第63話 米粉と再開の曲がり角
「店長ーー!ウルさーん!!おかえりなさーい‼‼」
オレ達の帰りを待ちわびていたリッチが波止場から大きく手を振り歓迎してくれている。無事に到着したオレとウルは店に、ショーニさんは城にということで港でそのまま解散した。
◇◇◇
「ついに帰ってきた!
懐かしい我が家兼店、ベーカリー・コムギ!
はあーーっ!
なんだが懐かしい香りがする。やはりここが落ち着くなあ……さぁて、やるか‼」
店に着くなり、手に入れた米粉でさっそくパンを焼いてみた。ワフウでは出来なかったイーストを使って焼いてみたらどうなるかを試したかったからだ。
米粉はグルテンがないから、ふんわりさせるためにイーストで膨らませたい。そしてそれをより安定させるために湯捏(ゆごね)で生地温度を上げて作ることにする。
その出来栄えは……。
「ふわああぁぁ!
もちもち、ふんわりです‼‼
ほんのり甘くて、美味しいです‼‼‼」
「ええ‼
ワフウで食べたのより、風味はありませんがパンとしてならこちらの方が柔らかくてボリュームもあるし、なにより美味いですね‼‼」
「よしよし、上手にできたな。
あとはこれをショーニさんに相談して売らなきゃな。ちょっとひと休みしたら商会にいくか」
そう思って旅の荷物の片付けをしていたら、王様の使いが店まで来た。なんだろう、と思えば、要は「新しい米粉パンが出来たら持ってこい」とのことだ。
作ったばかりのタイミングがわかっているあたり、あの王様どこかに見張りでもつけているのか?あながちやりかねないし、可能性を否定できないあたり、不安になるな……。
「仕方ない、城に行くか」
2人に店を任せ、出来上がった米粉パンを持ち、城へ向かう。
◇◇◇
門前で衛兵さんに、王様から前にもらったバッチを見せ、中に入れてもらう。待合室で待たせてもらうとすぐ王様の執務室に通され、王様、ショーニさん、セバスの3人だけが室内にいた。なにやら重苦しい剣呑な雰囲気だ。
「おぉきたか!よく戻ったな!
今回はお手柄だったそうだな!
礼を言うぞ‼‼」
オレの顔を見るなり機嫌が良くなった王様の執務机の前にはショーニさんが立っている。
色々詳細な話を詰めていたらしく、まだ帰れていなかったらしい。
「米粉パンをお持ちしましたが、すぐ召し上がりま「もちろんだ、さあはやく!」……すよね、はい」
王様に1つ手渡そうとすると、セバスさんがシュバっと控えていた王様の横から奪い取るかの様に手にする。その動きは、もし攻撃なら相手に攻撃を悟らせないくらいの速さと思える程だった。
「…動きが見えなかった」
「ん…な……⁉」
オレと王様は驚き、背を正し、まさにこれから米粉パンを口にしようとするセバスを眺めるしか出来なかった。
「もぐ、もぐ、もぐ…もぐ……もぐ………もぐ、もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ
…ゴクン。
ふぅ……。
王様ご安心ください、毒は入っておりませんでした」
すごい勢いで食べ進め、もちもちしてたからかいつもより咀嚼していたセバスが食べ終わり満足げに伝える。
「セバス‼‼きっさまああぁぁぁぁ‼‼‼‼‼‼‼」
俺様が楽しみに食べようとしていた分を横からぶんどるとはどう言う了見だ!えぇ⁉⁉」
「…落ち着き下さい」
「落ち着いてられるか⁉
どの口が言うんだ‼どの口が‼⁉」
「この口が、ですが?
美味しゅうございましたよ。毒味はすみましたので、さぁどうぞ」
ガクンガクンと襟首を掴み揺らしながら問い詰めるいつもの光景。
「これを見ると帰ってきた気がするなあ……」
「うーん‼
これも美味い!
今までとは違う素朴な味と自然な甘さともっちりとした食感、また新しい可能性の発見だな!さすがだコムギ。
小麦粉の供給が安定するまで可能な限り米と米粉で主食の代用の目処がたちそうだ」
気を取り直して食べた感想を洩らす王様。希望が見えたのかどこか嬉しそうだ。たくさんの人に喜んでもらえそうなら良かった。
「しかしコムギにはいろいろ世話になっているな、やはり何か褒美を与えねばならん。
どうだ?なにか困り事でもよい、聞き届けよう」
「褒美、願いか……」
(いきなり言われてもな、思い付かないぞ?
うーん……)
「褒美は保留でお願いいたします。もしかしたら何か今後困ったときに御力を借りるかもしれませんから、その時に」
これからまたなにか起きり足りなくなった時にお願いできるのは選択肢として間違ってないだろう。
「よし、わかった。
なにかあれば遠慮なく言えよ?」
「その際にはよろしくお願いいたします。」
「で、だ。
折角だからな、お前達がいない間の話をしてやろう。ショーニには少し話したが、改めて子細を含めて伝えよう。
今回の小麦粉の不足は、我が国での不作も原因だが、他にも要因がある。最近やっと突き止めたのだが……ベッカライ帝国の陰謀の様なのだ」
「ベッカライ帝国?」
「そうだ、海の向こうにはワフウ、反対側にはベッカライ帝国があるのだが、その帝国が我が国への妨害工作として小麦粉の流通を止めたらしい。忌々しいやつらよ……おかげでいま国境付近はピリピリしておる」
「なぜそんな妨害をするんですか?」
「わからん、今調査中なのだが疑問に思った関係者が物流や情報を辿るとそうなるらしいのだ」
「その関係者って?」
そんな重大な事を調べるなんて余程なにかあったんだろう、思わず興味から尋ねてみる。
「我が王族につらなるオイル公爵だ、そやつには物流運搬と貿易関係の職務を任せている。その中での荷の流れに疑問を抱き、今回の報告に至ったらしい」
「そうなんですか、ちなみに小麦粉は他国からどれだけ輸入しているんですか?」
「約6割だ。我が国の土壌はあまり小麦の生産に適していないのでな……。今回米のおかげで冬越し出来るくらいの代用はできるが限界はやはりある、何か良い案はないか引き続き検討中だ」
半分以上を外国から依存しているのか、それは確かに厳しいな。オレにも責任の一端があると思えばなおさら気が重くなる話だ。
「だが米粉のおかげでかなり事態が好転しそうだからな、本当に助かった」
「お役に立てたなら良かったですよ」
隣にいるショーニさんと共に頭を下げる。
王様も話をしてスッキリしたのか、米粉パンを食べて満足したのか、少し剣呑としていた雰囲気が柔らかくなった様だった。
「ではオレはもういいですかね?
米粉パンの販売に向けて試作したいので」
「ああ、わかった」と了解を得て、執務室を出る。
(えーと、出口はどちらかな、、。
相変わらず広い城だ、迷ってしまうな。
あの角を曲がるんだったかな?)
……ドンっ‼
「あたっ!」
「キャッ!?」
「おっと!」
不意に曲がり角で誰かとぶつかる、どうやら女性の様だ。ぶつかった女性が転ばないように素早く身体を支える。思わず抱き抱えるような体勢になってしまったが許してもらいたい。
その女性は高貴な身分と一目でわかるオーラと装飾品を身に纏っていた。芯の強さを感じられるような眼差しだが、今はそれよりは驚愕の表情の方が先に見てとれる。
「大丈夫ですか、すみません。
お怪我はありませんか?」
「いえ…大丈夫です、こちらこそ申し訳ありませんでした」
と2人ほぼ同時に平謝りする。
そして顔を上げると至近距離で見つめ合うような形になる。
「っ‼⁉」
と女性が口元を押さえながら、先程とは違う戸惑いを含んだ驚愕の表情になる。
「まさか…こんなところで……」
「えっ?」
「再びお会いできて嬉しいです、コムギさん!」
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