第56話 合流

ウルが母、許嫁と向き合い、これまでの事を全て話す。

そして、今の自分の事を。

2人の師に出会い、その2人と米粉を手にするためにこの国に来たことも。


「まあ…!

パンというのはそんなに美味しいのですか⁉私も食べてみたいです!」


「ええ、興味ありますね。

パンにも、2人のお師匠様にも。

お礼を申し上げなければいけませんし。

その方達は今はどちらに?」


「今は別行動をしております、私の事情に巻き込んでしまってはいけませんから。」


そう暗い笑顔で答えるウルを母が一喝する。


「いまさらなんですか。私達はすでに貴方と運命共同体なのです、あの日、あなたがいなくなったあの時から。

それを今さら誰も咎めませんよ、お父様も咎めなかったのではありませんか?

なにを悲劇の主人公ぶるのですか。

素顔の貴方で堂々としていなさい。

お師匠さまたちも同じ風にきっと言うでしょう」


母は、ふん、と鼻息を荒くし積年の鬱憤を晴らすかのように叱った。

その迫力に思わずビックリしてしまうが、その言葉がズシリと重く鋭くウルの胸に突き刺さる。


(母上には敵わないな、、。

だが、その通りだ。なにを今さら。

格好をつける必要も理由もないのだ。

当たり前の言葉だが、目が覚める想いだ)


そう考えると、ウルは今まで抱えていた胸のつかえが取れた気がした。


「ありがとうございます」


素直な、素顔の自分で2人にウルは感謝を述べた。『2人の師』にも伝えなくてはいけないだろう、急がねば。


「母上、ハナ、また後で来ます、師匠達のところに戻ります。」


言うが早いか、ウルは屋敷を後にする。

風の如く、街を駆ける。

身体が軽い。

心が軽くなったからだろうか。


(そうだ、自分はここになにをしに来たのか。なすべき事のために向き合わなくては)


そう心から強く意思を固め、2人を探す。

きっとそろそろ使者を父上が派遣するころだろう。今回の商談には必ず自分が役に立つはず、いや立って見せる。


軽くなった心と脚を弾ませ、ひたすらに駆ける。そんな彼の口元にはわずかだが笑みがこぼれていた。

_______


街を駆け抜け、城のそばにある茶屋に2人を発見する。

コムギ、ショーニの2人もウルの姿を捉えると再会の合図に笑みを交わす。2人から見たウルの笑顔には影もなく、素直な、もう大丈夫という気持ちが溢れていた。その姿にホッとする2人の師。


「さあ、ここからが本番です。

締めてかかりましょう!」


ウルは静かに燃えていた。

今までの自分を清算するために。

そして2人の師匠と皆のこれからの未来のために。

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