キリキリ My 胃

 マスオさんも、もしかしたら見えない所では波平にローを食らっているのかもしれない。

 顔は止めな、顔は。

 ボディも止めな、ボディも。

 だからこそのロー。

 毎日の満員電車で疲労したマスオさんの足を更に腫らす死神の鎌。それが波平キック。

 だが、マスオさんもやられてばかりでは無いだろう。波平の遺伝子を受け継いだ次代の最強たる男、カツオに稽古を付けられ、立ち上がるのだ。

 それこそが『史上最強の夫 マスオ』のストーリーだ。


「……」


 と、天気が良かったのでそんなことを考えてみた。


「……熱すぎるな。温めるだけのレトルトパウチすらもまともに作れないとは――」

「お前は白いからな。少しでも温めてやろうと言う『嫁』の思いやりだ。お前の息子であるトウジの『嫁』であるおれのなっ!」

「嫁? はて? お前は友人だろう? 知らないのか? 男同士で結婚は出来ないぞ?」

「……おいこら、どういう意味だ?」

「あぁ、そうか。失礼した。お前は一応、女だったな。いや、トゥースだからメスか? 背中を見ていたから気が付かなかった。すまんな」

「……」

「ん? 何だ、しっかりと前を向いているじゃないか。すまない。私はそう・・ではないのでな。気が付かなかった」

「――~~っ!」


 天気が良いからそんなことを思ったのだ。

 決して目の前の光景、ベッドで身体を起こす女性と、その傍に立つ女性のやり取りは関係ない。

 そう。そうだ。『あ~肩凝るわ~、特に理由は言わないけど肩凝るわ~、凝らない人が羨ましいわ~』とかやってるユーリと、そんなユーリに『うぎぎー』となってるイービィーは関係ない。そんな二人に『嫁姑問題』とかいう言葉を連想していない。

 無いので、僕がここに居る意味は無いですね。ユーリの経過も順調そうなので、僕はアレックスのお見舞いに行きます。

 そんな分けで回れ右。僕は踵を返して歩き出し、歩き出、歩き――出せない。何故だろう? おかしいな? 誰かに腰を掴まれてることに関係があるのだろうか? 離してはくれないだろうか?

 そんな気分で抗議の視線を送ってみる。


「トウジ、言ってやって! アイツにおれの魅力を言ってやって!」


 イービィ―が半泣きだ。どうしよう?

 半泣きで『おっぱいだけが魅力じゃないって言ってやって!』と言っている。本当にどうしよう?


「あぁ、来たか。トウジ、背中の汗を拭いてくれ」


 そしてユーリが特定部位を持ち上げて強調しながらそんなことを言っていた。


「……」


 イービィーでは不可能なその芸当に思わず視線が奪われる。


「……イービィー」

「――」

「足が痛い」


 踏むのを止めてくれないだろうか? と、僕。


「何でアイツを連れて来たんだ!」


 と、イービィー。

 溜息一つ吐き出して、頭をがりがりがり。

 何度説明したかも分からない。だが、毎度毎度、イービィーがこうしてだだを捏ねるので、その度に説明している言葉をもう一度言った。


「身代金の為です」


 だから納得してください。と、言うか毎度毎度喧嘩するなら近寄らなければ良いのでは無いでしょうか?


「それは敗者に対する辱めだ! 敗者はちゃんと殺してやるべきだ!」


 だと言うのに『うー』と唸りながら物騒なことをのたまうお嬢様は隙を見てはユーリにちょっかいを掛けては、こうして反撃を食らっている。

 潔い、と言えば聞こえが良いが、単純、と言ってしまった方がしっくりくるトゥースと言う種族は口喧嘩があまり強くないらしい。


「ふむ。成程、道理だ。ところで、トウジ? 私が前に聞いたソコのソレとの出会いを確認させてくれ。確か、お前と戦って――ソレはどうなったんだったかな?」

「~~!」


 現に今もあっさり言い返されている。


「痛い、止めてくれ」


 そして言い負かされた腹いせに僕の背中をバシバシ叩いてくる。

 そして突き付けられる無茶な要求。


「言い返して!」

「僕も口喧嘩はあまり強くないので」


 無理です。

 言いながらお見舞いのリンゴを取り出し、周囲を軽く見渡す。ルドがおこぼれに預かろうと付いてきたが、僕のモノズ達は一機もいない。最近、何故か彼らを見掛けない気がする。「……」。ストライキだろうか? だとしたら拙いな。近々、戌号か子号を捕まえよう。

 グレーの小型モノズ、ユーリのダイコンが居たので、手招きして呼びつけ、リンゴを口に入れる。二秒立たずに口が開き、剥かれて切られたリンゴが出てきた。皮と芯をルドにやった。貰うものを貰ったので、もう用は無い。皮はその場で食べきり、芯を咥えて寝床へとルドが立ち去って行った。ずるいな。


「どうぞ」


 と、ユーリに差し出す途中で、皿の上から一切れが奪われる。

 病人に出したはずのソレは真っ先にイービィーの口に入っていった。


「――」

「――」

「……その程度でにらみ合うのは止めて貰えないでしょうか?」


 どうしてそこまで仲が悪いのか。そう小一時間程、問いただしたい。いや、めんどくさいな。止めた。


「トウジ、食べさせてくれ」

「いやですよ。自分で食べて下さいよ」

「私は腕がコレだろ?」


 中身のない左の肩を持ち上げて見せるユーリ。


「その腕でも平気で日常生活送ってるじゃないですか」


 僕は言いながら、それでも口を開けるユーリにりんごを差し出してやる。しょり、と音。「ふふ」と笑うユーリは満足そう。「……」。無言で袖を引かれる。視線をそちらに向けてみれば、イービィーが小鳥の様に口を開けていた。僕は無視をした。


「トウジ」

「……」

「かむよ?」


 噛まないで欲しい。止めて欲しい。皿を横にずらし、イービィーの前へ。


「おれにも食べさせてくれ」

「……君は別に不都合は無いだろう」

「そいつには食べさせたじゃないか!」

「ユーリは……まぁ、仕方が無いだろう」


 人質だし、隻腕だし、一応、母親だし。


「おれとユーリ、どっちが大事なんだ!?」


 はっはっは。

 何だコイツ。めんどくさい。


「どっちも大事にきまっているじゃないカー」


 棒読みでそんなセリフが出た。


「ばかっ!」


 結果、背中を思い切りはたかれた。トゥースの膂力で、だ。凄く痛い。涙が出た。犯人を睨みつけようと思ったら、逃亡済みだった。酷い話だ。


「トウジ、嫉妬深い上に直ぐに暴力をふるう女は最低だ」

「本当にそうですね」

「私ならあんな真似はしないぞ?」

「……」


 何を言っているんだろう? そんな気持ちで、ベッドの上のユーリを見る。

 ユーリは真っ直ぐに赤い瞳で僕を見ていた。


「まぁ、返事は私がいる間にしてくれ」

「いや、今しておこう」

「ほぅ?」

「僕は鈍いらしいので」

「……」

「アレ位でちょうど良いんですよ」


 肩を竦めて、ごめんなさい。

 アレはアレで可愛い所もあるから、まぁ、良いのだ。

 五分後。ユーリの部屋から出る。背後に、とす、と衝撃。小さな誰かが、頭をぐりぐりと僕の背中に押し付けて来た。


「……」


 僕は何も言わずに、分かりやすくて、可愛らしい彼女の好きにさせた。







 この時代、敵対勢力の傭兵を捉え、更にそれが人間かトゥースだった場合は、もう一稼ぎするチャンスがある。

 身代金だ。

 捉えた相手の所属先にメッセージを送る『お値段、これだけで貴方の所の兵士を開放しますよ』。そうして交渉の席を設けて、お金と人質を交換する。


「……」


 そんな分けで僕は今、手錠をしたアレックスとユーリを背後に控えさせてドギー・ハウスの個室に居る。

 酒場部分での交渉は止めておけ、と言うのがポテトマンの言葉だ。

 最初、僕にはその言葉の意味が良く分からなかった。

 遠い所、御足労ありがとうございます。それでは事前に話していた金額で交換しましょう。はい、お終い。

 それが僕のイメージしていた交渉の流れだからだ。

 身代金だって吹っ掛けていない。小金が稼げれば良いや、位の気持ちだったので、英雄クラスであるユーリですら百万Cで抑えておいた。

 正直、タダでも良いくらいだ。

 僕はタタラ重工系列の会社に喧嘩を売り過ぎた。ここらで一度、身を軽くしたい。だから正直、値切りにも応じる気でいた。

 だが――


「……すみませんが、もう一度」

「はっ、では――」


 目の前の四角い眼鏡を掛けたオールバックの黒服――ダブC側の交渉人が、硬い口調で言う。


「アレックスに関してですが、弊社は貴方との取引には応じません」

「……」


 これだ。

 ふー、と大きく息を吐き出し、目頭を揉む。

 少し時間を稼ぎながら、思考を奔らせる。

 え? 何で? アレックス、要らないの? 駄目だ。分からない。もしかして言語体系が違うのだろうか?


「金額の交渉であれば――」

「代わりと言っては何ですが、弊社のエースであるユーリに関しては十倍の金額をお支払いさせて頂きます」

「……」


 十倍。一千万C。

 つまり、交渉人はこう言っている


「お金の問題ではない、と?」

「はい。私共と、貴方のメンツの為です」

「?」


 ちょっと良く分からない。

 僕は軽く小首を傾げながら、視線で先を促した。


「今回、アレックスとユーリを殺さなかったのは何故でしょうか?」

「僕は平和主義ですので。無用な殺しはしませんよ」

「……」


 目の前の交渉人が凄く良い笑顔になった。コレは駄目か。駄目だな。だったら正直に言っておこう。


「知り合いだったからです」

「ハウンドさん、それは甘さと取られます」

「……成程」


 その程度で助かるなら――と、すり寄ってくる奴がでそうだな。

 親戚とか親友が増えそうだ。


「だからアレックスを見せしめにしろ、と?」

「まさか! そんな勿体ないことをするわけが無いではないですか!」


 勿体ない。勿体ない、か。

 その言葉がでると言うことは、目の前の交渉人は利益で動くタイプなのだろう。そう思う。


「ハウンドさん、弊社、若しくはタタラ重工での貴方の立ち位置はご存知ですか?」

「多分ですが、嫌われてますよね?」

「控え目に言って」

「……悲しいことです」

「えぇ、本当に」


 僕の言葉にさして悲しくもなさそうに、笑顔で交渉人。


「そこで私共からの提案です。仲良くしましょう」

「? 握手でもしましょうか?」

「折角ですが」


 それは結構です、と交渉人。


「職人組合は貴方が所属することで、アロウン社は血の繋がりを持つことで、良好な関係を築いていますね?」

「はい。そしてタタラ重工はスリーパーの子供たちを奴隷として使っていたことから割と敵対的な関係になっています」

「……失礼。それはどこの組織でも行われておりますが?」

「僕の視界の中でやらないで下さいよ」


 見えないなら、聞こえないなら、無視をしよう。

 見えて、聞こえてしまったのなら仕方がない。


「……未来の話をしましょう、ハウンドさん」

「是非に」


 平行線の議論に意味は無い。僕と交渉人は早々に過去の話を忘れることにした。


「弊社は人材の供給と言う形で貴方――いえ、貴方達との関係を持ちたいと思っています。調べさせて頂きました。子供達の自立を促すために教育に力を入れているそうですね?」


 つまり――


「弊社の教導隊をインストラクターとして派遣させて頂きたい」


 にっこり笑う交渉人。


「秘密商社、アバカスの指示ですか?」


 その眼鏡の奥の瞳が、僕一言で、ゆらりと揺れた。












あとがき

ソロモンよ私は帰って来た!!

徒歩で!! 嘘です!!


メキシコへ出発前に空港でソシャゲの詫び石で10連ガチャを一回引きました。星5がでました。

呼符を六枚使って単ガチャを引きました。星5が出ました。

それを見ていた先輩が言いました。


「お前飛行機替えろ」



そんなトラブルがあった程度で無事に帰ってこれました。

と、言う分けで更新再開します。

またお付き合いくださいませー。


ただ、ちょっと時間は安定しない、かも、です。

出張中よりも、下手すると出張後の方が忙しいのです。


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