第76話 襲撃者
『米粉のキーマカレーパン』
ヒントはカレーライスだ。
『米 × カレー』の組み合わせと言えば、これしか考えられない!間違いなくベストマッチ、しかも揚げない、『焼きカレーパン』だから食べてて飽きない!
肝心のスパイスは市場ではあまりなかったので半ば諦めていたのだが、国境付近の宿場町で少量であるものの偶然見掛け即買いした。間違いなくイケると思って作ってかなり自信あったのだが……。
「刺激が強くてビックリしました」
「まだ口の中がピリピリしますぅ……」
「お水がないと大変です……」
試作品を食べてもらった3人には受け入れられてない様だ、世界が違うとこうゆうのは駄目なのかもしれない。
(残念だなあ……。残りのキーマカレーパンはオレが消費するか、仕方ない……)
そう思っていた矢先、目の前の3人はガツガツとキーマカレーパンを頬張り始めた。
「あれ……なぜでしょう……⁉
先程よりお腹がさらに空いてきて、食べる手が止まらないです⁉」
「本当です!それにちょっと汗をかくのが不思議と気持ち良いですぅ!」
「食べ進めるうちにクセになるこの味……辛さだけじゃなく、パンの仄かな甘みとそれぞれが際立ちます!初めての味ですが、とっても美味しいです‼‼」
どうやらスパイスの効果が後からジワジワと効いてきたようだ。カレーに使用されるスパイスは実は漢方、つまり薬としての効能もある。食欲増進を図ったり消化を助けたり……。
「あの……。
そちらにあるのも食べて良いのでしょうか……⁇」
いつの間にか完食し、おずおず……と恥ずかしそうに遠慮がちな声色でメープルが尋ねてくる。その姿はおかわりを要求する健気な猫にしか見えない。
「ん?
あぁ、もちろん‼まだ他にも試作品あるし、たくさん食べてくれよ‼」
そして3人はすっかりカレーパンの魅力にハマった様で他の試作も含め、作った分が無くなってしまった、いやぁ良かった良かった‼‼
……さて、腹も膨れたし、メープルと本題に入るとしよう。
「で、メープル。オレはどうすればいいんだ?」
「はい、まずは公爵様にお会いください。そこで話の仔細を聞けると思います」
「わかった、じゃ今からでも大丈夫かな?」
「はい、早いに越した事はありません。公爵様は本日屋敷にいるはずですのでご案内します」
「ウル、リッチ、悪い。
店をまた任せていいか?」
「「はい、いってらっしゃい‼‼」」
本当に頼りになる2人だ、快く送り出してくれるあたり、信頼を寄せると共に申し訳なく思ってしまう。
◇◇◇
馬車に乗り、メープルと公爵邸に到着する。以前来たときは夜だったが、昼間に見ると太陽に照らされ白亜の塗装が立派な造りを際立たせ、見る者を圧倒し高貴な印象を与える。
「‼‼⁉」
馬車から降りるなり、何かを察知したのかメープルがサッと腰を落とし、逆手で短刀を構える。
「え?」
ガサッ‼‼
突如、植込みに隠れていた何者かに襲撃される!顔がわからない頭巾、全身を黒ずくめの服で包んだ3人組。2人はメープルに、1人はオレに狙いを定めたようだ。
「ぐっ……⁉」
不意打ちのパンチを腹にくらい、昏倒しそうになるがなんとか踏みとどまる。
「……な、なんだ⁉いきなり⁉⁉」
「コムギ様、逃げてください‼‼」
2人を相手に応戦しつつ、メープルが必死の形相で叫ぶ。3人とも洗練された動きで、見るだけで手練れだと素人ながらに感じる。一体なぜいきなり襲われるんだ……⁉
「なんなんだよ、一体⁉
……ああ、わけがわからん!面倒くさいっ!
とりあえず……仕返しだぁっ‼‼‼」
いきなりの事だらけで埒があかない。腹の痛みはまだ少し残っているが、まずは襲撃者の動きを奪ってしまおう。
「くらえ、【重量管理・重】!」
ズン……ッ‼‼
「……⁉⁉」
何か重いものに潰されているかのように襲撃者の動きが一気に鈍くなる。不意の加重にはいくら訓練された者でも対応出来ないようだ。
「さらにトドメだ!【温度管理・冷】――凍れぇっ‼」
地面に両手を当て、彼らの足元目掛けて冷気を飛ばし、身動きを奪うべく凍らせた。
「ッッッ‼‼⁉」
襲撃者たちは何が起きたの信じられないのか、思わず声にならない声をあげる。とりあえず今彼等には大人しくしてもらわなきゃな。
「ふぅ……これで逃げられないな、メープル大丈夫?」
「っは、はいっ……⁉
……噂には聞いておりましたが本当にすごい……‼
これがコムギ様の御力ですか、、これならお嬢様も必ずや助かります!」
「そう簡単に行けばいいけど……こいつらはなんなんだろ?」
まだ少し痛む腹をさすりながら、襲撃者について何か分からないか聞いてみた。まさか暗殺者とか……しかしなんでオレも襲われるんだ?
「恐らくはこの国の現体制に不満をもつ貴族の差し金でしょう。お嬢様を人質にして、権力を握ろうとしているのではないかと。そのために目撃者足り得るものは始末しようとしたのかも……。まさか返り討ちに遭うとは思ってもなかったでしょうが……」
「アンさんも王様もかわいそうだな、敵があちこちにいるんじゃさ」
「そうなのです、だからこそコムギ様の御力をお借りしたいのです。
国内ですら敵がいるなんて悲しいじゃないですか……」
互いに悲壮な表情になり、この先に待つ不安な未来を憂いてしまう。望まない結婚やそれを自己の利益のために利用しようとする下衆な連中がいるとなると気も休まらないだろう。
(そうだよな……。
王様やアンさんのためにも力になってあげなきゃな……)
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