?

というより、そんなに有名なのか。


「そうなんだ、ありがとう。

……そうだ!新作の試作がいくつかあるんだ、良ければ感想教えてよ?」


はい、と言って渡したのは、一見白い米粉パンの塊。いただきますと、礼儀正しく言ってからそれを口にした彼女は


「ごほごほっ⁉

なんですか、これ‼‼⁉

口の中に刺激がっ‼‼」


 メープルは盛大にせた。

ウルとリッチもこうゆうのは初めてだったらしく顔を赤くして噎せている。

……あれ、ダメだったかな⁇⁇


「店長!なんですかっ、これわ‼‼⁉」


「ヒリヒリ、ピリピリします……‼」


 ウルは顔を真っ赤に染め語尾がおかしくなるほど動揺し、リッチも辛さを紛らわすため水をコクコクと勢い良く飲んでいる。


 今回の試作品は『米粉のキーマカレーパン』なんだけど、もしかしてスパイスにみんな慣れてないのか⁇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る