第61話 帰ろう
パン作りと囚人の確保で、《パン職人》の実力がわかったと納得した様子の殿様。
その顔は晴れやかで満足そうな顔だ。
だがさらに御満悦なのはウルとショーニさんだ。どうやら彼らの中での評価がまた上がったような印象だが……。
「さすが店長‼
感服しました、一生ついていきます!」
キラッキラの眼差しで好意を向けられ、照れるしなんだか恥ずかしいな……。
そんなオレ達の回りにいた家臣の人達からは好奇な眼差しを向けられている。
「あれだけの戦力が海外にはあるのか、恐るべし……」
「世界は広いのだな」
「一体あの御仁は何者なのだ…?」
(ただのパン職人です)
「タダで助けたのではないのかもしれん、狙いはなんだ?」
(米粉です)
「若様が師事しているということはいずれ我が国は外国に取り込まれてしまうのか、、」
(そんな気は微塵もないです)
と言った具合にどうやらかなり否定的な見方をされているようだ。
「皆静まれ」
殿様が場を静める。その威厳を取り戻した一言に、しん……と静まりかえる。
「心して皆聞け。
これから我が国は他国と段階的に友好を結び文化交流や技術提供、相互協力を取り付けていく。我らのさらなる富国と発展のために!
なればこそ、こちらにおわすコムギ殿の様な強者になるべく、努力を惜しまず、忠勤にはげめ。よいな⁉」
「「「ははっ」」」
(オレのようにって……参考にならないと思うんですけど。なにはともあれ、無事に万事解決して良かった。
あー早く帰って、米粉パン焼きたいな…リッチも店も心配だし……)
やる事は成したと思うと、帰りたい気持ちが強くなってくる。ブーランジュ王国も自分にとっては異国なのに、恋しいのはなぜだろう……。
◇◇◇
帰国の段取りをつけるにあたり、帰国の船便が出るまでオレたちはウルの通いの菓子店に寄ったり街中を散策し、最後にはウルの実家で歓待を受けた。
初対面のオレとショー二さんを快く歓迎してくれた、ウルのお母さんと婚約者のハナさんとは色々な話をした。出会いやこれまでの事を。
2人からは「ありがとう、なんとお礼を申し上げたら……」と謝辞を述べられたが、逆に恐縮してしまった。そういえば、お土産にと、米粉パンを持っていったのだが2人には大好評だった。
「「まあ、美味しい!」」
と2人共手放しで喜んで食べてくれた。
良かった、こちらの人に受け入れてもらえるなら一層の安心感が湧いてくる。
「これがパンですか、いろいろな料理と合いそうですわね」
ハナさんの鋭い感性を感じさせる反応に少々驚いてしまう。
「そうなんですよ、甘い菓子パンだけでなく、惣菜パンという食事の具材を活用したパンもありまして……」
「ふむふむ……」
身を乗り出して話に魅入るハナさんとパンや料理の談義で盛り上がった。かなりレパートリーがあるようでこちらとしてもついつい熱が入ってしまった。こうゆう人が奥さんになるならウルは安心だな、正直ちょっと羨ましい。
そのウルはというとオレとハナさんのやり取りの様子を見て、心なしかホッとしていたようだった。そして、そんなオレ達を眺めるお母さんが1番ホッとしていたようで優しい笑みを終始浮かべていた。
◇◇◇
そして、ワフウを離れる時間。
殿様以下、たくさんの人が見送りに港まで来てくれた。ウルのお母さん、ハナさんもいる。2人とも寂しそうな顔をしているが、これが今生の別れになる訳じゃない。これからは国交を結んだのだから少しずつ会いやすくなるはずだ。
「それではお気を付けてお帰りください。
これからもよろしくお願いいたしますぞ」
「はい、必ずや王に此度の素晴らしい成果を報告致します」
代表2人が別れの挨拶を交わし、オレたちは一礼し船に乗り込む。船に乗り込んだオレは忘れていた疑問をショー二さんにぶつける。
「そう言えば、交渉の時に言っていた説明がまだされてないですよ。一体どういう事だったんですか?」
「ワフウの政治基盤は今揺れているんですよ、経済的にもね。反乱や囚人達の襲撃が良い例です。近い将来、何かが大きな事件が起きるのは間違いないと思うのですが、今の時点ではなんとも予測の域を出ません。
しかしその対策に追われている殿様からすれば万一の時に保険は掛けたいのです。出来れば信頼の出来る相手とね。
そう言った意味で我々は適任だったので、交渉に乗らざるを得なかったと言うわけです」
「ショー二さんって本当に何者なんですか?一緒に仕事しててわかりますけど、敏腕すぎますよ」
「ハハハ、ありがとうございます。
しかし本当に私はただの、しがない街の商人ですよ」
(本当かなあ…⁉)
ピィーーーー‼‼‼
ワフウに別れを告げる魔力船の汽笛が鳴る、出港の時間だ。
さあ、帰ろう。
懐かしの我が店、ベーカリー・コムギへ!
新しい材料、米粉と共に‼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます