第26話 提案とダメ出し

「お恥ずかしい限りです……」


「だから言ったではありませんか、というよりいつも申し上げておりますが、勢いで突っ走らないで頂きたい。


毎度毎度始末や準備が大変なのはわかるでしょうに……全く……」


「いつも、すまんな……ウル」


会議が終わり、解散した会議室。

商会の従業員達が片付けている部屋の隅でショーニさんが叱られ、しゅんと縮こまっている。叱っているのは狼男(仮)さん、もといウルと呼ばれている副会長だ。

彼からは静かに、いや、激しく背から冷たい怒りの炎が見える。

従業員達は見慣れている様だが、鬼気迫る迫力に息を飲み、遠目から見守っていた。


「ふ、副会長、そのへんで……」


 片付けのため会議室に呼ばれていたカレンとシオンが恐る恐る止めに入る。

 彼女達に言われたからか、それとも諦めにも似た冷静さを取り戻したからか、ウルさんからふっと怒りの炎が消えた。

見るに、どうやら彼女たちが止めるのが、決まりの流れなのだろう。

ショーニさんや周りがほっと安心したかのように胸をなでおろしたかに見える。


 気を取り直した様子のショーニさんが改めて話を進める

「ではコムギさん、今後について考えや計画をまとめましょう。

まず、これからどのように魔物パンを売るのか、いわゆる販売計画はどうしましょうか?」


「はい、重要な事ですよね、どうしたらいいですかね……」


――そう。

販売計画、いわゆる『売り方』


 これはとても大切な事だ。

良いものをいくら作っても価値が伝わらなければ意味がない。

 腕の良い職人の店がみな繁盛店かと言えばそうゆうわけではない。

立地、価格、競合相手、売る時間、客送別のリサーチなどを綿密にしなければ売れないのだ。

 言い方は悪いかもしれないが、腕に自信があれはあるほど、それを過信する人、いわゆる職人気質が多いように感じる。

――だがあえて言うならば、それは間違いだ。

職人気質の人が好むのは『玄人』、だが世の中のほとんどはあらゆる分野で『素人』なのだ。そして、買ってくれるのはそんな『素人』のお客様。

ならば『わかりやすく』『手に取りやすく』を心掛けねばならない。そのためには五感に訴えかけるのが一番だ。

そして、その手段の中でも有効なのが……


「まずは貴族相手には、華美な包装などで付加価値を付けて売り込むと同時に試食会を開き、販路を拡大する。


そして同時に市民街では、包装を簡素にして店頭で販売するのはいかがでしょう?」


「概ねは理解できるのですが、貴族相手の試食とやらはなんですかな⁇」


「えっといわゆる、お試しですね。

一口サイズくらいに小さく切り分けて試しに食べてもらう。

やはり自分で体験するのが一番ですからね。

気に入れば買ってもらい、ダメでもこちらは最低限の損ですむ。

損して得とれ、という作戦です」


「なるほど……」


 感心した、という表情で理解してもらえたようだった。


「そして、市民の方には少し小さくして、誰でも買いやすい値段で販売します。

認知されてきたら、新しい味を出すとか付加価値をバリエーションを増やすも良し、儲けた利益で新製品の開発をするも良し。

最初のやり方はこんなところがいいんじゃないですかね?」


 パンに限らず、食品の売り方のセオリーの一部だが陳腐すぎたかな?

やはりただの『パン職人』が本職の商人に意見しちゃダメだよな。

その証拠に静かになってしまったもの。


「それではダメです」


――ほらね?

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