第96話 収穫と開戦
突如現れた谷間を塞ぐ巨大な氷壁に唖然としている中、オレはよっこらせと、ゆっくり立ち上がる。
「皇帝陛下、もし出来そうなら今のうちに収穫しませんか?
この壁もいつ破られるかわからないので、やれるうちにやれたらと思うんですけど……」
「そ、そうだな!
よし、ただちに順次収穫せよ!
近くの村々にも協力要請を出せ!」
皇帝陛下自らの陣頭指揮の元、急ぎ手分けして人海戦術で一気に収穫を始めた。
昔、農家の手伝いをした時にも大変だったけど、改めて収穫の大変さを感じる。
オレ達は器材が不足している部分に関しては完全な手作業だ。仮に道具はあっても機械じゃない。鎌を握りバサバサと収穫する黒麦、丁寧にもいだトマトをかなりの重量にも関わらず全て人力だ。おかげであちこちから悲鳴の声が上がる。
「こ、腰が……」
「足を踏ん張り続けるのはキツイ……」
「肩がプルプルする……」
機械がないだけでも、こんなにも苦労があるのだ。天候でダメになるならまだしも、魔物のせいでダメになるなんてあってはならない‼
農家の人達の苦労を無駄にしないためにも……食糧を待ち侘びている人達のためにも絶対に!
急いで収穫しなくては‼‼
――順調に収穫が進み、半日が過ぎた頃、事態が急変する。
『ッ……ドオンッ!』
『ドオォンッ‼‼』
氷壁の向こうで破裂音のような大きな音が何度も、何度も響く。地響きも伴っているためか、いかにその『発生源』の威力が高いかが窺いしれる。
「……まさか!もう……⁉」
イヤな予感が的中してしまう。
いつかは、と思っていたが、このタイミングで来るか!
「戦闘班は戦闘準備!
それ以外は急いで収穫した食糧を運べ!
なんとしても死守しろ‼‼」
タイガー騎士団長を始め、部隊長らがあちこちで指示が飛ばす。
(くそっ、とりあえずやれるだけ氷壁をさらに厚くするか‼)
そう思うなり、急いで氷壁に向かう。
今にも破壊されそうな氷壁を、さらなる氷壁で覆い補強するイメージで力を込める。
(頼むっ……せめて収穫が終わるまでは保つくらいの壁になってくれよ…………っ!!)
――ピキピキ……極低温の氷の波が氷壁だけでなく、みるみる谷の入り口周りに新たな壁囲いを作り、さらには周囲の岩肌部分ごと凍らせた。そこにはさながら氷の小山が視界の隅から隅まで広がっていた。
(……よし、なんとかなったか?)
ドオォンッという音は変わらず聞こえるが衝撃は先ほどではない。厚みが増した分、もう少し時間が稼げるはずだ。
「ここはオレが見張ってます!
今のうちに残りの分の収穫も全てやってください!」
「わかった」と皇帝を含めた皆が収穫作業に戻る。
◇◇◇
あと少し……あと少しだ……。
そう見ていると、
『ドオォンッ!』
『ドドオォンッ‼‼』
『ズドオォンッ‼‼‼‼』
音と衝撃がますます勢いを増し、近づいてくる。
(くそっ、もうダメか……。
戦うしかないか⁉)
破壊の主の登場を予見するかの様に氷壁、小山がガラガラと揺らぎ始める。希望たる氷壁がまさに今、耐久性の限界を超えようとしていた。
『ピシ……ピシッ……ビシィッ‼‼‼』
「「「「「‼‼⁉」」」」
「来たのか、ついに……。
腹をくくるしかないかっ……!」
皇帝が苦虫を潰したかの様な顔で見つめる先に、ガラガラガラと崩れた岩の重さを感じさせる轟音を立て、ついに巨大な亀の魔物達が穀倉地帯にその姿を表した。
ワニガメに酷似した亀の魔物はまるで小山が現れたかのような、見る者を圧倒する巨躯と質量による威圧感。――それが全部で30体もいるとなると……。
絶望的とも言える光景にコムギだけでなく、帝国勢はただ立ち尽くす事しか出来なかった。
『ギィエエエエエ‼‼』
亀の魔物、コマッタートルが咆哮をあげる。まるで宣戦布告するかの様に次々と。
「……やるしかないか!」
崩れてしまった氷壁の残骸を踏みしめながら1匹、また1匹とノソノソ穀倉地帯に足を踏み入れようとする。
今ならまだ抑えられる、一か八か!
「喰らえ!【重量管理・重】‼」
地面に両手を付き、群れの先頭付近のコマッタートルらの重量が増え、潰れるイメージで力を込める。上手くいけば、動きを止めて群れが入ってこれず、討伐もしやすくなるはずだ!
『ズズ……ゥン……ッ‼‼』
上手くいった!
コマッタートルが地面に押し付けられ、動きを止める。何が起きたのか、なぜ身体を動かせないのか混乱しているようだが、容赦は出来ない。
「今です、コマッタートルを仕留めてください‼」
再び起きた不思議な現象と、信じ難い光景に目を奪われてた兵士達にオレは呼び掛ける。
「と、突撃‼」
「「「「「「うおおおお‼‼‼‼」」」」」」
勇ましく兵士達や、タイガー騎士団長、マイスさん、リーンが突撃していく。
剣に、槍に、魔法あらゆる攻撃で動きがほとんど取れないコマッタートルに攻撃を加え続ける。
――よし、このままいけば大丈夫なはずだ!
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