第107話 披露
少女に叱責されている騎士団一同。
静かにプリプリと説教する彼女を遮るように、おずおずと騎士団長が手を挙げる。
「全く……コムギさんに守られたり、魔物退治も全部やってもらったり、皇帝陛下の前でアタシも皆も良いトコなかったんですから頑張らなきゃいけない大事な時なのに、何やってるんですか。
そ、そりゃコムギさんに……また抱っこして欲しくない訳じゃないですけど……」
「……あ、あのな……⁇
リーン……」
「はい、団長。なんでありますか?」
「後ろに……その……」
助けを求めるかの様に団長はピシッと伸ばした手と視線をゆっくりオレに向ける。他の団員も同様だ。
「……後ろ?」
うん?と首を傾げ、その動きに合わせゆっくりとリーンもこちらを向く。
ピシッ‼⁉
まるでそんな音が聞こえてきそうな程に直立不動で硬直するリーン。徐々に顔を赤らめ、目は涙目でぐるぐると泳いでいる。
「あはは……すっかり元気そうだね、リーン……もうこの辺でいいんじゃない?」
「いいい、いつからそこにいたんデスカ⁉」
「…………最初からだよ」
「……い」
「い?」
「いやゃあァァァァァァァァァ‼‼‼‼‼‼」
年頃の少女が意中の人には絶対見られたくない姿。羞恥に悶える彼女の悲鳴が訓練場で爆発した。
◇◇◇
「「「「「お恥ずかしい所をお見せして大変申し訳ありませんでした……」」」」」
タイガー騎士団長、リーン、パシェリさん以下騎士団全員しゅんとしながら謝罪する
「き、気にしないでください……」
各々抱く感情は傷心、羞恥、沈鬱、慚愧……。全く関係の無い人からすれば滑稽なのだろうが、本人達からすれば不覚以外の何物でもない。あまりのいたたまれなさに思わず沈黙してしまう。
「じ、じゃあタイガー騎士団長。
気を取り直して、何からしましょうか⁉」
この埒が明かない、沈んだ雰囲気を払拭するため話題を振る。
「で、ではコムギ殿の実力を見せて頂くとしましょう‼」
うんうん、と他の皆もオーバーなくらい頷き、無理矢理にでも明るく切り替えようとする。
「わかりました、じゃあその前にちょっとパンの仕込みをしてきます。用意出来るまでの間にそちらも準備があればしておいてください、すぐ戻りますから。」
◇◇◇
騎士団宿舎の厨房から訓練場に戻ると、パシェリさん達により何やらガチャガチャと、色々な道具が用意されていたが一体何をするのやら……。
「ではまず、こちらから。
これは魔法訓練用の的です。かなり強固に作られた特殊な的なので、まずはこちらにどうぞ魔法を放ってみてください」
パシェリさんに案内がてら、そう促され10メートル程離れた位置から的に狙いを定める。期待の眼差しを集める中、深呼吸し緊張を鎮める。
「あ、ちなみに『何を』すればいいですか?」
「なんでもどうぞ!
コムギさんの『したい事』で大丈夫です!」
「なんでも……じゃあ一回やってみたかった事があるからそれにしようかな?」
改めて的に向かい直り、【
「えぇと……こう……いやこんな感じかな?」
試しだからと、まずはとりあえず出来た風を的に向け、フリスビーの様に放つ!
ピッ―――
直線的に放たれたフリスビー風は当たるなり、いとも簡単に的を綺麗な一文字に切り裂いた。
「「「「ええええええええ……‼⁉⁉」」」」
「お、イメージ通りだ!
良かった、せっかくだから一回やってみたかったんだよなカマイタチってやつ。
なんか格好良いし……ハッ⁉すみませ!
壊しちゃったのは不味いですよね⁉
ごめんなさい‼」
先程とは一転してオレが謝罪する。
さすがに備品を壊すのはマズい。
初めてだったし、上手く行っても傷付くくらいだと思っていたが、まさか真っ二つになるなんて思わないじゃん……。
そんな平謝りするオレに呆然としつつも、皆なんとも形容し難い、じっとりとした目を向けて密かに話をしている者もいた。
(ヒソヒソ……ヒソヒソ……)
「あんな事も出来るのか?」
「今の現象は何だ?風を飛ばした⁇」
「初めて見る魔法だ……」
◇◇◇
次に用意されたのは30センチ程の棒。
厨房で使う麺棒に似ている。
「つ、次はこちらです。
この棒は込めた魔法の力強さに比例して伸びます、長ければ長いほど強い魔法が使えるという事になります。
使う魔法をイメージして握って下さい。」
じゃ早速と、集中するため目を瞑り、棒に魔法のイメージを注ぎ込むように握る。この世界に来て、最初に使った【
理屈はわからないが、念じれば念じるほど棒がぐんぐんと長くなるのがわかる。棒を握る手に掛かる負荷が徐々に重くなり、耳からは驚嘆の声が聞こえるからだ。
まだまだ余力があるからどこまでイケるか試したいオレはもっと……もっと……と力を込め念じる。
――だがしかし、突如どよめきが悲鳴に変わる。
「えっ⁉」
何事かと思い、目を開けて見ると訓練場の端にまで伸びていた棒が《《メラメラと燃え盛っていた》。力を入れ過ぎた結果の様で、皆が必死に水を掛けている。
「消火急げ‼」
「くっ、全然消えない……どうしてこんな事に……」
マズい……。
またやらかした。
一向に消える様子の無い炎。
訓練場に燃えるような木などはほとんど無いため延焼の心配は無いが、このままでは危険なのは間違いない。
「あ、もしかしたら」
持ち手は全く熱くないので握り続けていた棒を、見つめ思い付いた事を試すべく再び強く握り直す。
「――ふんっ!」
今度は【
ピキッ――ピキ――ピキッ―――
予想通り、棒の炎は徐々に消え、棒が凍りついていく。
眼前で起きる、まるで魔法?の様な光景を消火活動の手を止めた兵士らは、握った手が入りそうなくらいぽかんと大きな口を開け、唖然と見つめていた。
「――よしっ、上手くいったな。
大火事にならなくて良かった……」
(ヒソヒソ……ヒソヒソ……)
「一体何が起きてたんだ?」
「そもそもあんなに伸びるのを見たことないぞ⁇」
「炎と氷を両方も使えるなんて……」
◇◇◇
「えー、最後はこれです。
この3つのブーメラン、これを順番に飛ばします。飛ばすタイミングはこちらが決めます。
コムギ殿は『どんな手段でも良い』ので5分以内に破壊してください。
不規則な動きなので難しいですよ?
――では――いきます!」
パシェリさんは言うなり、まず空高くビュンと1枚投げる。空に放たれたブーメランは斜めに弧を描きながらゆっくり滑空していく。
「あれをどう壊すか……とりあえず、さっき成功したフリスビー風をぶつけてみるか」
ピッ――
空を裂くようにフリスビー風がブーメランに向かうが、スルリとブーメランの横をすり抜けるように外れる。2回、3回と試すがやはり動く物に当てるのは難しい。
「では2枚目いきますよ――それっ!」
ブーメランが2枚、空を軽やかに舞う。
狙いを絞らせないかの様に飛び回る動きについ翻弄されてしまい――ダメ元でフリスビー風を連続して投げるが、一向に当たる気配は無く、時間は刻一刻と迫る。
額に流れる汗が伝えるかのように、にわかに焦りが胸を襲ってくる。
「考えろ……どうすれば……。
動きを『捉える』にはどうしたら……」
「――さぁ、最後の1枚……そして残り時間はあと1分です!」
さらに空高く、1番速く高く放られたブーメラン。3枚はまるで意思を持つかの様に不規則に動き回る。これらを短い時間でどう攻略するか。
オレの出した答えは――。
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