えいゆうのおはなし

本日は二話同時投稿(2/2)







 あるところに、一人の男がいました

 男はむかし、むかしの時代からやってきたスリーパーでした

 彼には過去がありません

 彼には記憶がありません

 そんな彼を今の時代の人たちは奴隷の様にあつかいます

 危ない仕事をやらせます

 彼は何度も死にそうになりました

 それでも彼は生き残ります

 モノズがいたからです

 生き残った彼は、自分と同じような人達、特に子供達がいじめられているのをみつけてしまいます

 優しい彼はそれが許せません

 彼はそんな子供達の為に戦うことを決めます

 まえよりも沢山、危ない仕事をやりました

 だから、前よりも沢山、死にそうになりました

 それでも彼は諦めません

 少しだけ

 少しだけ、彼は子供達よりも“お兄ちゃん”だったのです

 頼られたので彼は頑張りました

 何時しか、彼に助けて欲しいと言う人がたくさん、たくさん、現れました

 彼はその全部を助けようと頑張ります

 その中には彼を奴隷のように扱った人もいました

 それでも彼は気にしません

 たくさんのわるいやつをやっつけました

 たくさんのバブルをやっつけました

 たくさんのインセクトゥムをやっつけました

 いつからか、彼は“英雄”と呼ばれる様になりました

 そうしてある日、大きな戦争がおこりした

 彼は皆のために戦争に行きます

 彼は強い傭兵でした

 そんな彼でも負けてしまう、大きな、大きな、戦争です

 たくさんのモノズと、それよりもっとたくさんの敵に囲まれ、彼は諦めました

 その時です

 後方から味方の攻撃が来ました

 それは一発の弾丸です

 その弾丸は彼に襲い掛かろうとした敵を撃ち殺します

 誰かが彼を助けようとしていました

 誰かは彼と同じ部隊の傭兵でした

 彼と同じスリーパーで

 彼と同じように誰かの――今は、彼の――為に戦える傭兵でした

 その時、彼は気がつきます

 自分だけが“英雄”ではないのだ、と

 彼は死んでしまいました

 それでも大丈夫だ、と彼は思いました

 だってまだ“英雄”は居るのです

 彼が居なくなっても、誰かが

 誰かが死んでも、別の誰かが

 誰かの為に戦う誰かが居るのです

 彼は死んでしまい、彼を助けようとした誰かも、やっぱり死んでしまいます

 それでも

 この世界の何処かに誰かの為に戦う優しい誰かはいるのです








「――おしまい」


 夜、ベッドサイドのランプだけが室内を薄く照らす中で、ぱたん、と金色の髪の彼女は絵本を閉じた。

 そして、ゆーっくり、と横を向く。

 そうすると、同じようにこっちをゆーっくりと見る女の子が居た。

 彼女に良く似た仔猫の様な瞳。そこには微塵も眠気は無く、とてもぱっちりしていた。


「……」

「……」


 しばし、母娘が見つめ合う。先に口を開いたのは娘の方だった。


「おかん」

「おかんって呼ばない、ママって呼びなさい」

「ねむくない」

「……そうみたいだな」


 知ってる。と、彼女は呟く。

 何故だ? 何故眠らない。今日は、今晩は、早く寝て欲しい。そんな思いから昼間の内に四人の我が子を走り回らせ、夕飯をたっぷり食べさせ、お風呂で温めたあとに布団に放り込んだと言うのに、何故、この娘だけが眠らない?

 いや、理由は明らかだ。

 他の兄弟と違い、この子は走り回った後に昼寝をしていた。

 何故に子供は全力で走り回るのか? 電池切れ寸前まで遊ぶのか? 何故、自分はいくら寝顔が可愛くとも「夜眠れなくなるよ」と起こさなかったのだろうか?

 そんな疑問が浮かぶが、答えは出ない。

 まだ字が読めない癖に、絵本を読んで、「なるほど」と父親の真似をしている我が子は完全に体内時計が狂い、確実に深夜まで起きている気がする。


「もーっ! 何で寝ないの? 絵本読んだら寝る約束だったぞー!」

「でも、ねむくないもん。ねむくないんだから、しかたがないよ」

「仕方なくないっ!」


 今日は、今日だけはっ!

 早く寝て欲しかったのにっ!


「おかん、したのへやからカラカラおとがする。どろぼうかもしれんよ?」

「ん? ハムが遊んでる音だ」

「ろっきー……ろっきーはおきててもいいの?」

「ハムだからな」

「ずるいな、ろっきー……おかん! ちゃんとしかって! ろっきーもちゃんとしかって!」

「はいはい、明日の朝なー」


 適当な返事をしながら、暴れ出す娘を他の子供から隔離した。駄目もとで布団をかぶせて、ぽんぽんと宥めてみつつ、彼女は時計を確認する。

 ただいま、午後十時。

 いつもならば大体、十二時位に帰ってくるから――猶予は残り二時間!

 眠らせる。絶対に、絶対に眠らせて見せる!

 そんな決意を燃やしていたから出遅れた。

 がちゃっ、と小さいながらも家全体に聞こえる音が響いた。玄関が開く音だ。


「むっ、くさもの!」


 小型ミサイルがソレを聞きつけ、ベッドから転げ落ちると、一目散に駆け出した。寝室のドアは開け放たれ、電気をつけたのだろう。廊下の明かりが入り込んでいた。「――」。眠っている子供の内の一人が、迷惑そうに顔をしかめたので、慌てて扉を閉める。

 これ以上は、これ以上は起こしてはいけないのだ。

 下の部屋からきゃいきゃいとはしゃぐ声が聞こえている以上、もう手遅れかもしれないけれども。それでも、それでもおれは諦めない! 今夜をっ! 力強く拳を握ってみた。


「おかえり」

「……ただいま」


 部屋に入ると、中腰のまま固まる夫と、犬にじゃれつく我が子がいた。

 笑顔で走り寄ってきた可愛い我が子を抱きしめようとしたのだろう。だが残念。我が子の目的は汗臭くて、無精ひげが生えている仕事明けのパパではなく、可愛い愛犬だった。

 眼にかかる傷を持った犬はその乱暴な歓迎に一応、喜ぶように尻尾を振っていた。


「おかん、おふとんにいれてもいい?」

「……」


 良いわけが無い。

 コーギーの抜け毛の量を何だと思って居るんだ?

 そんな考えが彼女の頭に浮かんだが、咄嗟、笑顔を造る。


「それでちゃんと寝るか?」

「ちゃんとねる!」

「本当に?」

「ほんと!」

「ならよし!」


 彼女のその言葉に、わー、きゃー言いながら胴長短足犬を引き連れ、女の子が走り去っていった。


「……あの、僕とも一応、一か月越しの再会なのですが?」


 僕、見えてますよね? と確認して来る夫は何時まで中腰なのだろう。


「まぁ、お前と比べると犬の方が可愛いから」

「……色々と納得がいかない」


 左足は機械だった。左目も機械だった。左腕の肘から先は少し肌の色が違う。再生の際の影響だろう。

 取り敢えず、そんな夫の腰を蹴り飛ばし、高さを自分専用に合わせて、その胸に飛び込んだ。


「おかえり」

「それはさっきも聞きましたが?」

「それだけおれが喜んでいるということなんだ。お前はもっとおれに優しくしろ。そうでないと――」

「そうでないと?」

「また一年くらいいじめるぞ?」


 思い出したのは、結婚前の出来事。ケガも治りきらぬこの男に我儘を言って困らせた記憶。だって仕方がない。酷いことをされたのだから、あれは仕方がない。


「それは、困りますね」


 何処か甘い思い出の自分に対して、彼の方は純粋に苦い思い出のようだ。嫌そうな声をだし、『そう』ならない様に強く抱きしめてくれた。


「……今度は、どれ位、家に居られそうなんだ?」


 できれば家に居て欲しい。

 だが、彼のやっていることに理解は出来る。友人の、或いは英雄たちの為に、彼は今も戦線に立ち続けている。


「……戦線を押し上げるのに五年かかった」

「?」

「で、そこから核の探索に更に五年だ」

「……」

「君と彼も十年ぶりの再会だろう」


 一歩、彼がズレると、その背後から小型のモノズが転がって来た。

 その後ろには大型、中型、小型の十一機のモノズが居る。

 転がって来たモノズは、足元で止まると『ひさしぶり』と言う様に瞬きをしてみせた。


「漸くだがいつものイカレタメンバーが勢ぞろいだ。これからも行かなければならないが――多少は時間が造れそうだよ」






あとがき

良い子の絵本「えいゆうのおはなし」はフィクションです。

でも愛犬にも負けるパパはそのモデルになった英雄かもしれません。

強かったから頼られ、戦い、友を失い、それでも戦友との約束を果たす為に生き残り、そして友を取り戻した。

そんな目つきの悪いスナイパーかもしれません。



と、言う分けで完!!

長かった! 本当は夏休み前に終わらせるはずだったのに!

……いや、大丈夫。ポチ吉の夏休みは十二月にずらされたので、まだ夏休み前です。


ネット小説でファンタジー以外が読んで貰えると思うなよ


友人からそんな心無い言葉を言われながら書き始めた作品ですが、想像よりも多くの人に読んで頂き、そして評価して頂き、なんとか完結にこぎつけられました。感謝っ!


これにて猟犬トウジの話は完結です。

本当に、最後までお付き合い頂き、感謝しかありません。

同世代の別の犬(番犬)や、次世代の猟犬(非息子)の構想はあるものの、一区切りです。

書くとしても、一年近く、この作品書いてたので、間に何かはさみます。

もし、またDoggy Houseの話を上げた際もお付き合い頂ければ、幸いです。

ブクマ、感想、評価、レビューなど頂けると励みになりますので、よろしけレバー。


最後に業務連絡。

ネタばれも何も無くなったので、明日、用語集の方も上げます。

ラーメン屋の行列に並んでいて死ぬほど暇なときなどにどうぞ。


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